耳栓
3
「あなたは、おかしいのではないでしょうか」
患者であろう、男は、白い椅子に座らされ
目の前を、青白い、LEDライトの丸い小さな、点が、白衣を着た人物により
左右に、揺さぶられる
それにつれて、男の焦点は、その丸い点を、追うように、揺れる
「あなたは、この点を、追っている
それは、私が、指示などしていない
しかし、あなたは、それを、追っている
それは、あなたの心の中にある
本能でしょうか
あなたは、正常ですか
あなたは、意志は、あるのでしょうか」
医師は、また、手持ちのライトを、揺れ動かし
男は、その丸い玉を、必死に、追っていた
「しかし、今回の件は、非常に、厄介でしたね
まさか、小さな水槽に、閉じ込めていたなんて
全く不可思議な、話です
これは、全パートに、分類しても、300番台のファイルを、見るくらいしか、分類上が、ありませんが
しかし、そうは言っても、そう言う分類と言ってしまえば、それまでにも、思えます
あなたは、かなり、南の方へと、派遣されましたが、調子の方は、如何ですか、バガンディー」
電話の相手の返答は、一切なく、女は、その考えを、続けていく
「それで、先日、あなたの今いる場所の隣の町で、非常に、大規模な火災があったけど
あなたは、其れの調査を、お願いしたいのだけれど」
女は、相手の返答など聞かず、やってほしい事の内容を、話していく
しかし、その答えは、絶対的に、相手に聞こえてはいない
なぜなら、最初の冒頭で、男は、電話を切っていたからに他ならないのである
「あれ、電話が、つながって、居ないじゃない、何なのよ、全く、でも、どうでも、いい仕事も、せずに、一体、何をしているのかしら」
女は、ノートパソコンに、文字を、打ちながら、コーヒーに、口を、付ける
酷く苦い味が、ざらざらと、舌の上に、残っていた
「もうそろそろ、私は、この場所から、はなれなくては、なりません
あなたは、無事、この場所を、卒業できます
あなたは、この部屋を、出ると、そのまま、廊下を、歩かなければ、なりません
あなたは、その先を、進むことで、この場所を、無事、出る事が出来るでしょう
あなたは、卒業する事が出来るのです」
医者の言葉は、男に届いているのであろうか
横たわっている男は、ぼんやりと、上を見ている
その挑発は、白く
ところどころ、黒い色が混じっている
「分かりましたか」
医者は、下を、覗き込みながら、男に言う
男は、ぼんやりと、医者を、見続けていた
「それじゃあ、私は、この場所から、去ります」
男の目の前から、立ち去ろうとしている
医者に対して
男は、立ち上がった
ちょっと待ってくれ
医師は、立ち止まる、少々、早すぎる
「あなたは、私が、立ち去った後に、廊下を、まっすぐ進んでください」
しかし、その返答に対して、男は、邪魔そうに、前髪をかきあげた
その時、床に、小さな、豆のような、オレンジ色のものが、一つ
そして、もう一つ、また投げつけられた
「・・・あなた」
目の前の、男は、こぶしを、振り上げると
医師を、そのまま、背後の書類棚に、ぶつけると
怒鳴りつけるように、言った
「お前、廊下の先は、地上へと続いている
外だ
こんな、半分燃えたような廃墟
よく、患者を、地上五階から、落とそうとしたものだ
そんなに落ちたいなら、言葉じゃなくて」
ずるずると、男は、医師の首を、掴んで、歩き始める
「まあ、待ちなさい、あなたは、立ち止まることも、出来るんじゃないですか」
しかし、男は、引きずるように、歩くだけで、全く言葉が届かない
「聞いているんですか」
医師の首は、焼けた、ビルから、外へと飛び出している
「お前の無感情の言葉は、俺には、届かない」
はなした手
男は、ぼそりと
「感情が、無いんだよ」
と、言いながら、耳元から、また、オレンジ色の豆のような、耳栓を、取る
「聞きたくない言葉は、良くに自分に、害になることは、聞かない方が良い」
男は、そう言いながら、耳栓を、握る
彼のポケットから、着信が響く
見ると、先ほど、秒で、切った相手からだ
男は、受話器のボタンを押す
その耳には、耳栓が、詰め込まれながら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます