第2話 私と桃太郎

 私は田端俊明45歳。ブラック企業で勤務中、過労と激しいパワハラにより鬱と不安障害を患い退職。15年間ニートの引き籠りを続けていた。


 不摂生で自堕落な生活を送り体重は20キロ増え頭は禿げた。年老いた両親は心配していたが、人生をやり直す勇気はなかった。


 愛犬の桃太郎がアジソン病だと分かったのは先月のことだった。免疫や代謝に関わるホルモンが生成されなくなる病気で、月に一度の注射をしなければ命に関わるという。


 母から聞かされた時はショックで咽び泣いた。中年男が泣くなどみっともないと思われるだろうが、桃太郎は唯一心を許せる大切な存在なのだ。


 桃太郎は5年間毎日私の隣で眠り、落ち込んでいる時頬を舐め慰めてくれる。ゲームをしていると構えと鳴き私の周りを駆け回る。


「注射をすれば健康な犬と変わらない生活ができるって、お医者さんが言ってたわ。だからそんなに悲観しなくてもいいのよ」


 母親は励ましたが、心配でならなかった。もし万が一桃太郎の容体が急変した時誰も家にいなかったら?


 私は免許がない。一番近い動物病院まではバスで1時間近くかかる。


 運転さえできれば、何かの時に私が桃太郎を病院に連れて行ける。


 私は免許をとりにいくことに決めた。

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