その25・入れ替わり
ドンッ!!!
俺は家を出た一つ目の曲がり角で、人とぶつかり倒れてしまった。
一瞬、意識が飛んだ感覚があるが、特に外傷などは無さそうだ。
俺は目の前にある、俺の身体を見てそう思う。
「え?」
俺が目の前にいる??
まさかこんなことで死んでしまったのか?
そう思ったのも束の間、目の前の私が立ち上がりこっちを見て俺と同じように動揺をしているではないか、、、
もしやと思い、道路にある鏡に映るところに移動をすると、その鏡に映っているのは、赤の他人の姿だった。
そうか、俺はぶつかった拍子に、鏡に映る男と入れ替わってしまったのか、、、
入れ替わった男の姿は、整っているとはお世辞にも言えず、服装からは貧しさが出て見えるような出立ちだ。
「なんだ、、、、これは、、、ええ!!これからどうしたらいいんだ!!!なあアンタ!僕の身体を返してくれ!!」
目の前の俺もとい赤の他人は、そう叫び出し、俺に掴み掛かってくる。
彼がひどく動揺しているのが見て取れる。
しかし、それは俺と同じ立場である。
こういっては何だが、俺は自分で言うのも何だが、それなりの見た目をしているし、お金に関しても恐らく、彼よりは十分に得ているはずだ。
彼が俺になれるのは、逆に彼はラッキーなのではと思ってしまうほど全てが違う。
そんな状況が続き、俺は思ってしまったのだ。
"なんでコイツがこんなにも動揺しているんだ"
"俺の方が災難な目に遭っているっていうのに"
「なあ、あんた。そんなに動揺してるが、俺も同じ立場だ。俺にばっかり当たってこないでくれないか?何かあったのか??」
「違うんだ!違う、、、早く俺に身体を返してくれ!頼むよ、、、!!」
「何度も言うが、俺もどうしたらいいかわからないんだ。
あと、こんなことは言いたくないが、あんたより俺の方が損をしていると思わないか??
むしろ、あんたは得しているんじゃないのか??」
「そうだから、焦っているんじゃないか!!
俺は、、、俺は、、、今日、アンタの家に強盗に行く予定だったんだ!!」
男は続けて大声で言う。
「それなのに、こんなことになってしまったんだ!!俺が強盗に襲われてしまう!!なあ!俺の身体を返してくれ!!」
「いやいや、もはやある意味、もう強盗成功してるようなもんじゃないか?」
「なにを言っているんだ???意味がわからない!!」
目の前の馬鹿な彼は何も理解できていないのか、ナイフを突きつけてきた。
ブスッッ!!
動揺をしているのか、そのまま脅しも何もなくナイフを突き刺してきた。
目を覚ますと、病院の一室に俺は居た。
ズキズキする痛みが腹部に走る。
ふと、鏡を見てみると、彼の顔ではなく、俺の顔があった。
「動揺していたのは俺の方だったな」
と病室で1人呟いた。
お湯が沸くのを待ちながら 丹生ゆう(にぶんのいち) @nibunnoichi
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