カワセミ、飛翔

 この世界は、一体何が正しいのだろう? 信じた人に裏切られ、振り回され――母を失った。

 私が到着した時、母は既に、たくさんの煙を吸っていたらしい。くいなと共に母を抱え、鯉庭から脱出するも、救急車やドクターヘリ、警察はアリの行軍よりのろかった。誰かがそうさせたみたいに。その上、彼らは真実を知る事無く、全ての幕を下ろした。不完全な舞台。私は端役だった。

 せめてもの救いは、こうしてくいなと一緒に居ることだ。事件後、彼女は抜け殻のようだったが、少しずつ回復の兆しを見せている。

「姉さん……」

 このままで良いのだろうか。姉は先輩と共に、何ごとも無かったかのように日常に戻っている。それで良いのか、本当に?

 私の手の中には、姉が私に押し付けたサイコロが握られている。このサイコロは不思議なことに、何故だか六の目しか出さない。きっと重りが内部で偏っているのだろう。いわゆるイカサマサイコロだ。

 私はサイコロを投げる。六の目が出る。

 賽は投げられた。きっと、そういうことなのだ。

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力への遺志 ささまる/齋藤あたる @sasamar

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