エピローグ
ここはとある郵便局、どこにでも存在しどこにも存在しない、いつからここに建っていたのかすら誰も知らない。
どこかの街角はたまた人里離れた山の中、古今東西、人のいや人ですらないモノたちが住む場所ですら、誰かの目の端にひっそりと佇んでいる。
そんな摩訶不思議な郵便局には曰く付きの手紙が集められる。
が、本日は休業なのだろうか、郵便局長の無数の触手は鳴りを潜めていた。
代わりに、郵便局長室のデスクに座るイソギンチャクのような触手を持つ男が小さく頬を綻ばす。
「……ふ、あっちの世界線の関川さんは相変わらず立派なものだ。今回の世界線の関川さんには苦労させられたが、無事にマトモな漢になったんじゃないかな?」
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局長が手にしていた手紙から顔を上げると、いつの間にかデスクの前に黒いローブを纏った配達員が立っていた。
「おいおい、ちょっと不満そうだな? まあ良いじゃないか。長いモノで叩かれると喜ぶ趣味ぐらいは許してやってくれよ。なあ、真澄さん?」
配達員が黒いローブを脱ぐと、関川家の仏壇にある遺影の女性の顔が晒された。
言葉を発せる状態ではないのか、不満そうに唇をツンと尖らせている。
「そう怒んないでくれよ。関川さんがダメ人間になっちまったのもあんたが死んじまったからなんだぜ? そんなあんたも関川さんと子どもたち、それに妹母娘をそのまま残して成仏できずにここに迷い込んだんだろ? それで俺が思いついたわけだ。あんたを配達員にして、俺が関川さんにとって必要な人間からの手紙を集める。そんで関川さんを更生させようと」
真澄は今度は拗ねたように頬をふくらませる。
その子どものような仕草に局長はプッと吹き出す。
「アハハ! もしかして霧……鞭野サマの役を自分がやりたかったとか?」
真澄は顔を真っ赤にしてブンブンと大きく首をふる。
局長はひとしきり楽しんだ後、自分のセクハラ発言がなかったかのように真顔になる。
そして、触手を軽くしならせると、関川一家が幸せそうに笑い合う姿が室内に映し出された。
「クックック。この光景があんたの仕事さ。どう思……フ、聞くまでもないな」
局長がニッと笑う横で、真澄は胸に暖かいものが灯ったように涙を流している。
やがて、徐々に形作っていた身体がどこかへと消え始めていた。
「……これであんたのこの世への未練も消えたようだな。輪廻へお帰り、真澄さん。今までお疲れ様」
真澄は最期のねぎらいの言葉をかけてくれた局長にペコリと頭を下げる。
そして、満面の笑みで虚空へと消えていった。
「あんたってやつは、どこの世界線に行っても幸せ者だな、関川さん?」
局長はポツリと呟き、余韻を味わうかのようにそっと目を閉じた。
刹那の間であったが、局長がカッと目を見開くと室内の景色は一変した。
そこは真っ黒いローブを纏う配達員たちが一糸乱れず整列する大会堂であった。
そう、ここはどこにでも存在しどこにも存在しない郵便局、またの名を変態の館・別館である。
局長改め館長はニヒルに笑い、壇上へと立った。
「そんなわけでおはよう変態ども! 次の業務は、別世界の出歯無を更生させようと考えている主です!」
――了
ハーフ&ハーフ4~関川さんと文通しよう~ 出っぱなし @msato33
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