8.大戦争への分岐点
「当列車は運転間隔調整のため、サラエボ駅にしばらく停車いたします。第二次世界大戦駅周辺で、戦車隊同士の戦闘が発生しております。枢軸国側の戦車隊が全滅するまでしばらくお待ちください」
目の前をオーストリア皇位継承者夫妻の乗った車が通り過ぎる。第一次世界大戦と第二次世界大戦の大戦争の災禍の直接の起点である。あの車を止めれば大戦争は回避できるのだろうか?
ケンジが席を立とうとすると、ベータがその動きを制止した。
「ケンジさん。あなたが何を考えているかわかりますよ。変な考えは起こさない方がよいです。危険です」
ケンジは答えた。
「あの車。わかりますか?あれはオーストリア皇位継承者夫妻の車で、これから銃撃を受けるんです。その後、世界はとんでもない大戦争に陥ります。それがわかってて傍観してよいのですか?」
ベータはなおも制止した。
「ケンジさん、あなたの正義感は理解できますよ。でも、物事はそんなに単純ではありません。ちょっとした行動が思いもよらない結果をもたらすこともあるでしょう。お願いです。列車にとどまってください」
「軽率かもしれませんが、私は悲惨な現代史を少しでも良くしたいと思っているんです。忠告ありがとう」
ケンジは列車外に飛び出した。
「お客様、危険です。第一次大戦では、毒ガスが使用されますので、防毒マスクをお持ちください」
乗務員が後ろから声をかけたが、ケンジの背中は遠ざかっていった。
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