ネゴシエーション

もも

ネゴシエーション

 仕事終わりで疲れてるのに、わざわざ来てもらって申し訳ない。

 配達の仕事って大変そうだよね。ストレスもたまるでしょ。イライラ、ちゃんと解消できてる?一品置いといたから、ちょっとつまんで一息入れてよ。どう?美味しい?良かった!いや、今日はちょっと今後の仕入れのことで相談したいことがあって。

 それにしてもこの間は本当大変だったな。うちって基本的に品のいいお客さんが多いんだけど、一週間ぐらい前だったかな、まぁまぁ面倒な客が来てさ。やれ食材の産地がどうの、あそこの地酒がないなんて最悪だとか、色々文句言ったり他のお客さんに絡んだ挙句、お会計の時もこっちにお金投げつけてきてね。「二度と来んな」と思ったけど、よく見たらその客、このあたりでは割と有名なヤツでさ。あ、もちろん有名ってダメな方でね。君もこの界隈回ってるなら知ってるでしょ。そういえば最近その客全然見掛けないけど、どこでどうしてるんだろうね?まぁどうでもいいんだけど。

 あの次の日だったかな。配達来てくれた時に「サービスです」て渡してくれた食材あったでしょ。結構脂の乗った塊肉。角煮っぽくして出したらお客さんにめっちゃ好評でさ。「また食べたい」てよく言われるんだよね。そう、君がついさっき食べたヤツ。あの肉、また入れてくれないかな?うちもそろそろ看板になるようなメニューを作りたくって。もちろん、入手するのに手間が掛かるってのは重々承知してる。でも、君が手を貸してくれたらうちは助かるし、お客さんも喜んでくれると思うんだよね。この辺り、いい肉持ってそうなのいっぱいいるから情報渡すし。

 ん?口元押さえてどうした?気分でも悪くなった?

 ……なんだ、笑ってんじゃん。よし、じゃあ交渉成立だ。

 これからもどんどんよろしくね。


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