蛍島教習所

たらこ飴

第1話 鬼ヶ島とゲロ

「島だ! おっさん、島が見えたぞ!」


 金髪チャラ男が叫ぶ。会ったばかりなのに、何故か非常に馴れ馴れしい。


 激しい吐き気が込み上げ、私はまた海に吐いた。船酔いでデッキの手摺に張り付き、既に30分以上が経過していた。


「おっさん大丈夫かよ?」とチャラ男が背中を摩る。


 視界がグルグル回り冷や汗も出る。呼吸も苦しい。


「いっそ殺せ……殺してくれ……」


 繰り返す私にチャラ男は「海に落とせば殺せるけど、刑務所入るのは嫌だな〜」と返す。


 遠くに見える蛍島が私の目には鬼ヶ島に見える。来るんじゃなかった。もう既に帰りたい。だけど全ては桃太郎のためだ。


 海面を流れる吐瀉物を見送りながらまた吐いた。春のパン祭りならぬ夏のゲロ祭りだ。私のせいでこの美しい海が汚れ生態系を破壊したらとても申し訳ない。


 今まで迷惑をかけてばかりだった。勤めていた会社の課長にも「お前は馬鹿だ」「役立たず」「生きてることを謝れ」等と罵倒された。


「すみません……生きててすみません」


 譫言みたいに呟く私にチャラ男が「何謝ってんのよ! あ〜腹減った!」と能天気に叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る