第33話 調査

 中表紙に書かれていた住所は、繁華街に近い、戸建ての住宅が並ぶ、その中の一軒家だった。玄関先で僕は、首輪状のデバイスに指示を出し、愛に通信をした。


 愛のバングル状のデバイスから芽が出て、それが伸びて茎となり、その茎に一枚の葉が付き、その葉が細胞分裂と細胞伸長で拡大し、画面に分化した。そこに書かれてある通りに、愛は僕からの通信を切らずそのままの状態にした。


 愛が玄関ドアの前に立つと、勝手にドアが開いた。


 ここの家主が確認してドアを開いたのか?

 それとも……

 愛を認識すると開くようにしてあったのか? それならば、里琴と会えたのは偶然ではなかったことになる。里琴は僕たちに会いに来たということだ。


 愛は警戒しながらも中に入った。

「ごめんください」

 挨拶を何回かするが、全く返事はない。


 愛は靴を脱ぐことなくがりかまちに立った。

「兎兎は1階の部屋を調査して。私は2階の部屋を調査する」


 了解。

 返した僕の通信を読んだ愛は前進し、ドアを開いた。そこは、リビングだった。一般的な家庭のリビング風景だ。


 僕は髭を波打たせ、髭スキャンもしながら観察していく。


 愛はリビング先にあるドアを開き、1階のドアを全て開いた後、階段を上っていく。ドアを全て開いたのは、僕が髭スキャン以外でも観察しやしやすいようにとの配慮だ。


 誰もいない。不審なものもない。怪奇現象もない。異変もない。

 1階全ての部屋を観察した僕は、愛に報告の通信をし、2階に向かう。


 階段を飛び跳ねながら上がった先には、真っ直ぐ長い廊下があり、左右にドアが4つ、奥に1つのドアがあった。


 奥のドアに近寄ったとき、入ろうとしていた愛が振り返って報告した。

「この部屋以外は誰もいないし、不審なものもない。怪奇現象も異変もない」


 了解。

 通信で返した僕は、続けて愛に提案した。


「了解」

 提案を読んだ愛が、ドアから一歩下がった。


 愛の足元先で座った僕は、ドアに向かって髭スキャンをしていく。


 誰もいないが、特殊な装置がある。


「その装置は危険なもの?」

 僕の通信を読んだ愛が、確認してきた。


 危険なものではない。


 愛は僕の通信を読むと、ドアノブに手を掛けた。

ひらくよ」

 慎重にドアをける。


 部屋の中は暗闇だった。


 飛び跳ねた僕は、中に突入した。愛も中に入ると、ドアが勝手に閉まる。


 僕は警戒態勢になったが、愛は動じなかった。冷静に見極めようとしている。


 長い耳で感知した僕は、後ろ足で床を蹴って警戒音を鳴らした。と同時に、目の前に光が現れた。


「ホログラムの佐藤優太」

 愛が大きな声で言ったのは、蓮や結菜や宏生を、開きっぱなしの音声通信に集中させるためだ。


 目の前には、等身大のホログラムのおじいさんが立っている。


「こんにちは」

 ホログラムの佐藤優太が口を開いた。

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アイ 月菜にと @tukinanito

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