15.セイカン

 病室で私は意識を取り戻した。窓の外は明るく、朝を迎えている。何か長い夢を見ていたかのようだ。AIエージェントが近づき、合成音で話かけて来た。

「おはようございます。ケンジさん。ご機嫌いかがですか?簡易メディカルチェックの結果をお伝えします。体温正常。血圧正常。PCR検査正常。脈拍正常。睡眠時間は10時間。健康状態に問題ありません。朝食は何になさいますか?」

 窓の外では鳥がさえずった。遠くの海ではクジラが潮を吹いていた。

「朝食はニシンかタラのスープとパンでお願いします」

 ケンジはAIエージェントに返答した。


 その頃、未来宇宙トラベル社の幹部ミーティングでは、閉鎖環境試験の合格者のリストが決裁を受けているところであった。

 理事長がリストを見ながらコメントをしていた。

「まあ、直前でテーマを入れ替えるというのは、ストレステストの一つで仕方ないんだけど、個人的にはね、『山手線の線路上を私鉄の電車が相互乗り入れする』というプレゼンが気に入っていたんだよ。ちなみに、『鉄道』なのにレールが『鉄』じゃないよねと言ったけど、特に深い意図はなかったんだよね。まあ、ともかく、私が期待した人物たちが入っていて本当によかったと思う」

 何の軌道もなく、漆黒に包まれた宇宙旅行に向けた準備が、たったいま始まろうとしていた。

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輝ける未来に向かって 乙島 倫 @nkjmxp

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