第4話 六道への入り口
神崎村での滞在期間は、ほとんど決めていなかった。
「この村にいる間は、安全なんだ」
という思いがあることから、動く時は、よほど、しっかりしておかなければいけないということであろう。
実際に、この村に来てから、そろそろ半年が経とうとしていた。この事件については、マスゴミもまったく意識していないようだ。
何と言っても、
「マスゴミというのは、新しいものを求める」
世間が思っているよりも速いスピードで世間を見ていかなければ、うまくいくはずもないというものだ。
それを考えると、世の中において、半年が経とうとする中で、その間に、真田が動くということはなかった。
そんな中において、動きを見せてきたとすれば、副リーダーと言ってもいい、北条が少し動き出した。
「俺たちは、このままずっとここにいれば安心なんだろうか?」
ということを考えたからである。
確かに、真田はリーダーとして立派にやっているだろう。だが、そのことを真田は自分で自覚しているのだろうか?? 何かまだ、自分に満足していないような気がするのだ。
それを思えば、真田というのは、どこか、疑心暗鬼だといえるのではないだろうか?
実際に、その人のいうところでは、
「ここにいれば、とにかく安心」
ということであった。
「真田がリーダーとして君臨することが一番いい」
そして、
「真田の言う通りにしていればいい」
と、計画を聴いた時、北条はそう感じたのではなかったのだろうか?
真田という男は、確かにしっかりとしたビジョンを持っていた。
「想像力が豊かだ」
ということで、
「彼のような男が、計画し、設計図を作るのが一番なんだ」
と思うようになっていた。
確かに、その計画がうまくいくかどうか分からない状態で、今は潜伏期間という、隠れていなければいけない時期に、疑心暗鬼になれれてしまっては、どうしようもないというものだ。
「俺の計画は、間違いない」
という力強く言う時もあれば、時折見せる寂しそうな雰囲気に、他の二人も、少し疑問を感じているようだった。
三人が三人とも、疑心暗鬼になっている時期があった。
「本当にあいつで大丈夫なのあ?」
という思いが、災いしたといってもいいのだろうか?
三人が揃うと、ありがちなのだろうが、
「三すくみ」
の関係になっているようだった。
三すくみというと、じゃんけんなどが、代表的だ。
「チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。そして、グーは、チョキに勝つ」
というような三角関係である。
これと同じことが言えるのが、
「ヘビ、カエル、ナメクジ」
の関係である。
「ヘビはカエルに強く、カエルはナメクジに強い、ナメクジはヘビに強い」
ということで、これこそ、自然界の摂理というべき形で、うまくバランスが取れているというべきであろう。
そのことを考え、一つ気になるのは、
「世の中というものは、この三すくみによって成り立っているのだろうか?」
ということであった。
三すくみというと、世の中において、普通に考えれば、
「均衡が保たれている」
と言っていいのだろう。
「二つが相手であれば、お互いに力関係はハッキリしているのだが、そこにもう一つが絡んでくると、動くことができない」
ということである。
三すくみの関係は、SFやミステリーなどでよく用いられるものだが、
「力の均衡」
ということであり、それが、
「距離の均衡」
であったり、
「お互いの見る方向のバランス」
だったりするということになるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、
「三すくみ」
というのは、世の中のバランスすべてであり、何かに偏ってしまいそうなところを、バランスよく保つことが大切だということになるのだろう。
そんなバランスというものを、どのように考えるかということである。
物理学や、数学などによってバランスというものを考えると、
「一体どういうバランスが、世の中を支えているというのだ?」
と考える。
世の中において、基本的に、バランスは保たれているものだと思うのだ。
そのバランスにおいて、
「例えば、精神疾患の人がいて、その人が、パニック障害であったり、双極性障害であったりした場合」
鬱状態の時には、
「助けてほしい」
ということで、人に寄り添ってもらいたいという感情になるだろう。
もちろん、その人のことを好きであったり、気持ちに寄り添って、
「自分が何とかしてあげたい」
と思うに違いない。
特に、相手が、大鬱になったりなどすれば、
「精神状態が不安定なので、相手を支えるためには、自分が壊れないようにしないといけない」
ということを考えて、相手を見るようにしていると、
「相手が、精神疾患だから」
ということで、どこまで我慢すればいいのかが、その境界線が分からなくなる。
以前、ちょっと考えただけで、危険なこと、パニック障害を引き起こしかねないことになった時、
「相手に対して、明らかに危ないと思ったから、起こってでも、必死になって止めようとする」
というのが、こちらの考え方だが、その時相手は、怯えていて、パニック障害を引き起こした。
こちら側は、
「苦しめたのは、悪かったが、しょうないことだ」
と思っていたが、相手の女性は、まわりから、
「相手がパニック障害を持っているのを知っていて、それで追い詰められた」
と人に話すと、
「そういうやつは、DVを起こすようなやつだ」
と言われたということで、
「パニック障害を持っている人をおいつめるのはいけないことだ」
と言われてしまった。
起こった本人は、その時は、
「ああ、自分が起こってしまったことが悪かったんだ」
と思ったが、果たしてそうなのだろうか?
「相手が自分を頼ってくれたから、危ないということに対して、起こってでもやめさせようとするのが、悪いことなのだろうか?」
もしそこで、相手の好きなようにさせて、何か起こってしまうと、もうどうしようもない。それでも、起こるのが悪いというのだろうか?
さらに、その大鬱がある程度引いてきたという時、知り合ってから、初めての大鬱を一緒に乗り超えたと思っていたのだ。
そもそも二人は、ネットで知り合ったのだが、実際にリアルでは遭ったことがなかったが、最初は、
「大好きだ」
と言われて、こっちもその気になっていたのだが、実際には、
「あの時、躁状態だったから、そんな気持ちになったわけで、あなたは親友のような気持ちで見ている」
と言われたのだ。
そして、自分から好きだと言っておいて、こっちが、彼女のつもりでいると、
「少し私を自分のものという意識が強い」
と言われたのだ。
彼女だと思えば、普通にいうようなことでも、いけないというのか?
「相手を怒らせない」
ということを誓った自分には、それ以上何もいうことができない。
だが、考えてみれば、確かに、
「俺が支える」
と最初は言って、
「嬉しい」
という返事が返ってきたのだが、そのうち、その女の言い分が変わってきた。
「私は、自分というものを見つめなおして、自分を取り戻す」
と言い出したのだ。
確かに、それはいいことを言っているし、応援すべきことなのだということも分かっている。
そして、
「私は病気を理由に、何もできないというわけにはいかない。自分の好きなことに向かって突き進む」
というわけだ。
本当に、
「その通りだ」
とは思うが、支えるつもりになっているこっちの立場や気持ちはどうなるというのだ。
「初めての大鬱状態において、他に話もできないどころか、他の人から相談を受けて、それを聴いているうちに、自分がおかしくなってきた」
というわけだ。
これを聞かされた方はどう考えるだろう?
「俺が何とか支えてあげる」
という気持ちにあるだろう。
支えるといっても、初めてのことでどうしていいか分からない。
だから、
「俺が、そばにいて、一緒に考えてあげるしかない」
と思い、寄り添っているつもりだった。
相手は自分が何かをして、さらに鬱を増幅させたわけではないのに、人の分まで請け負っているなど、普通に考えれば、
「お人よしもいいところだ」
ということになるだろう。
しかし、
「惚れた者の弱み」
と言えばいいのか、
「俺が苦しんでも、それでも一緒にいてあげよう」
というくらいに思っていて、
「こっちまで、おかしうなりそうだ」
という状態だった。
それでも、男は、女に対して、
「何をしてやれるのだろうか?」
と思う。
それでも何とか、二人で乗り越えたつもりの大鬱状態。男からすれば、ふと本音も出てくるというもので、
「俺が一緒にいたから、大鬱を乗り越えられたんだよな」
と言った。
本人は無意識だったのだろうが、それを、鬱状態を乗り越えた女に、こういわれた。
「あの時のあなたの言葉がショックだった」
とである。
「私は、あなたに乗り越えさせられたのであって、自分で乗り越えたわけではないって言われているみたいで、あなたから、下に見られていると想った。それがあなたの本音なのよ」
と言われて、こっちもショックだった。
確かに、無意識であったが、
「そんなことを言った自分に自己嫌悪を感じた」
が、しかし、本当に自己嫌悪を感じなければいけないのだろうか?
寄り添って、精神的にギリギリのきつさを男も味わったわけだから、男が思うことのどこが悪いというのか?
結果として、男性がそばにいたから、乗り越えられたわけで、本人も、それに近いことを言って、
「ありがとう」
と言ってくれたはずではないか。
後になってそんなことを言われたのであれば、男としてもたまったものではない。
「俺は一体、どうすればよかったというのだろう?」
ということである。
また、さらに女は、
「私は今、自分を見詰めなおして、前に進もうとしているのに、あなたがしている嫉妬は、私を縛り付けたいと思っていることであって、私に自由はないのか?」
と言い出した始末である。
「こちとら、そんなことこれっぽっちも思っていない」
と言いたい。
しかも、自分のことを、どこかの先生か何か知らないが、相談して、その人から、
「冷静になって考え直せ」
と言われたというではないか。
これは完全に相手の男性に対しての、
「侮辱ではないか?」
と思うが違うだろうか?
そして、女は、
「自分が必死で立ち直ろうとしているのを、こっちが、自分のものにしておきたいという理由で、押し込めておこうと思っているのではないか?」
ということであった。
それを聴いた時、
「ショックはこっちの方だ」
と思った。
どうやら、同じような病気を持っている人間たちで集まって、
「傷を舐め合っているようにしか見えない」
と思うと、だんだんと、自分が覚めてくるのを感じてきた。
しかし、それでも、
「惚れた者の弱み」
からか。相手をまだ好きな自分がいて、いまだに、
「俺ではダメなのだろうか?」
という未練がましい状態になっていた。
おかげで、その頃というと、
「今日って何曜日なんだろう?」
という感覚になって、ひどいのは、
「季節感すら分からなくなってきているのだ」
朝なのか、夕方なのかもわからない。
「俺も、何かの精神疾患なのかも知れないな」
と感じた。
ただ、精神的には追い詰められている気がするが、肉体的には何もない。
女がいうには、
「精神疾患は、肉体もきつい」
と言っていたので、それを信じていたが、本当にそうなのだろうか?
信じられなくなってきた。
そんなことを考えていると。
「あの女の言っていることは、どこまでが本当のことなのだろうか?」
と感じるようになってきた。
相当、いろいろ人生において悲惨な目に遭ってきたりしているという、
一つだけでも、相当ひどいものなのに、それが、聴いてみれば、5、6個は最低でもありそうだ。
それを考えると、
「本当に、すべてを信じていいのだろうか?」
と思うようになると、
「ああ、俺は洗脳されているのかも知れない」
と感じるようになった。
その頃までに、その女にかなりの額のお金を貢いでいた。
最初の数か月で、すでに、百万円単位の借金を背負うことになった。
本来ならそこで、
「何か怪しい」
と感じればいいのだろうが、感じるということはなかったのだ。
ズルズルと、女の言われるままに、食事の足しになるものを送り続け、さらには、
「電話代や、光熱費が滞って、止められる」
ということだったので、その分も出してやったのだ。
さらに、女がいうには、
「ストーカーに狙われていて、裁判を起こすので、お金がいる」
というのだ。
女は病気を理由に働くことができない。そうなると、金銭的な助けが必要ということで、
「彼氏だ」
と思っていた自分が、彼女に対して、
「俺が出してやる」
ということになるだろう。
気が付けば、彼女に対して生活のほとんどを賄っていた。
給料の八割近くを彼女のために使っていた。
「俺が支えてやる」
という一心から、借金もそんなに気にならないほど、精神が病んでいたのだろう。
「簡単に返せない金額になっていて、しかも、会社を、パンデミックを理由に、解雇された」
ということであった。
それが、北条だったのだ。
今回の事件の中で、彼だけが、
「自分のためではない状況において追い詰められた」
ということであった。
北条は、元々、家族の中に精神疾患を持った人がいて、家族が、
「それほどひどいものではないだろう」
という思いを抱いたことで、気がつけば、
「妹が自殺をしていた」
ということになったのだ。
だから、
「二度と同じ悔しさを味わいたくない」
という思いから、その女に対して必死だったし、
「自分が何とかしてやろう」
という気概があったのだ。
そもそも、
「それくらいの気持ちがなければ、人と寄り添うことなどできないだろう」
という気持ちになっているというもので、
そういう意味での、女の言い分には納得がいかないのだ。
ただ、女とすれば、
「病気だから」
ということなのだろうが、自分から、
「病気を理由にしたくない」
と言っているのだから、信じられない。
とにかく、信じられないような経験をしているということで、
「どこまで信じていいのだろういか?」
と思うのも無理もないことで、
「相手に対して失礼だ」
と言われればそれまでなのだろうが、それを思うと。
「じゃあ、俺は一体どうなるというんだ?」
と、いうことを考えてしまい、自分が、完全に、洗脳されてしまっているということを感じるのだった。
「俺が悪いんだろうか?」
結局最後はそこに戻ってくるのだった。
「相手の女性のことをいかに考えるか?」
あるいは、
「相手のことを考えるなら、自分が犠牲になるということも否めないか?」
と考えてしまうのだ。
完全に北条は、彼女に対して、
「自分のオンナ」
という感覚になっているが、それも致し方がない。
「助けて」
と言われれば助けるのも当たり前というもので、助けない方が、どうかしているということになるのだ。
その北条は、
「彼女とのことは、今回の事件を起こす上で、割り切ったんだ」
と思っていた。
「考えてみれば、相手に合わせてしまったことで、こんなことになったのだから、俺が悪いわけではない」
ということになるのだが、どうも、
「最後まで諦めきれないところがある」
というわけであった。
そんな彼女から、この間連絡があった。
別れた理由は、彼女の方から、
「リアルで信じられる人ができたから、自分とは、こういう関係ではいられない」
ということであった。
これ以上のショックはない。
何と言っても、梯子を掛けられ、そこに登ったら、外されてしまった。
というわけである。
しかも、こちらは、すでに彼女のために、相当な犠牲を払ってのことだったので、別に、見返りを求めるというわけではないが、この仕打ちは、
「まさに、人間のすることではない」
と言えることだろう。
「私は、本当にこれでいいのか?」
と北条は考えたが、それは当然であろう。
確かに、彼女のためを思ってというのか、
「すべてを犠牲にしてでも」
と思っていたのに、結果とすれば、
「精神をズタズタにされて、ボロ雑巾のように、簡単に捨てられた」
ということである。
確かに、
「自分が、彼女の立場だったら、どうするだろう?」
と考えたりするが、
「さすがに、ここまでむごいことはしないだろう」
と感じるはずだ。
しかし、これはあくまでも、その人の発想であり、相手が、自分とのことを、あくまでも、
「バーチャルだ」
としてしか考えていなかったら、そして、北条自身が、これは、
「リアルだ」
と思っていたとすれば、そこに交わるところはないわけで、
「交わることのない平行線」
を辿ったとすれば、
「結局、俺は捨てられる運命にしかなかったんだな」
と思うしかなかった。
もちろん、女に対しての恨みは相当なものだが、諦めるとすれば、自分が悪かったと思うしかないだろう。
だから、今回の計画は、元はあの女が悪いと思ったとしても、それを見抜けなかった自分が悪いということで、諦めの境地で、頑張ろうとしか思えないとすれば、
「なんと、いまだにあの女から連絡が来る」
ということは、どういうことなのだろう?
「自分が悪かった」
という発想がまったくないということになるのであろうか?
女から連絡があるとは思いながら、今は自分のことが大切である。
「あの女のせいでできてしまったこの借金を返さないといけない」
と思っている時、ちょうど、その頃、一人の男と知り合った。
その男は、
「いやあ、俺、女に騙されたことがあって」
と言い出すではないか。
話を聴いてみると、どうも、あの女の手口に似ている。
「自分が精神疾患がありそのせいで、借金を背負ってしまったので、知り合いに相談する」
というのだ。
その相手のオンナのことをよく聞いてみると、自分を騙したその女と同じ手口で、しかも、同じような言葉を吐いたという。
「ああ、それは、俺も同じ手口だ:
ということで、話をしていると、すっかり意気投合したのだった。
「ところで、どうやって、借金を返していくんですか?」
と聴くと、
「友達に何とかしてもらえるという人がいて、そこに相談に行くんですよ」
というではないか。
「じゃあ俺も」
とばかりに、その話を聴いて、
「ああ、分かりました。俺も、一緒に行っていいですか?」
と聴くと、
「ああ、いいよ」
と言われたので、そのまま男についていったのだ。
すると、
「これはちょっとヤバイかな?」
と、感じた。
話の内容は、完全に、
「犯罪行為の打ち合わせ」
であり、強盗の相談のようだった。
それを聴くと、
「僕は、これくらいで、ちょっと」
と言おうとすると、
「お前、ここまで聴いておいて、挨拶なしに行こうってのかい? どうせ、あんただって、金に困っているんだろう。だったら、俺たちに乗っからないかい?」
と言われたのだ。
いきなりの脅迫に、ビビッてしまった。
「いや、僕は」
と言って、拒否ろうとしたのだが、相手も、
「そうはいかない」
という感じであった。
「あんたが、金に困ってるのは、こっちでも調査済みさ。ここで、これから俺たちの仲間になってもらうぜ」
ということであったのだ。
男は、北条を奥の部屋に連れていった。元々、一緒にここまで来た男は一緒ではなく、どうやら、男の指示で、別のところに行ったようだった。
男に連れられて、恐る恐る歩いていくと、そこにいるのは、一人の男性だった。
「ああ、北条さんだね」
と言われて、相手は、ニッコリと微笑んでいる。
「え、ええ」
と答えたが、
「私は、今回の救世主計画を立てた、真田というものだけどね」
と言い出した。
後で聞くと、ここまで連れてきた男が、頼光だという。
頼光は身体が大きく、ちょうど、大江山に出てくる、
「源頼光」
とモデルとする形で、
「鬼伝説」
としての、
「酒呑童子」
とあだ名されているという。
そんな頼光に連れてこられた場所は、真田のところで、そこで、初めて真田から、今回の襲撃事件について話をされたのだった。
借金の額の割には、強盗などというのは、わりに合わないほどの大きなリスクを背負ってしまう。
しかし、それでも、
「今の世の中、どこで何が起こるか分からない」
ということで、強盗でもして、お金をいくらでも持っていないと、難しいという。
「今回のパンデミックで分かったと思うが、まず、政府は、まったく役に立たない。これだけの有事なのに、何か対策でも取るのかと思えば、取ったとしても、後手後手であり、国民からは冷めた目で見られ、結局は、どうにもならない状態になっている」
というのだ。
さらに、
「政府だけではない、国民だってそうだ。有事を今まで経験したことがなかったからというのもあるだろうが、誹謗中傷のあらしだったじゃないか? 特に命を直接守ってくれている医療従事者が家族にいるというだけで、その人たちは、学校や職場で、出てくるななどと言われ、ひどい目に遭ったというのではないか。本来なら、例を言われても、しかるべきなのに、例どころか、伝染病が移るって言われるんだから、こんなに理不尽なことはないよな。結局、金しか勝たんのだよ。君にだって分かるだろう?」
という。
「だからと言って、強盗なんて」
というと、
「心配いらない。相手は、ひそかに金を溜めているやつで、個人的にあこぎな商売をしているやつなのさ。世間的には、あくまでもひそかになので、警備もほどんどないし、そんな守銭奴には、金を出して屈強な連中を雇うという考えなどないのさ。だから狙うなら今なのさ」
というのだ。
「なるほど、そういうことなら」
と、話を聴いているうちに、北条も、気分的には乗り気になっていった。
そもそも、ここは、
「恐怖の館」
のようだが、さっきいた人間も、あの瞬間だけを演じてもらうために、雇った、
「役者のたまご」
による、アルバイトだったのだ。
ただ、これで、主部者の
「真田」
第一の共犯者、
「頼光」
そして、今ここに、もう一人。
「北条」
が加わったのだ。
そして、前述に記したように、
「勧善懲悪」
という観点から、最後に、
「沖田」
が加わったのだった。
さて、そんな彼らの計画は、ある程度は、無難に進んだ。これと言った問題もなく、お金も手に入れたし、アクシデントもなかったので、被害者を殺すということもなかった。
「顔を見られる」
ということもなかった。完全に仮面をかぶっていて、被害者連中に、察知されることはなかった。
なぜなら、被害者との接点がないからだ。もし、見られたとしても、モンタージュを作られるだけで、それほど信憑性のあるものではないだろう。
それを思うと、誰も傷つけず、むしろ、沖田ならいうべきのいわゆる、
「勧善懲悪の観点」
から、
「この行動や決起は間違っていなかった」
と言えるだろう。
逃走ルートも完璧で、この神崎村を選択したことも、想像以上に、正しかった。
ここ数か月の潜伏で、村人と会うこともなく、当然、村人から通報されることもなかったのだ。
何といっても、この過疎地の村、いるとすれば、
「オンナ、子供、老人」
ばかりだったのだ。
しかも、4人が潜伏していたところは、村人にとっての、
「聖地」
といえばいいのか、
「立ち入ってはいけない場所」
ということで、村人もこない場所に潜伏していたので、見つかることもない。
実際に、数か月見つかることはなかったし、車もあるので、買い出しにも困らなかった。潜伏場所としては、最高にいいところだったのだろう。
そんなことを考えていると、
「ここまでうまくいって、本当にいいのだろうか?」
と思えるほどで、ことわざにある、
「好事魔多し」
というのも、マジで気になる言葉になっていたのだった。
そんなことを考えていると、
「真田がこの後何を考えているのか?」
ということが、他の連中には分からないということが気になるところであった。
計画としては、
「この村に数か月潜伏する」
というところまでは決まっていた。
しかし、それ以降どうするかというのは、知らされていなかった。真田が何も言わなかったからだ。それよりも、ここまで無傷で、仲間割れもなくうまくやってこれたのは、実によかったということであろう。
だが、それは、
「ただうまくいったというだけで、本当の試練はこれからなのかも知れない」
しかし、そのことを誰が知っているというのだろう?
当の主犯である真田にも、
「ここから先の計画」
というのは、頭の中に、できていなかったのだ。
その計画の一つに、
「六道越え」
というものがあるのだった。
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