偉大な作家の原点を丹念に描いたエッセイ

 父・徳太郎との関係性の描写が印象的でした。店の経営に悩みつつも、息子に法曹の道を期待する父親の姿が生き生きと表現されています。「先生と呼ばれたい」という父の夢を、息子たちが想像もしない形で叶えるくだりには、感慨を覚えました。

 銚子という港町の雰囲気も魅力的に描かれています。アウトローたちが幅を利かせる街の様子が伝わってきて、菊地作品特有の哀切感の源流を垣間見ることができました。

 著名な作家の原点を丹念に描いたエッセイとして、読み応えがあります。菊地秀行というクリエイターの人間性や作品世界への理解が深まる小説だと感じました。彼の創作の源泉とも言える少年時代の体験を追体験できたことは、得難い経験でした。

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