第7話 高岡という男

 教習も終盤になった頃、路上教習で梨花の運転する車にグラサンと同乗した。グラサンの名前は高岡という。


 教官は梨花の憧れる一ノ瀬という若い男だった。私はこいつがいけ好かない。女には優しいくせに男は容赦なく怒鳴りつける。挙句女子達にセクハラを働くと有名だったからだ。

 

 一ノ瀬はこっそり梨花の脚を触ったり、耳に顔を近づけ何か囁きかけたりしていた。最高に気持ち悪い。梨花も嫌に違いない。何もできない自分に苛立った。


 途中私が運転を変わると一ノ瀬は途端に態度を変え怒鳴り続けた。眩暈と吐き気がした。


 帰りは高岡に交代した。交代直前車の外で私の顔を見た彼は「お前大丈夫か?」と声をかけてきた。「大丈夫です」と答え後部席に乗る。天井が回る。


 不意に高岡が助手席のドアを開けたかと思うと、一ノ瀬の肩を掴んで外に引き摺り出した。


「お前何しとんじゃワレ!! 女にセクハラした挙句男にはデカい面しやがって!! お前みてぇな奴が人に物教えんなボケ!! 口ん中に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろか!!」


 尻餅をついた一ノ瀬は蒼白になり震えながら「すみません……許して下さい」と謝った。


 帰りの車内は静かだった。


 教習所に着いて高岡に礼を言った。


「あの……さっきはありがとうございました」


「良いってことよ、ワシもアイツには苛ついとったんじゃ」


 女なら、高岡に抱かれてもいいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る