日頃、非常に仲良くさせてもらっているからこそのレビューを書かせていただきたいと思います。
もう安定のクオリティで、心情描写と出来事の連動性がうまいなと思いました。
毎回感心するのは、出だしの引き込みのうまさ。
女性がタイヤ交換?!ってとこから、リアルな描写があり、スルスルと読めていきます。
それぞれの人柄、その関係性も想像したときに質量があります。
なので、ちょっと気になったのが、主人公の人生背景のくだりになったときに、その他に比べるとやや軽い印象でした。
書いたタイミングもあると思うのですが、現代社会的に、流行りといえば流行り。
繊細な組み立ての中で、主人公として文字量を割いたわけですから、「天川はその描写で何を表現したかったのだろうか」と、深読みをしてしまいました。
スピンオフとのことでしたので、続きはWEBで!みたいなw
とはいえ、やはり物語として安心して読める質が担保されています。
事なきを得る幸運にどこまで縋り、頼ろうか。車なしでは生活できない田舎に祖父母と三人暮らしであろうか、結婚の意思もなく今年も巣立たないあたしがいる。わだかまる後ろめたさに罪悪感を紛らわすためか、はたまた罪の滅ぼしか。贖罪という名のあたしなりの言い訳をもって春を迎える物語。
上手いと思ったのが、家族の免許返納について。脳裏に燻り続ける描写が時間の切迫を与えるだけでなく、人生の感傷に浸る感覚も相まって、じわりと胸中を締め付けるように問いかけてくる。そんな心情に寄り添う桜の慰み、縋る思いに共感を覚える。
感情や思考が、身体的な状態が、無常観によって駆り立てられるよう。抜け出し難い現実に抱く罪悪感として描かれた春。いとわしいと思える事案が招く先送りの思考が、事なかれの幸運に映える良作。