第32話 調査

 愛を見詰める里琴が微笑み、小脇に抱えていた1冊の単行本を差し出した。


 無表情で首を傾げた愛だが、右手は差し出された単行本を受け取っていた。


 にこやかに頷いた里琴が、椅子から立った。次の瞬間には踵を返し、駆けていく。テラス席から出て歩道を走る。


 遅れて愛が、椅子を跳ね除けて立ち、追いかけて行く。

 唖然とした僕も、慌てて飛び上がると、愛の後を追って飛び跳ねていく。


 歩道を走る里琴の足は速い。


 追いつけない。

 そう思っていると……


 閃光!

 同時に、ソニックブーム!


 僕たちの前方を駆ける里琴に雷様が落ちた。


 里琴の体はバラバラになり、歩道に頭、胴、右腕、左腕、右脚、左脚が転がった。

 佐藤優太の時と同じ。血は一滴も出ていない。バラバラにされた新品のマネキンのような遺体だ。だが違うのは、艶やかな黒髪の里琴は微笑んでいた。


「雷様がいきなり現れた」

 愛が疑問を口にした。


 目を見張った僕は思い当たった。

 そうだ。いつもならカウントダウンのように閃光と轟音を鳴らし、雷様は近寄ってくる。それなのに、いきなりだった。今までこんなことはなかった。まさか雷様は焦っている? 佐藤優太に掴まれた情報(秘密)に、雷様は怯えている? だったら、佐藤優太のパソコンからデータを抜き取ったかもしれない人物を一人一人、雷様はバラバラにしている可能性がある。


「私たちはまだ雷様のターゲットではないみたいだけど……」

「このような調査をしていると、いつか雷様のターゲットになります」

 憂える愛を遮った蓮の声は緊張している。


「最悪~」

 下がった気分の声が聞こえてきた。きっと結菜は口を尖らせているだろう。


「里琴はバラバラにされたんか?」

 早口で問う宏生の声は焦っている。


「里琴は、いきなり現れた雷様によってバラバラにされた。だから、結菜、宏生。細心の注意を払って」


「了解」

 返した声は暗く沈んでいる。陽気な宏生が滅入っている。


「最悪~~~」

 一層気分の下がった声が聞こえてきた。結菜の口はより一層尖っているだろう。


 辺りを見渡した愛が、バラバラになった里琴から離れていく。

 歩道を進み、路地裏に入る。

 時折空を仰ぐ愛が、足を止めた。


 雷様の死角となる場所だ。


 空が見えないのを再度確認した愛が、里琴に手渡された単行本をめくった。

 首を傾げ、無表情で凝視する。


 中表紙だ。


 僕は髭を波打たせ、スキャンで確認する。


 中表紙に手書きの文字がある。


 住所だ。

 里琴の住所だろうか?


 愛が独り言のように、里琴から一冊の単行本を手渡されたことから話し、それに書かれてあった住所に向かい調査すると報告した。


「了解」「了解」

 蓮と宏生の小さな声が聞こえてきた。


「了解……あたしたちはこのまま聞き込みを続行する」

 結菜にしては大人しい声が聞こえてきた。雷様の動きを気にはしているみたいだ。


「了解」

 独り言のように返した愛に続き、蓮の小声が聞こえてきた。

「了解」

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