第5話 それぞれの関係性

 この神崎村というところでは、村の入り口にあたるというところに、

「神仏祠」

 が存在し、そこが、

「この村を守っている」

 と言われているが。実際にはそれだけではなかった。

 というのも、この神崎村というところ、これまで戦国時代などを通しても、

「侵略を受けた」

 ということがないのだという。

 確かに、

「どこから見ても田舎の村」

 ということなので、

「何ら戦略的に獲得する意味があるのか?」

 と言われているのだが、実際には、

「国の入り口になっていて、ここをとるのは意味がある」

 という地理的な意味での攻略は必要だったはずだ。

 しかし、ここは、いくつかの入り口にあたるようなところがある。それはもちろん、

「神仏祠」

 のある峠を含んでのことであるが、

 それ以外にも、3つの場所が、ちょうど均等な距離に置かれていて、そこも峠となっていることから、

「攻めてくるなら、そこから」

 ということになるのだ。

 その場所から攻撃を受けたとして、

「どれだけ守れるか?」

 ということなのだろうが、実際には、当時は、峠に大きな櫓が存在したという。

 攻められれば、そこから反撃するということだったようだが、その戦力にも限界がある。

 しかも、攻め方はいろいろあり、

「水攻め」

「兵糧攻め」

 などあるが、山奥なので、

「水攻め」

 はありえない。

 できるとすれば、兵糧攻めであるが、それでも、陥落したという記録はないので、この村は、

「本当に攻められたことがない」

 というのか、それとも、

「こう見えても、難攻不落なところ」

 だということなのだろう。

 それを思うと、この村において、

「何か見えない力が働いていた?」

 と考えることもできるだろう。

 その力がどんなものなのか分からなかったが、4人は、これからそれを目の当たりにすることになるのではないだろうか?

 まず計画として、

「いかに、この村から脱出して、それぞれの生活に戻るか?」

 ということであった。

 確かに、この村にいれば安全は安全であろう。

 しかし、元の世界に戻っても、あの事件は、すでに迷宮入りの様相を呈していて、捜査阿本部もとっくに解散していて、犯人像も分からないということで、指名手配というわけにもいかない。

 自分たちが戻っても、何ら問題はないのだ。

 それを考えると、ここに長くいればいるほど、

「早く帰りたい」

 ということを言い出してしかるべきであった。

 真田が考えているのは、

「ここを出るとすれば、4人一緒だ」

 ということであった。

 誰か一人が表に出るということはしないと思っていた。

 そうじゃないと、その人物が裏切って、ここを教え合いとも限らない。

 この4人は、

「今回の犯罪だけを目的に集まった。それぞれには、利害関係の存在しない関係だ」

 ということで、元々の場所に戻っても問題があるわけでもない。

 それを思えば、真田は、

「今の段階になったら、いつ、この村をおさらばしても、問題はないかな?」

 と思うのだった。

「警察の捜査は及ばないか?」

 と誰かがいうと、

「大丈夫だ。捜査本部もないし、俺たちが顔を見られたわけではない。もしそうだったら、とっくに、全国指名手配になっているさ」

 ということだった。

 彼らが取った金は、中途半端なものだった。

 そもそも、いくら金持ちとはいえ、いきなり強盗に入って、他の誰にも気づかれないように、金を用意させるとすると、用意できる金額は決まっている。

 彼らは気づいていないようだが、

「実は、強盗に入ったということは、世間では何も言われていないようだ」

 ということだ。

 被害者が警察に通報したわけではなかったからなのだが、それだけ、やつらも、警察に踏み込まれては困る何かがあるのだろう。

 警察に踏む混まれることを考えれば、強盗に奪われた金額くらい、

「蚊が刺したほどではない」

 と言えるだろう。

 そういう意味で、真田たちは、運がよかったといってもいいだろう。

 しかも、念には念を入れて、密かに滞在もしたのだ。もう、何も怖がることはないのだった。

 さて、そんな状態において、

「いよいよ、この村から出る」

 ということが、本格化してきた。

 前述の、

「六道越え」

 というのが、それで、

 六道というのはm仏教の擁護にて、

「輪廻転生」

 という考え方に由来するものだというが、一種の、

「死後の世界」

 と言えばいいのだろうか。

「六つの道」

 というものがあるわけで、この村の三か所にある峠は、その六道のうちの三つが、存在しているというわけだった。

 つまりは、この村には、

「出入口は。専門になっている」

 と言ってもいい。

 まず、入り口は一か所、それが、

「神仏櫓」

 が立っているところだった。

 あとの3つは、出口であって、そこには、六道のうちの三つの名前がついている。

 それもすべてに、気色の悪いものが存在するのだが、それが、

「修羅道」

「畜生道」

「餓鬼道」

 と呼ばれるものであった。

 ここにいるのは、4人、とりあえずは、

「全員が抜けることができたのを確認して最後に、真田が出ていく」

 という手筈にしたのだが、そういう意味で、

「出口は三つ。人間も三人」

 ということで、問題は誰がどこに行くか?

 ということであった。

 まず、修羅道であるが、ここを通るのは、

「沖田」

 ということになった。

 沖田という男は、この中で一番の勧善懲悪で、一見平和主義に見えるのだが、裏切られたり、理不尽なことがあれば、徹底的に戦うという、

「戦うことに関しては、これ以上ないというくらいに、特化した人は、少なくともこの中にはいなかった」

 ということである。

 この中で一番先に進むとすれば、沖田であることは、最初から暗黙の了解だったような気がする。

 彼は、自分の先祖が武士で、しかも、

「一番槍を目標にした、先陣争いばかりをしていた猛者だった」

 ということらしい。

 確かに戦陣争いをするようになってから、彼の先祖は出世し、遣えた主君は、数人いたというが、それらすべての主君が、

「ほぼ、天下を手中に収めていた」

 という。

 そのうちの一人は、天下統一まではできたが、実際に君主として君臨する前に暗殺されたということなのだが、一応は、

「天下統一」

 を成し遂げたのだから、

「天下人だった」

 といっていいだろう。

 そうなると、彼は、

「出世家臣」

 ということになる。

 そういわれることに違和感はなかったのだ。

 そして、沖田の先祖は、江戸時代になると、すでに、江戸城に常駐しているような、

「将軍に近い存在」

 だった。

 さすがに、老中、側用人などというえらいさんではなく、おし本当にえらいさんだたとすれば、

「歴史に名が残っていても、不思議はない」

 と言えるだろう。

 そんな彼が、江戸城での、

「お勤め」

 に、ある提訴の、

「天下泰平」

 というのを味わっていたが、幕府の財政が火の車であることに気付くと、

「幕府をいかに収めていくか?」

 ということが問題になってくる。

 少々、ひどいお触れを出さなければいけないわけだが、それも一回だけなら、まだ、江戸の町民は納得するのだろうが、

 それが、何度もになると、どうしようもない。

「○○の改革」

 などというものが、江戸時代には、結構あったが、そのほとんどが、失敗に終わっている。

 そもそも、成功していれば、そういくつも、改革などというものがあるわけもなく、

「幕府が転覆する」

 ということもないだろう。

 しかし、江戸幕府の滅亡は、

「黒船来航」

 という問題もあったのだが、そもそも、

「財政の先行きのなさ」

「封建制後の限界」

 などというのが、問題になっているということなのだろう。

 そんなことを考えていると、

 沖田は、いつ頃から、

「自分が勧善懲悪だった」

 と感じるようになったのか。

「悪を懲らしめ、善を勧める」

 というのが、言葉そのものの意味なのだろうが、そういう意味での、

「本当の勧善懲悪」

 というものが、いくつも存在しているとは思いにくいのであった。

 そういう意味で、彼がこの計画に加わるには、彼が事を起こすだけの、

「大義名分」

 がなければいけなかった。

 確かに、真田がいうように、

「営利を貪るような連中に対しての勧善懲悪」

 ということなのだろうが、

「沖田にとっての、自分が加わる意義があるのか?」

 と言われれば難しかった。

「大義名分」

 もないのに、これだけのリスクを負えるというのか?

 というのが、大きな問題だったのだ。

「勧善懲悪というのが、いかなる問題なのか?」

 ということを考えると、勧善懲悪の意味をしっかりと捉えることが必要になってくるのではないか。

 沖田自身がどこまで分かっているかであるが、

「そもそも、沖田自身が、自分のことを、勧善懲悪だ」

 と思っているのかどうか、怪しいものだった。

 思っていないとすれば、すべてが勘違いであり、

「大義名分」

 などというのも最初からなかったといってもいいのかも知れない。

 それを考えると、

「大義名分など、どこにあるというのか?」

 ということを考えてしまい、やってしまったことは、相手が懲悪に値する人間だと思うと、自分たちは、

「善でしかない」

 と思うのだった。

 沖田は、勧善懲悪であったが、躁鬱症でもあった。

 北条のように、昔付き合っていた女が、

「病気を盾に、いろいろしていた」

 というそんな女を相手にしたことで、精神疾患に関しては結構勉強した人であれば、沖田の性格も分かるというものだ。

 沖田の場合の躁鬱というのは、北条から見れば、

「それほどのものではない」

 というように見えた。

 それは、

「沖田のパターンが、手に取るように分かる」

 ということだからだ。

 実際に、沖田の場合は、あの時のオンナの少し軽いパターンだった。それを考えると、

「鬱状態というのは、誰でも、そんなにパターンがあるわけではない。あるとすれば、その強弱なのだ」

 ということなのではないだろうか?

 それを考えると、沖田という男が、

「なぜに、勧善懲悪なのか?」

 ということも分かる気がする。

 勧善懲悪というのは、

「一本筋が通っているように見えるが、実は、そうではない。躁鬱のように、裏表があるのではないだろうか?」

 とそんな風に考えるのだ。

 沖田と一緒にいれば、表裏がハッキリと分かってくる。

 ということは、

「相手が、鬱の時に、たまりにたまったあ鬱憤を躁状態になって、一気に吐き出すことになるのだが、溜まっている時、その限界を超えると、何をするか分からなくなり、その状態は躁状態になるのだ」

 ということは、

「鬱から、いきなり予兆もなく躁状態になることがあり、そうなると、何でもありの、イケイケ状態になるので、これほど怖いものはないともいえるだろう」

 それを考えると

「沖田という男の勧善懲悪がどこから来たのか?」

 ということを知りたいと思うのだった。

 沖田という男を、見つけてきたのは、真田だった。

「どうしてやつが、この計画に加わったのかというと、沖田には、妹が自殺未遂と起こしたという過去があった」

 というのだ。

 そのことは、沖田と、幼馴染しか知らないことだった。

 沖田が大学2年生の時、

「高校2年生の妹が自殺未遂を起こした」

 という事実はショックだった。

 実はそれまで、妹のことをそこまで気にしていたわけではない沖田だったが、妹が自殺をしたのは、

「学校で、暴行された」

 ということからだった。

 普通に一人で教室に残って勉強をしていた。そこに、同級生が帰ってきて、いきなり襲い掛かってきたというのだ。

 しかも、まわりは誰も妹の味方になってくれる人はいなかった。だから、妹はこの世を儚んで、自殺しようとしたということだった。

 それを聴いた沖田は急いで戻ってきて、

「妹の憔悴した姿」

 を見るに見かねて、耐えられない思いだったが、その時の男は、

「いいところのボンボン」

 で、向こうは、弁護士を使って。

「示談を言いに来た」

 というのだ。

 今では法律も変わり、戦うこともできなくもないはずなのだが、

「娘さんが法廷で、恥ずかしい尋問を受けたり、さらし者になってもいいんですか?」

 と言われると、親としても、

「娘の将来を考えると」

 ということで、示談を成立させるしかないのだった。

 何と言っても、金持ちは、

「息子の犯罪も、金で解決する」

 ということを優先し、弁護士もそれに付け込んで、話にくる。

 だから、うちの親もその言葉に誘導されて、示談にしたのだ。

 しかも、後から調べてみると、このとんでもない男は、

「今までに何度も同じことを繰り返し、そのたびに示談にしてきた」

 ということであった。

 病気と言ってもいいのだが、この男が最初に犯した犯罪の被害者と呼ばれる女が、

「一癖も二癖もある女」

 ということで、犯罪の被害者としては、

「ヤバイ女」

 だったのだ。

 相手の弁護士を脅迫するくらいのオンナで、何しろクラブのママのような人で、

「いくらでも相手してやるわよ。こっちには、いくらでも私のために動いてくれる人がいるんですからね」

 と言って、弁護士を脅かすのだった。

 弁護士も、少しタジタジだったが、考えてみれば、したたかな女ほど、分かりやすいわけで、話も早かった。

 そういう意味では、

「このバカ息子は、ここで辞めておけばよかったのだ」

 ということだ。

 その女にかなりの味を占めたのか、何度も似たような事件を繰り返す。

「何をやっても、弁護士が動いてくれて、こっちのいいようにしてくれる」

 というものであったが、

「男は、そんなことはどうでもいい」

 と思っていて、まるでサルのように、欲求を解消させればそれでよく、尻ぬぐいをしてくれる人の気持ちすら考えていないかのようだった。

 バカ息子のことを、さすがに親父も、

「手に余る」

 ということであったが、それだけではなかった。

 本当は、

「会社に入れて、英才教育を行い、自分の後継者に」

 と思っていたが、そんなこともできるわけもなく、妹がいるので、その妹に、

「婿を取る」

 という方法しかないと思っていた。

 そういう意味で、息子には、どうすればおとなしくしてもらえるか?

 ということで、今までは助けていたのだが、

「息子をそろそろ社会的に葬り去らなければ」

 ということで、今度は、息子の擁護には回らないようになった。

 息子とすれば、溜まったものではない。

「このままでは、俺は親父から社会的に葬られる」

 ということで、困っていた。

 そこへ声をかけてきたのが、真田だったのだ。

 つまり、この時の犯人の男は、三人目の男である、

「頼光」

 ということになるのだ。

 頼光は、もちろん、本名ではない。

「源頼光」

 から来ているのだ。

「自分の妹の仇」

 なのだということを、沖田は知らない。

 もし、知ってしまうと、

「頼光を殺しかねない」

 と思っていたのだが、真田としては、それぞれに、過去がある人間の方が、乗ってきやすいということで、事件計画を立てたのだった。

 沖田と頼光の因縁は、真田しか知らない。

 もちろん、真田も、二人のことをいかに使おうか?

 ということを考えているのも、確かだったのだ。

 沖田という男が、勧善懲悪だということを、頼光ももちろん分かっていた。ただ、さすがに自分が暴行した人の兄だとは思ってもみなかっただろう。

 頼光が、女に暴行するのは、自分の過去に原因があった。

 以前、自分の家庭教師をしてくれていた女の先生がいたのだが、その先生が、

「幼児に対して、ちょっとした悪戯嗜好の遍歴があった」

 ということである。

 その先生に悪戯されたことで、頼光少年は、トラウマになってしまったのだが、それは、

「相手が年上でなければ、勃たない」

 という遍歴ができてしまったのだ。

 それを憂いた父親が、

「少しでも、若い子に」

 と思ったことから、若い子が息子を誘惑するような形にしたのだが、それも結局、極端すぎて、

「若い子が皆自分のいうことを聴く」

 という錯覚をしてしまったことで、承認欲求が満たされないことで、犯罪に走ったというのが、今の状態だった。

 本当であれば、

「病院に強引にでも入れるべきなのだろうが、父親としては忍びなかった」

 のである。

「自分が、こんな風に息子を変えてしまった」

 という意識があるので、後ろめたさから、

「病院に入れることも、さらには、犯罪を見てみぬふりをして、後でしりぬぐいをする」

 という形にしかできないのだった。

 それを考えていると、

「頼光とすれば、どのようにすればいいのか分からず、悶々とした日々を過ごしながら、考えていることは犯罪行為しかないので、時期がくれば、また繰り返す」

 というだけのことだった。

 頼光が襲った女の中には、とんでもない女もいて、暴行されるまではおとなしかったのかも知れないが、

 その後、自分の性癖に気付いたのか、

「変な性癖を持った男たちばかりが寄ってくるようになり、そのうち悪だくみをする女も現れた」

 男を、ミニスカで煽る形で、電車に乗り、痴漢をするかしないかのところで、男が現れ。

耳元で、

「ちょっとこい」

 と言われ、女と一緒に駅裏に連れていかれて、

「あんた、この子を触っただろう?」

 と因縁を吹っ掛ける。

 要するに、

「美人局」

 のような形だ。

 そういって、相手を脅迫し、パスケースや、会社の名刺などを取られて、

「俺たちのいうことを聴かないと、どうなるか?」

 ということになるのだ。

 もちろん、犯罪は、

「現行犯」

 が基本なので、後から、

「こいつ痴漢だ」

 と言っても、なかなか信じてもらえない場合がある。

「冤罪」

 というものが怖いからだ。

 これは当たり前のことであり、

 怯えている男はそんな当たり前のことすら分からずに、

「もし通報されれば、家族はバラバラ、会社もクビ、路頭に迷ってしまう」

 ということであった。

 当然、脅迫され、金品を要求されるのも分かっている。そして、一度で終るわけなどないということもである。

 そう考えると、

「警察に本当のことを話すのがいいのだろうか?」

 と考えたが、それはできるわけがない。

 だったら、脅迫され続ける方がいいのか?

 ということであるが、それもハッキリと分からない。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 と考えるが、

 人によっては、覚悟を決めて。

「相手の脅迫者を亡き者にするしかない」

 ということを考えるだろう。

 ただ、その場合は一人でできることではないので。共犯者が必要だ。

 しかし、その共犯者というのは、

「色仕掛けで誘う」

 という方法でも使わないと、まず自分の思い通りに行動してはくれないということだ。

「金で雇う」

 という方法もあるかも知れないが、金で雇うと、

「確かに冷徹な関係だから、その金額にさえいけば、用心棒としてはいい」

 ということになるのだろうが、これは本末転倒だ。

 色仕掛けをして引っかかるような女であれば、どれほどいいのかということであるが、相手にメリットがなければ、少なくとも、思い通りというわけにはいかない。

「相手もこちらが女だと油断するかも?」

 と思ったが、それも十分におかしい発想だった。

「金にしても、身体にしても、その結びつきは、冷徹というものでなければ、成立しないだろう」

 ということであった。

 犯罪を一度犯すと、それを守ろうとして、いろいろ策を弄すことになる。

 そこに感情が絡むとどうなるか?

 ということであるが、

 真田はそのあたりのことはよくわかっていた。

「なぜよく分かっているのだろう?」

 ということなのだが、

「俺たちって、犯罪にそんなに詳しくはないからな」

 というのが、真田以外の連中だった。

 確かにいかに誘われたからと言って、いかに進めばいいのか?

 ということであるが、

 一度、この輪の中に入ってしまうと抜けられないということにしてしまうことがいかに大変であるかということであるが、それができれば、犯罪計画もうまくいくのではないだろうか?

 ということも分かるというものだ。

「勧善懲悪」

 を突き進む沖田であったが、図らずも、

「犯罪の道に入ってしまった」

 ということで、このままでいると、

「自分で自分を抑えられなくなるのではないか?」

 と思うのだった。

 それは、妹の姿を見た時に感じた。

「犯人。ぶっ殺してやる」

 と思っていたのに、少し経てば、

「どうしてあそこまで必死だったのか?」

 ということが分からないと感じることだった。

 妹が乱暴されて打ちひしがれている姿は、本当に溜まらない。今思い出しても、吐き気がしてくるほどだった。

 だが、だからと言って、

「すべてを復讐」

 という形になるわけでもない。

「自分には自分の生活」

 というものがあるわけなので、

「その思いをいかに貫いていくことで、妹の無念に向き合うことができるか?」

 ということであった。

「その両極端な、歪をいかにうずめるか?」

 ということが問題となるのだった。

 それを考えると、

「躁鬱症」

 というものを考えるという考え方になった。

 つまりは、

「極端な性格」

 というと、

「躁状態」

 と、

「鬱状態」

 である。

「死にたくなる気持ちになることがあるというが、鬱状態のように何でもかんでも悪い方に考えることから、その時に死にたくなるのだろう」

 と思っているが、実は逆だという。

 というのも、

「鬱状態から躁状態になると、その時は、自分なら何でもできるという考えではあるのだが、心の奥に、まだ鬱の状態が残っている」

 というのだ。

 つまりは、

「鬱の状態の時に、本当は死にたいと思っているのだろうが、身体が動かないので、死ぬことができない」

 という、

 しかし、今度は躁状態になると、

「このまま死にたい」

 という思いを引きずったまま、

「今なら何でもできる」

 という思いが生まれてくるのだ。

 そうなると、無意識に自殺に走るというのもあるかも知れない。

 だから。むしろ、

「鬱状態よりも、躁状態に移る時の方が、一番恐ろしい」

 ということになるのだろう。

 それを考えると、今度の事件でも、

「誰か躁鬱症の人がいるのではないか?」

 と思ったのは、

「今回の事件で、二人ほど、死にたい」

 という人が現れたからだった。

 逆にいえば、その二人は最初にそう感じたわけではない。

「自殺菌」

 なる、

「ウイルス」

 なのか、それとも、

「細菌」

 が、人に伝染することで、自殺志願者が出てきたのだろう?

 ということであった。

 だから、最初に感じた。

「自殺志願者が、躁鬱症なのではないか?」

 と考えると、自殺志願者を探すよりも、躁鬱症の人間を突き止めて、その人を何とかするしかなかったのだ。

 それができる人間ということになると、それは、

「何ら精神疾患が一番なさそうで、この事件の首謀者である真田しかいないだろう」

 ということになるのだった。

 真田は、今まで自分で、

「精神疾患だ」

 と感じたことはなかった。

 それを感じそうになったこともあったが、その直前で打ち消した気がしたのだ。

「自分から打ち消そうとできるのだから、精神疾患ではないということに違いない」

 と思えたのだ。

 明らかに、疾患があるといえるのは、頼光であろう、

 北条は、真田と同じで、そういうことはないと思ったが、

「真田が見つけていた以上。何らかの疾患があるに違いない」

 と考えたのだ。


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