サメハンターJ

スロ男

青い男


 逃げまどう村人。阿鼻叫喚。飛翔鮫フライングシャークが結界を越えて雪崩れ込んできたのだ。その数、ゆうに百以上。

 急降下し、女の頭を噛みちぎり舞い戻る鮫。

 低空飛行で薙ぎ払うように人の命をもて遊ぶ鮫。

 グルメなのか、まだ幼い子供を狙い澄ましては噛み付き、まるでうっとりとしたように味わっては次を物色する鮫。

 さながら地獄だった。

 そこへ、青白い顔をした、全身青に染まった男がいた。虫除けの染物を好んでるからなのか、深く被る帽子すら青い。

 右往左往する村人と違い、その男はただ立っている。茫然としているようにも見えるが、何かを待っているようにも見える。手には何か車輪のようなものを持っていた。

「なにやってんだ、あんたも早く逃げろ!」

 叫んだ男を、嘲笑うかのように滑空してきた鮫があぎとに捉え——

 るか、に見えた瞬間、青の男の手にあった輪は解け、伸び、鮫へと巻きついた。

 男は不動の姿勢のまま、腕だけを使い鮫をとらえ、ぐいと引き寄せ、腕だけを振って鮫のを宙へと戻した。

「うひゃあ!」

 村人は目の前に落ちた鮫の頭に悲鳴をあげ、おもむろに青い男をまじまじと見た。

「あんた、一昨日やってきた旅人だよな……一体、何を」

「無駄口を叩く暇があるなら逃げろ。逃げる場所があるのなら」

 青の男は、ぼそりと言った。



 この世界の支配者は、いまや人間ではない。鮫だ。かつて海の支配者だった鮫は、空へ、陸へと進出し、あっという間に人類を半減させてしまった。

 飛翔鮫フライングシャーク二足鮫ウォーカーシャーク土龍鮫トレマーシャーク、それ以外にも様々な鮫がいまや世界を席巻していた。

 残された人類は、肩を寄せ合って生きている。飛行機も船も使えず、かろうじて二輪や四輪で陸路だけは確保したが、数は少なく、また燃料も貴重だ。

 その貴重な二輪を駆って、青の男が村を訪れたその日、まだ村は平穏な活気に溢れていた。

「見慣れない顔とは珍しい、あんた行商か何かかい? それにしては荷物も少ないようだが」

 門番に首を振り、ぼそっと「旅人だ」と答えると、

「ははっ、あまり面白くないジョークだ」

 ぽん、と肩を叩いて村へといざなわれた。

 鮫以外なら、人は誰でも人を受け入れる。好意的に迎えてくれる。なぜなら人は仲間で、敵は鮫だからだ。



 結局、飛翔鮫の襲撃——いや蹂躙は一時間ほど続いた。およそ二百名はいたはずのこの村の住人は、いまや百に欠けていた。だが、

「あんたがいなければ、この村は全滅していたでしょう」

 震える手を伸ばし、村長代理の老婆が青の男の手を取ろうとして、やめた。

 そういうのを好む性質タチではないと、すぐに気づいたからだった。今時珍しい、接触コミュニケーションを好まない男。

「すまない」

 男は言った。

「手袋を外さず握手するのは無礼だが、手袋は外せない」

 うんうん、と老婆はうなずいた。

「おじちゃん!」

 少女がトレイにパンとスープを載せて小走りにやってきた。

「食べて食べて!」

 男は片膝をついて少女からトレイを受け取った。

「ありがとう」

「ありがとうはあたしの方よ!」

 ウインクして去っていく少女へ向ける眼差しは、少し憂いを帯びていた。


 結界が壊れてしまったのであれば、もはやここは人の住める土地ではない。さりとて、行くあても行くための手段もない。外世界そとは二足鮫が闊歩しているし、砂を割って現れる土龍鮫もひしめいている。そして空には飛翔鮫——

 ところが村の技術者のひとりが大慌てで戻ってきていうには、結界は壊れていなかったらしい。それはそれで、いや、それこそ大問題だ。

「なあ、あんた、何か知らないか?」

 技術者が青の男に問う。

「あんたがここに来たのには何か理由があるんだろ? 関係ないはずがない!」

 強い響きだったが、技術者は冷静なようだった。青の男はまんじりともしなかった。技術者が小さく溜息を吐いた時、

「——結界が機能しなかった理由はわからない。いや、多分結界はちゃんと機能しているんだろう」

「ならなぜ?」

「結界は、結局、奴らの嫌いな音やら何やらを放出して近寄らせないためのものでしかない。元々酷い飢餓状態にある鮫には通用していない」

「確かに、月に一度くらいは強行突破してくる鮫がいる。しかし」

「そのぐらい結界は強力なんだ、生存本能が脅かされでもしない限り、近寄らない」

「待ってくれ、それは」

「あれだけの数の鮫が動くということは、それほど怖い何かにそうさせられた、と考えるのが妥当だろう」

 技術者は頭を抱えた。そんな生物が——いや、鮫が存在するというのか?

「俺は、そいつを待っている」

 青の男は、ぼそりと言った。


 鮫に対抗しえたのは青の男だけではない。村の自警団にも、投石や刀などで鮫を絶命させたものはあった。

 だが全滅できたわけではない。

 どころか、精々三〇ほどの鮫を息絶えさせただけだった。一時間で奴らが撤退したのは、当初からの作戦か、もしくは謎のボス鮫からの命令だったのだろう。

 鮫は人語を解さないが、連中同士では不思議なネットワークでコミュニケーションを果たしている、というのはだった。

 意志があろうがなかろうが、人類にとってはどうでもいい。問題は、奴らは人とは違う行動原理を持っているということだった。

 それが村人を怯えさせる。

 いつまた鮫どもが襲来するか、読めない。夜を待たずして襲ってくるかもしれない。

「大丈夫だ、奴らはまだ来ない」

 青の男が言い、村人は素直にそれを信じた。彼等は純朴ではあるが、馬鹿ではない。鮫を殺す技術に長けた人間が、確信めいた声音でそう言ったことを信じたのだ。

 倒壊した家も少なくない。が、無事な家の数は生存した村人を収めるには充分だった。青の男は初めてわがままらしきことを言った。それは、独りにしてほしいということ。

 元々、使われなくなって久しい、外れに近い家を貸し出されていて、そこは無事だったのですんなりと通った。食事を持ってきた少女だけが、うちに泊める! とうるさかったぐらいか。


 独りの家で、青の男は装備を改める。ボウガンも、特殊な加工の施された矢も、それから最初に飛翔鮫を仕留めた鞭もゴザの上に並べられていた。

 そこへ、唐突に地震めいた揺れがあった。

 男は微動だにしなかった。

 手に武器を取ることもしない。

 一際激しく揺れがあり、土間にひびが入った。割れた。突き出したのは、鮫の頭部だった。土竜鮫トレマーシャークだ。

 海面を飛び上がる鮫のように跳ね、そして二本足で立った。

「ダンナ」と鮫は言った。

 ぺちゃり、ぺちゃりと粘液質の音を立てながら鮫は男の背後に立ち、斜めに傾いだ。

「ダンナ?」

「どうして来た。結界には空も地もない。キツかったんじゃないか?」

 背を向けたまま、道具を手入れしながら男は言う。

「そりゃあキツかったスよ。でもダンナに伝えたいことがあって」

 鮫の喋りはことのほか流暢だったが、声はスピーカー同士を向き合わせた時のような、耳心地の好くない高周波めいたものだった。姿もけったいで、鮫というより魚人マーマンといった風情。通常の土竜鮫とは著しくシルエットが異なっていた。

「わざわざすまんな。で、どうした?」

「来ますよ、あのお方が。おそらく、太陽の昇る前」

 男が身動ぎして、振り返ろうとしたとき、戸をノックする音があった。

 トントン、トントン——

「すまない、入らせてもらう」

 男のいらえを待たず、戸は開いたが、そのときには鮫は再び地へと潜っていた。


 入ってきたのは女だった。妙齢というには少しが立っている。だが、村人にしては肉づきがよく、男好きのする躰をしていた。ややサイズの小さいツナギが苦しいのか大きく胸元が開いている。だが媚びの気配はなく、むしろ厳つい気配を漂わせていた。

「何か用か?」

 男は大きく伸びをして、女の方へ向き直った。

「礼を言いにきた」

「なぜ? おまえは勇敢な戦士だった。自力で生き残れたのはおまえと、あとふたりか三人か」

「娘を助けてくれて、ありがとう」

 厳つい気配は消えていた。深く頭を下げる女に、男は初めて口許を歪めた。苦笑だ。

「おまえの娘とは知らなかった。似てないな」

 女も破顔した。

「あれは父親似だからな。あたしと違って

 後ろ手にしていた瓶を突き出し、女は言った。

「酒だ。辛うじて割れずに残ってたのを持ってきた。飲まないか?」

 男は首を振った。

「申し訳ないが——」

 女は、男のすぐそばにどっかと腰を下ろした。

「わかった、なら勝手にらせてもらう」

「なぜ、ここで飲む⁉︎」

 男は狼狽した。鮫と対峙したときにはまるで見られなかった、大きな動揺。

 瓶の口から直接ぐいっと飲み、ふーっと大きく息を吐く。一呼吸置いて、また一口。その一口が大きい。だん、と瓶を置いて、

「緊張してるんだ、あたしは」

「そ、そうか」

「あんたの子種をもらいに来た。素面では誘惑できん」

 男がもし遠慮せず酒を口にしていたら、おそらく吹き出していただろう。

「その、済まないが。誘惑とはこんな無粋なものだったか?」

「とんとご無沙汰だから、勝手を忘れた。女だということも忘れてたぐらいだ」

 既に酒精が回り始めているのか、女の頬は勿論、胸元までうっすらあからんでいた。

 髪は短く、顔つきは精悍なぐらいだったが、よくよく見ればまつ毛は長く、唇もぷっくりとしている。紅をさすだけでガラッと印象は変わるだろう。何より引き締まった躰に、やや不釣り合いなぐらいの胸がこぼれそうな様子は、扇情的ですらあった。

 しばし睨み合う形になって、ぼそりと女は言った。

「あんた、キレイな目してるね……空の色だ」

 無言が続くが、どこか気やすさと酒飲みの呼気のような甘ったるさが広がり、女は目を閉じた——

 男は背を向けた。

 女はおもむろに目を開け、嘆息すると酒をまた一口飲み、瓶を置いて無言で家を出た。いや、去り際に、

「子種はもらうからね、よろしく」

 存外明るい調子で捨て科白ぜりふを残していった。


 村長の家の跡地。すっかり崩れて瓦礫が積み上がった場所に青の男は立っていた。無骨な誘惑女が去ってから一刻ほどのち——

 草木もようよう眠ろうかという刻限だった。下弦の月が、男をいっそう青白く染め上げる。

 男は、考えあぐねているようだった。

「旅の人よ」

 声があった。

 村長代理の老婆だった。大きな木箱——いや、老婆が小柄だからそう見えるだけで、男なら片手で持てるほどの大きさだった——を抱えている。

「お目当ては、これじゃないかね」

 男はこくり、とうなずき、老婆から木箱を受け取った。

「わたしは、それが何か知らぬ。村長から託されただけだ。欲しがる者が現れれば渡せ、と」

「これがなんなのかは気にならないのか?」

「興味ない。わたしはむしろ、あんたのほうが気になるがね。わたしだけじゃない、あんたに関心を持つ者は多い。特に女はな」

「その期待には応えられそうもない」

「あんたみたいな強い男は、女をはらませる義務がある。好もうと好むまいと。でなけりゃ、人類は滅ぶ」

 男は会釈をして、老婆に背を向けた。

 間借りしてた家へと戻り、荷物をまとめると、二輪へ跨り、村を出た。

 村を出ると解放感があった。あの村にいる間中、耳鳴りが酷かった。

 村からは十分な距離を取り、野営を始めた。薪木たきぎには、事欠かなかった。村のそこらじゅうに散らばっていたからだ。

 チリチリと燃える炎を前に、男は何かを考えているようだった。薪木はすべてべ、村から持ち出したものは、あとは小箱だけ。いや、あとは女の残した酒があったか。

 男の脇にあるそれは、なんの変哲もない、単なる木の箱だった。この中身を求めて、もうじき奴は来るだろう。

 一際、闇が深くなった。夜明け前の、一番昏い時間。

 男は右手に鞭を、左手にボウガンを持ち、立ち上がった。


 鮫、鮫、鮫。飛翔鮫。

 かわし、鞭を叩き込み、よけ、巻き付けて、叩きつけて、打つ。叩いて、矢をつがえ、蹴り、体をずらして、打ち、踏みつけ、裂く。

 あっという間に十体以上の鮫の死骸が散らばっていた。村では索敵と守りが主だった。取りこぼした命は多いが、いくらかは守れた。いまは守るべき命はない。

 修羅のごとき動きだった。

 男も相当傷ついている。帽子は落ち、長い髪が肩まで下がっていた。服は端々が裂け、青白い肌が闇にぼうっと光るようだった。血の赤は黒に変換されている。

 攻撃が唐突に止み、男は顔を上げる。大同小異の飛翔鮫に取り巻かれて、ひとまわり以上大きい鮫が、闇夜に浮かび上がる。ずっとそこにいたのか、と男は思った。

『おまえはなんだ』と鮫は問うた。

「俺は人間だ」

 男は、自分に言い聞かせるように呟いた。

『それを寄越せ。そうすれば見逃す』

「そうはいかない。俺の標的は、あんただ」

 取り巻きの飛翔鮫が体をたわめ、男へと飛びかかろうと力を貯める。ボス鮫の、男にも聞こえない高周波の気配があり、鮫達は静まった。

『面白い、そんな姿ナリで、よくそう言った』

 ボス鮫が巨体を、取り巻き以上の速度で駆り、男へと突進してくる。ひらり、と交わしたかに見えた、男の左腕は、ない。

 食いちぎられている。

 すかさず、反転を決めた鮫の猛攻を今度は紙一重で交わした。交わしざま、鞭の一撃が鮫の目を襲う。が、よけもせず、また痕跡も残らなかった。

『どうする、……人の子よ。まだやるのか?』

「情けをかけるつもりか、外道?」

『おまえには興味がない、さあ早く箱を寄越せ』

 男は、地面に置かれていた木箱を踏みつけた。

 ボス鮫の、声にならない悲鳴があった。

『よせ! なにをする! それはおまえの母親だろう!』

 箱からまろび出たのは、人骨だった。頭蓋骨。もはや性別すら判然としない、単なる骨。

「鮫のくせに滑稽な。遺骨ひとつ取り戻すために何人を殺した? おふくろだって浮かばれまいよ」

 鮫が怒りをそのまま体に乗せて、男を食いちぎらんとする。男は鞭を振るい、伸びた鞭はピンと張り詰めた。伸びた鞭ごと鮫のあぎとは男の上半身を捉えたが、脳天を突き抜け、鞭は屹立していた。

 男を飲み込んだ形のまま、鮫は地に落ちた。重く、鈍い音とともに砂煙が舞った。男は鮫の口から這い出した。飲み込まれていないで口を押し開くようにして。

 男の腕は、いや全身は鮫の歯のように何度でも生え変わる。首から上は試したことはないが、流石に無理だろうと男は思っている。しかし、いざとなれば試すにやぶさかではない。

 それは父親から受け継いだ、異形の力。無尽の生命力を持つ、鮫固有の力だった。ボス鮫でなければ、精々が歯の再生ぐらいしかできないだろうが。

「じゃあな、親父」

 いまは鞭を持たない右手に懐から出した銃を構えて、男は短く聖句を唱えた。鮫の意外とつぶらな目が、少しだけ潤んでいるように見えた。

 銃声が、鳴る。

 飛翔鮫は散り散りになって飛んでいく。

 空は青紫に染まっている。

 夜明けだ。



 村に戻るつもりはなかった。だが、母の遺骨を適当なところに埋めるのも躊躇われた。道具として使ってしまったが、そうしなければ勝てない相手だった。

 村のはずれにある野っ原に土を掘り、埋める。もうこの骨を狙う鮫はいない。いや、あんなに人間臭い鮫はそうそういないのではないか。きっと、おふくろが死んでから何も口にしていなかったのだろう。でなければ、脳天を貫かれたぐらいでアレが死ぬはずがない。

「おじちゃん、おじちゃん!」

 娘がどこで噂を聞きつけたのかやってきた。距離を置いて、母親も。

「おじちゃん、一緒に暮らそう!」

「こら、無理なお願いをするんじゃない」

「無理じゃないよねえ」

 男は土をかぶせながら、破顔した。

 土を踏み固め、木の杭で作った十字架を立てる。鮫の歯のついた縄をかけ、黙祷する。この時代、鮫の歯をお守りにする風潮があった。不自然ではないはずだ。

 かけられた歯を見て、少女が小首を傾げる。

「これ、おじちゃんが倒した鮫の歯?」

「ああ、そうだ。俺が倒した」

 そう言ったとき、男は初めて激しい感情の波を感じた。小さく、呻いた。母親が娘の名を呼び、男の背をふたりで見守った。

 しばし後、男が立ち上がった。

 帽子のひさしの下、笑顔があった。

「すまないな、気を遣わせた。……どうした?」

「あんた、そんなふうに笑えたんだな」

「おじちゃん、キュート!」

 ぱすん、と母親の手が娘の頭にかかる。暴力反対、と娘が言って、三人で笑った。

「村を出ていくんだろ」

「ああ、もう要件は済んだ」

 男の右手に母親が、左手には実際に手を繋がれて少女が鼻歌を唄っていた。村の臨時食堂へと女が誘い、男も気さくに乗ったのだ。

 その気さくさが、男はもう決めているんだ、と感じられて母親は寂しかった。

 母親は小声で、

「子種はくれないのか?」

「無理だ」

「あたしはそんなに魅力がないか?」

「そうじゃない、俺はこれ以上、俺みたいなのを増やしたくないんだ」

「なんで? あんた、魅力的だよ」

「そういうことじゃない」

「そういうことじゃなくない。いい男なら、いいんだよ。欲しいんだよ。例えあんたが——」

「なにが欲しいの?」

「なんでもないよ」と苦笑した母親に、

「新しいお父さん? おじちゃんにお願いしたの?」

 娘のあどけない物言いに、母親は、いや女は急激に紅潮した。酒を飲んだ時より激しい変化だった。

「ばか、こっちを見んな!」

 すまん、と謝ろうとした男を睨んで、耳まで真っ赤にした顔で言った。

「ばか、真に受けんな、……こっち見ろよ」

「見てる、ずいぶん赤いな」

「あんたは、」肘鉄を入れてから、ふ、と真顔になって女は続けた。

「あんたの目、やっぱりキレイだ。空、……違う、海の色だ」

 少女の新たな鼻歌だけがしばし続き、食堂へ辿り着いた。

 そのあとの食事は賑やかだった。男も朗らかに笑い、食べ、飲んだ。村人がひっきりなしに来て、酒をおごらせてくれ、と言った。店主が村中の酒が空になる、と言って悲鳴をあげた。比喩ではなく事実で、しかし村人はそれを憂うことはなかった。



 男は月のない夜を、荒野を二輪で走っていく。充分な送迎だった。村を出る時は言ってくれ、と食堂にいた面々は口々にいったが、もう酒もほとんど残ってないだろう。

 いい村だった。

 母が眠るのに、悪くない場所だ。

 あてもなく走る男のあとを隆起した地面が追いかけていく。顔を出したのは土竜鮫だった。喋る土竜鮫。

「今度はどこへ向かうんですかい、ダンナ」

「さあな、適当などこかさ」

「舵取りはダンナに任せますわ」

 再び鮫の頭は地面へ沈み、後を尾ける隆起も消えた。

 後にはただ二輪の排気音だけが響く。

 下弦の月が昇り始めた。



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サメハンターJ スロ男 @SSSS_Slotman

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