最終話

 ご協力ありがとうございます。

 ここまでが報酬を受け取るためのルールだったもので、本当に助かりました。


 まあ、ほとんど賭けでした。上手くいって良かったです。読んで頂くための工夫には骨が折れました。ですが、そこそこ楽しんで頂けたのではないでしょうか。いやしかし、皆様のおかげで、何とかチャンスを掴めそうです。どうやら、保安局も過去への干渉にはなかなか時間がかかるそうで…。まあ、その時まで生き延びられたら、私としてはそれでいいんです。今後、ご迷惑をおかけしますが、何卒ご容赦下さい。

 …ああ、説明が足りませんよね、すみません。ご協力していただきましたので、せっかくですし、お話しますね。



 前の話でも述べたように、未来はですね、過剰な資本主義によって貧富の差が異常に広がってしまったのです。パレートの法則ってご存知ですか? いわゆる、8対2の法則と言われるものです。経済学者のパレートが提唱した「2割の民が資本の8割を所有している」という法則のことを言います。まあこの法則は、資本に限らず人間社会や自然界にも広くみられる普遍的なものらしいのですが。かつては、資本主義の恐ろしさを表す言葉でもあったパレートの法則。残念ながら、未来においてはその差はさらに広がりました。8対2に留まらず、9.9対0.1なんて言われています。一部の金持ちだけが、どこまでも果てしなく幸せな社会なのです。世界が一つになり、そこで生まれたものは平和──もとい貧困な平和だったのです。…こんな社会になって初めて思いました。不寛容に対して、ある種寛容だからこそ、平和なのです。一切の悪戯いたずらが許されない社会は、ただのなぎに過ぎません。水面みなもは揺れるからこそ、美しいのです。

 また、政府はすでに独立した機能を持っておりません。企業と癒着しております。そのため、為政者いせいしゃも、皆例外なく億万長者です。…民が9.9割もいるのなら、反乱が起こせるんじゃないかって? 残念ながら、それは難しい話です。彼らも馬鹿じゃありません。生を受けた途端、脳にマイクロチップを埋められる時代ですよ。私たちは常に監視されており、逃げ場などどこにもないのです。AIを用いれば、私たちの管理など容易たやすいものです。過去、権力者に抗う武器だった科学ですら、今は彼らの味方です。

「マイクロチップを脳に埋め込むのが義務だなんてどうかしてる」

 そうお思いでしょう。…でも、あなた方、スマートフォンはもう当たり前に使っているのではないのですか? つい20年ほど前までは存在しなかったのに。…それに害が無いと、本気でお思いですか。その機械に、あなたの個人情報を、何度打ち込んだか覚えているのですか。その情報が、本当に収集されていないと思っているのですか。つまり、そういうことです。未来も現代も、大きく変わるものはありません。我々の人権など、遥か昔から形だけの物なのです。常識を疑うことがどれだけ困難なことなのか、お分かり頂けましたでしょうか。

 もちろん私も例外無く、貧困層におります。まあ、貧困と言っても、死ぬことはないですよ。…生きてもいないだけです。

 私は、どうにかして、抜け出したかったのです。巻き込んでしまったことは、お詫びします。ですが、別に、物理的な危害が加わるわけではないので、安心してくださいね。…私たちに何をしたのか、ですって? 利用規約に明記したではありませんか。…まあ、あんなに細かいもの、わざわざ誰も読みませんよね。白状しますと、敢えて分かりづらくしました。でも、正当化は出来ませんよ。同意したのですから。…え? 文字化けしている箇所があった? 残念ですが、それは言い訳にはなりません。昔、それに近い事件の裁判がありましてね。結果としては、問題ないという判例が出てしまったものでね。…そうですよね、どう考えてもおかしいですよね。そんなことが許されるのか、そう思いますよね。…それでも、後藤家に逆らう方が悪いのですよ。法律も、彼らの味方です。現代になって、賄賂も復活するのだから、面白いですよね。もしお暇でしたら、翻訳してみてください。


 ああ、すみません、私の悪い癖ですね。話が脱線してしまい、だらだらと長く話してしまいました。そうですね、私が一体何の目的で、何をしようとしているのか、まだお話していませんでしたね。…まあ、大方想像がついているかと思いますが、お話しますね。

 未来でも、いや未来の方が情報には価値がありましてね、これで沢山のお金を稼げるのですよ。…いやいや、呪いとか、そういうものじゃないですよ。そんな非科学的なことを、私は話しません。皆さんに近いところで言えば…チェーンメールみたいなものです。どうやら、私の雇い主はチェーンウイルスを開発しているようでしてね。特定のページを閲覧することで、人の脳内にウイルスを仕込むというものです。その効果を調べるために、今回実験させて頂きました。つまり、ここまで辿り着いたあなた方の脳内には、既にウイルスが仕込まれております。この時代の医療技術ですと、まあ、取り除くことは不可能ですね。申し訳ないですが、諦めてください。ああ、過去を舞台にしたのは、現代だとすぐに保安局が飛んできてしまうからです。なぜこんなものを必死に研究してるかといいますと、私も詳しくはないんですけどね、雇い主曰く、この研究がうまくいけば軍事産業に利用できるとか何とか…。まあ、私には関係のないことですが。


 まあ、何が言いたいかといいますと、ここまで読んで頂いた皆様に、プログラミングとしての幽霊が現れるようにしただけです。大丈夫ですよ、ただのプログラミングです。


 …ただですね、呪いと違ってプログラミングなので、。そして、その時が来たら、あなたの視界には幽霊が映り続けます。














 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。

 死ぬまで。



 ごめんなさいね。

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幽霊の非存在に関する、際限の無い人間の経済活動 路地表 @mikan_5664

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