第6話 涙の電話

 午後の教習が終わった。流石の遊星も疲れたのか帰りのバスで寝ていた。


 宿に着き食堂に向かう。夕飯はネギトロ丼と焼き秋刀魚とほうれん草のお浸しと豚汁。頬がとろける美味しさだ。


 その後家に電話をかけた。母に桃太郎を出してくれと頼むと、間も無く電話口で荒い息遣いが聴こえた。


「桃太郎! 元気か?」


 ワンっ、と桃太郎が嬉しそうに鳴く。そうだ、この声が聴きたかったのだ。心が喜びに溢れた。


「桃太郎、私は頑張るよ。教官は怖いし久しぶりの外界で緊張するが、お前のために頑張るからな!」


 ワンッ


 もう一度桃太郎が鳴く。


 電話を切ったあとスマホを握りしめ泣いていたら、部屋にやってきた遊星に「また泣いてるよ!  彦りん、泣き虫だな〜!」と笑われた。


 それからの日々も忙しく過ぎた。


 厳しい教官は苦手だが、栄田さんという年配の教官の時だけは楽しく運転できた。彼はジョークの達人だ。


「笑い過ぎて林檎畑に落ちるなよ」と言われ腹が捩れた。


 他の教習生達とも徐々に打ち解け、律子さんとも話せるようになった。


 最初は怖かったが、思い切って来て良かった。

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