第9話 別れ

 最終日、律子さんが送別会を開いてくれた。


 苺のショートケーキや海の幸、特産の牛肉ステーキ、海藻と野菜のサラダ等豪勢な食事が食堂のテーブルに並ぶ。


「ずっと賑やかで楽しかったから、寂しいわ」


 律子さんはハンカチを目に当てた。


「また遊びにこようぜ、皆で!」と遊星が言い、皆が頷く。


 両親と桃太郎に会えるのも嬉しいが、律子さんや仲間達と離れるのは辛い。こんな気持ちは久しぶりだった。


 酔った高岡がカラオケでサザンの『渚のシンドバッド』を歌い、梨花は過去の男への恨み節にクダを巻き、遊星は高校の担任の物真似をして盛大に滑った。


 私は酔って腹踊りを披露した。恥ずかしかったが、笑われたりドン引きされるのが何故か気持ちよかった。何より律子さんが笑ってくれたのが嬉しかった。


 翌日、私達は旅館のバスでフェリー乗り場に向かった。この一ヶ月、辛いこともあったがやり切った達成感と皆と別れる名残惜しさで胸が一杯だった。


 見送りに来てくれた律子さんに私は勇気を出して声をかけた。


「一ヶ月間ありがとうございました。また会いにきます」


 律子さんは「楽しみにしています」と微笑んだ。


 到着したフェリーに遊星と梨花と南、高岡とともに乗り込んだ。


 汽笛が鳴り、船が動き出す。


 岸壁で手を振る律子さんの姿が遠くなる。涙で視界がぼやける。


「律子さん……ううう〜……」


「泣くなよ、彦りん」とチャラ男が私の背中を摩り、「泣いてるし、ウケる。元気出して」と梨花が声をかけてくれる。


「泣くな、シャキッとしやがれ!」


 そう言う高岡もグラサンを外して涙を拭っている。案外つぶらな目をしていた。

 

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