第九話 農村からの参拝者たち

前回のあらすじ

 ナブリアは瞑想を通してイシュタルに問いかけ、自分の役目について啓示を求めた。まだ答えは見出せなかったが、女神の御心に適うよう精一杯生きていこうと決意した。祈りの後、ラビアはナブリアの元に駆け寄り、ナブリアの使命達成を共に祈ったと伝えた。ナブリアは友の言葉に感謝した。



 ナブリアは、ラビアとともに大広間の入り口へと足を進めた。今日も遠方から多くの参拝者が訪れることだろう。二人は入り口付近にたたずみ、粛々とした面持ちで参拝者を迎える準備を整えた。


 やがて、麦束を手にした一団が神殿の中へと入ってきた。彼らは質素ながらも、丁寧に身なりを整えていた。上質な亜麻布で仕立てられたチュニックは膝下まで伸び、その上には鮮やかな色合いの羊毛の上着を羽織っている。


 参拝者たちのたたずまいから、イシュタルへの篤い信仰心が感じられた。ナブリアは心を込めて一礼すると、礼儀正しく歓迎の言葉を述べた。


「皆さま、ようこそイシュタル神殿へ。遠いところから来ていただき、ありがとうございます」


 ナブリアの言葉に、一番年長とおぼしき農民が前に進み出た。彼は手にした麦の束を取り出して見せると、深いしわの刻まれた顔に満面の笑みを浮かべてナブリアに語りかける。


「神殿のお嬢ちゃん、ほれ、この麦を見ておくれ。こんなに素晴らしい麦が育ったんは、すべてイシュタル様のお導きのおかげなんだよ」


 そう言って差し出された麦は、たわわに実り、豊かな収穫を象徴しているかのようだった。もう一人の農民も誇らしげに麦束を掲げて言う。


「イシュタル様には、心の底から感謝してるんだよ。来年も、その次の年も、このような恵みが続きますように。そんな思いを胸に、ここ神殿まで参ったんだ」


 そう言って彼は深々と頭を下げた。


 ナブリアは、イシュタルの御業に心打たれていた。目の前の麦束に象徴される豊かな実り。それはすべて、女神の慈愛と加護の賜物に他ならない。


 イシュタルに仕える神官として、そのことをかみしめる。自分は、そんな尊い存在に仕えているのだ。それを思えば、自然と背筋が伸びる思いがした。


 ナブリアは微笑み、真摯な面持ちで農民たちに語りかけた。


「イシュタルは必ずやあなた方の想いを聞き届けてくださるでしょう。どうかこれからも、大地に種をまき、女神への信仰を持ち続けてください」


 ラビアも力強くうなずく。


「そうですよ! イシュタル様は皆さんの味方です。一緒に女神にお祈りしましょう。そうすれば来年の豊作は間違いなしですから!」


 ラビアの明るくも確信に満ちた言葉に、農民たちは感銘を受けた様子で何度もうなずいている。


 すると、先ほどの年長の農民が、麦束を差し出しながら言った。


「この麦を、イシュタル様にお納めしたいんだ。私たちの祈りが女神様に届くように、どうかお願いします」


 ナブリアは静かに微笑み、丁重に麦束を受け取った。


「ありがとうございます。イシュタルはきっと喜んでくださいます」


 そう言って、ナブリアは農民たちを祭壇の前まで案内した。麦束を供え、皆で心を込めて祈りをささげる。


 祈りを終えると、ナブリアは一人ひとりの農民に感謝を述べ、豊穣ほうじょうの加護があるようにと祝福の言葉をかけた。農民たちは晴れやかな表情でナブリアとラビアに手を振り、神殿を後にしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日曜日 08:03 予定は変更される可能性があります

イシュタルの巫女見習い、バビロンへ旅立つ マジック使い @True_magic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画