第8話 餓鬼道
沖田と北条が、前述のようになっている間、アジトでは、
「時間が来た」
ということで、今度は、餓鬼道へと向かう
「頼光」
が控えていたのだ。
頼光は、ここまでの自分の運命について、アジトの中で、じっと腕組みをして考えていた。
頼光は、四人の中では一番、
「ある意味、人間らしい」
と言えるのかも知れない。
頭の良さであったり、感受性の強さ、感情が表に出やすいなどという意味で、一番の問題を抱えているというだけではなく、
「いかに、先に進んでいけばいいの?」
ということも、一番考えているだろう。
他の皆も考えていないわけではない。考えているには考えているが、まったく自分の中で反応と呼ばれるものがないと言ってもいいのではないだろうか。
それだけいろいろ分かるのは、
「俺が、精神疾患を持った人と、これまでに関わってきたからではないか?」
と感じるからであった。
どのようにかかわってきたのかということを考えると、正直、よくわかっていないというのが本音であったが、
「それが全員ではなく、一人だ」
ということなので、苛立っている時がある。
「一人を分かることもできないのに、皆を分かろうなどというのは、おこがましい」
と言ってもいいのだろうが、それだけではなかった。
というのは、
「一人のことも、皆のことも、結局は同じ大きさなのではないか?」
と感じるからだった。
「一人を分かることができれば、ある程度は網羅できるのではないか?」
と思うからであって、その考えが頼光の中で、次第に膨れ上がっていくということを自覚してくるのである。
頼光の性格を、
「一番人間らしい」
と思ったその一つに、
「頼光は、他の三人に比べて、いや、それ以外の人を含めても、この性格は、特筆すべきものなのではないか?」
と感じるのであった。
というのは、
「何にでも興味深く見るところがある」
ということである。
それは、考え方として、
「深く狭く」
あるいは、
「浅く広く」
というわけではない。
それでは、他と同じではないかということになるのだ。
だから、頼光の場合は、
「深く広く」
ということなのであった。
そんなことを考えてみると、頼光は、自分の性格というものを、本当に理解できているのかどうか、自分でも分かっていないかのようだった。
頼光は、自分のことを分かっているのかいないのか、自分でも迷いのようなものをかんじているのだが、その思いを他の人よりも強く持った状態で、
「餓鬼道」
と呼ばれる峠のお地蔵さんの近くまでやってきた。
賢明な読者ならご明察なのだろうが、目の前には、
「お約束の結界」
というものが、張り巡らされていた。
今度は色が、真っ赤であった。
頼光は、その色を見て、自分の頭の中の、
「人間コンピュータ」
ともいえる回転が、さらに慌ただしくなった気がした。
「なぜ、真っ赤なのだろう?」
と考えた時、
「ここが、餓鬼道である」
ということに注目した。
「餓鬼」
そこには、鬼という字が入っているので、鬼と赤い色を想像すると、地獄絵図にあった。その地獄絵図の赤い色が、まるで池のように見えると、
「ああ、そうか、温泉での地獄めぐりで見た、血の池地獄のようなものではないだろうか?」
と感じたことであった。
なるほど、
「血の池地獄」
ということでは分かった気がした。
血の池地獄というものが、いかに想像できるものなのかということを考えると、
「池でもなければ沼でもないというところが真っ赤になっているのに、違和感というものがあるのだ」
と感じたのだった。
「餓鬼道」
というものを、
「基本、鬼だ」
と考えてもいいものだろうか?
精神疾患の持ち主と、付き合っていた経験から、いろいろ学んだが、
「しょせん、自分たちとは、住む世界が違う」
ということであった。
精神疾患に陥ってから仲良くなったわけだから、その相手というのは、病気を治そうとすればするほど、せっかく寄り添おうとした人を、踏み台にすると言うと語弊があるが、自分が這い上がるために利用するということに変わりはない。
そして、そんな自分が、まわりの、
「罪のない人間」
を自分と同じ状態に引き込んでいるということを理解していないのだろう。
「いや、本当は分かっているのではないか?」
と、最近は感じるようになる。
分かっているが、
「自分が這い上がるためには、仕方がない」
と思っているのだとすれば、それは、確信犯だと言っても過言ではないだろう。
そのことを考えると、
「俺は、巻き込まれたということでいいのか?」
と、いまだにあの時のことを考える。
ただ、いまさら考えても仕方がない。
「今後俺が、あんなややこしいことに関わらなければいいだけで、少しでも、善意の気持ちを見せてしまうと、付け上がられるだけだ」
と言っても過言ではないだろう。
そもそも、自分は、精神疾患があるわけではないのだから、相手の気持ちが分かるわけはないし、向こうもこちらの気持ちを分かるはずがない。
「自分が下に見られている」
と言って、こっちはそんなつもりはないのに、そんな風に感じられると、こっちとしてもたまったものではない。
あの後からもいろいろあったということを忘れていた。今では、そんな風に思っているので、自分としては、
「その途中経過を忘れてしまっていた」
ということであろう。
つまり、思い出したくないような、吐き気を催すようなことが、その間にあったということであろう。そう思うと、本当に今の方が、あの時よりも何倍いいかということであった。
ただ、今の頼光は、吹っ切れていた。そして、自分という人間が、
「どんなことにも興味津々だった」
ということを思い出した。
だが、それがいい悪いの問題ではない。最初に言っていた、
「支えてください」
「助けてください」
という助けを求めるものは、その要因がなくなれば、その人は、もう用済みなのだということになるのだ。
この間、この計画に加わるその直前くらい、ある事務所に咲いていたスズランを思い出した。
仏運ら、
「キレイだな」
と思うのだろうが、その時の頼光は、
「コンパラトキシン」
を思い出した。
スズランなどに含まれる毒であり、活けている水を飲んでも、中毒を引き起こし、死に至ることがあるという。そんなものを意識してしまうのだから、その時の自分が、そこからずっと、何かに吸い寄せられているように感じた。
精神疾患のオンナと関わってからの自分を、映し出しているようだった。
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