彼を地獄から救い出してくれた彼女は老いた桜の精霊だったのかもしれない

那智風太郎プレゼンツ『桜猫企画』優秀作品 Best 6

愚かな人間によって創り出された凄惨で冷血な牢獄。
命さえ危うかった彼をそこから外の世界へと導いてくれたのは過去に悔いを残し、老いと病に朽ちようとする一匹の白猫だった。

巧みな擬人化手法により猫たちの記憶や心情が生々しく描かれていて、登場人物は猫たちであるにもかかわらず恐怖や怒り、嘆きといった感情を共感してしまう。
また陰惨な室内の光景と小さな隙間から覗く薄紅に染まる春の光景の対比がなんとも切なく感じられた。
何より相反する命の儚さと重さが矛盾なく作中に同居していて、そこに一種の訓戒のようなものが示されているようにも思えた。

最後にこの作品が動物たちが安心して人と寄り添い暮らせる社会を作り出す一助となって欲しいと心から願いたい。

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