終わりの常夜

長い廊下を、私は一人歩いていた

どこかで誰かの視線を、感じるが、それがどこなのかは、分からない

そんなものが、存在するのか、それとも、私自身の妄想がなす

幻想だと言うのであろうか

しかし、私の核心を確かめるための実っ的証拠と言うものが、背後で、靴音を、立てて、鳴り響いた

「誰か居るのか」

私の心音ばかりが、やけにうるさく、その靴音さえも、あやふやに誤魔かしていた



一人私は、廊下を歩き、オフィスに、入った

アルミの材質の扉が、何とも、嫌な古さを、演出している

中に入ったところで、誰かが返事や挨拶をするわけではない

しかし、妙な、音がしている

この音は何だろうか

「サージ、ここの映像を、もっと、詳しくお願い」

向こうの席で、そんな話がある

しかし、私は一人、映像を、眺めながら

別の仕事をしている

ここにつながりはない

しかし、結果的に同じことだと言うが、本当であろうか

「サージ、だから、駄目じゃない」

この声の人物に、思い当たりはある

しかし、見えないし、本当に、そんな人物は、居るのだろうか

私の思い違いで、実は、このパソコンばかりがある、机の向こうには、だれも居なくて、ただ私が、ここで仕事を、させられているのではないだろうか

キーボードの音はしない

しかし、どこかで、何かの音がしている

何だろうか

「サージ」

反対側からは、声がしている

何の要求だろうか

私は耳を澄まそうかと悩んでいる


「今朝、三十人の人間が、路上で、重体の状態で、発見され、直ぐに、病院に、搬送されました

目撃者はおらず

辺りには・・・」

私は、ラジオを、ポケットに、潜ませながら、事の重大性を、聞いている

本当に事件はあった、そして、私は、それを、見てしまった

しかし、誰も知らないし

そして

私は、別のラジオへと、中の機械の回転する選局を、回すと

ノイズに交じって、別の局が、流れ始める

「新宿で、起きた、この異常事件は

今朝方、通路で」

やはり、少しの言葉の違い

これは何を意味するだろうか

このどうでも良いような、断片は、私と言うアルコールの飲めない人間を、極度に酩酊させた

さて、次の選局を

信号のボタンの横

私は、過ぎ去る車の前で、立ち止まる

誰も私には、興味を示さない

しかし、私は、何があったのか、あの場所で何が起こったのか

そして・・・・

肩を、何者かが触った

掠っただけか

そう思い振り返ると

私の肩には、明らかな重みが、モッズコートの緑色の布の上に、置かれ隣に、誰かいる

そいつは、私よりも、古いコートを着込み、雨もないのに、深くフードを、被っている

匂いはないが、しかし、酷く、つぎはぎと、そして、汚れたズボンのすそだ

ナニカ

私の、言葉は、私の言葉は、紡がれず

相手は、肩を、そっと押した

私の耳からは、何か音が聞こえていた気がする


「それで、誰に、押されたか、分かりますか」

目の前の白い壁に、派手なスーツを着た

警察のような女が、椅子に座っている

私は、白いベッドにいた

パイプ椅子に座ったその女は、メモを、小さなピンクの色の手帳に、阿保みたいに細い鉛筆で、文字を書いているらしかったが

縦にノートをとった時、その文字は、奇麗に写せるのであろうか

「はい、犯人です

あの事件現場で、私が見た、あの男・・いや分かりません」

女の人は、マスカラを開き、こちらを見る

「見たんですか」

やけに大仰な動作に反比例するように、言葉は、馬鹿みたいに冷静だった

「はい、フードは、被ってはいませんでしたが、顔は見ませんでした

髪型だけです」

女性は、ペンを置いて、こちらを見ながら言う

半分口元がノートに隠れていた

「髪型は・・いや、顔は、押された時には、見なかったんですか

フードの中、見えませんでしたか」

私はそこで、首をかしげると言うか、ぎょっと、したことに、気が付いた

そいえば、どうして、全て髪で、おおわれていたのだろうか

あれは、どうして

私は、疑問を残しながら、女のあいまいな質問の餌食になっていた


先ほどから音がする

昼食から帰ると、先ほどと同じような、会話が、繰り返されていた

何だろうか、それほど、重要案件なら、私の方へと、回しても良い物であろうに

しかし、皆同じ山だからと、それは点でバラバラバラに行われている

せいぜい、この時期になると、電源が落ちやすく

それを、皆で修理することがあるが、共同作業などそれくらいであとは、顔さえ見ないことも多い

しかし、相手の名前に、聞き覚えもない

そして、今喋っている人間と、私が顔と、名前を、一致させたのは、いつ以来であろうか

パソコンを、打ち始める頃には、私の脳内には、雑音のように、音ばかりが、鳴り響いている

私は、キーボードを打ち付けていた


「しかし、えらいことになったな

死者が、多すぎる

実際には、死んだふりをしてもらってはいるが、それにしたって、プロの死傷者が年々増えているのは問題だ

シリアルキラーだろうが何だろうが、それを上回る人間を、

使用すれば、良いのであって

別段、それで、抑圧が、効いていればいい

しかし、どうにも、事故死が、多すぎていけない

そう思うだろ」

だれも居ない部屋

廊下で、先ほどから誰かが歩いている

誰だろうか

入口の扉は、閉まっているはずだ

「しかし、問題点は、数多い

今日も、何人も、殺人鬼へと、アイディアを、出しに行った

係の者が、行方不明だ

それも、プロだ

ありえない

奴らは、一体どうして、殺されたと思う

これは、時代の流れか、ジェネレーションギャップか」

誰も答えることはない

しかし、なぜか、扉が開き

そこに靴が見える

ダレダ

それに対する返答がない事を

知って居る

なぜなら、それを聞いた時には


私は、一人、布団の上

ひかれて折れた

足を、痛みから解放するように

別のことを、考えようと、苦心する

幸いにして、ラジオは無事であったが

しかし、聞く気にもなれず、痛い思いを、離別するように、天井を見る

小さな丸が、天井一面に、凹凸のせいで見える

まるで、目玉の様だ

誰かが、その中の誰かが、私を見ている気がする

足が痛む

布団が、やけに、熱い気がする

誰が見ているのだろう

その時

「ただいま、走った情報では、現場の監視カメラに、少女の映像が、映りこんでおり

、情報提供を、有用に願える可能性があり

彼女、また、引き続き、犯人の姿の提供を、求めております

なお、ただいまの・・・」

ゆっくりと、扉が、開き

明かりが、漏れ込む

誰だろう

ここは、個室

他の四つのうち、一つを除き

誰も入ってはいない

目の前にいるのは、看護師ではなさそうだ

男か女かではあるだろうが

それは、やけに、中性的な

顎辺りまである

髪を垂らしている

でもなぜだろう、見たことがある

口さえ見えないその長い髪

でも、私は、見覚えがあった

それは、よく鏡で見た

私の顔に、よく似ていた


「誰だ、レベル213の殺人鬼を、レベルが、それ以下のプロを、当てたのは

そのせいで、管理官まで、たどって、殺されたじゃないか

あいつは、今、精神病棟で、自分を見て、鏡の向こうのやつを、毎日、殺したと言って喜んでいるらしいぞ

おい、誰だ」

靴音が、廊下で聞こえる

先ほどまで、居たと思って居た人間は、今目の前にいただろうか

靴音が聞こえる

あれ、何の音だろうか



「しかし、この組織も、もうやめて、市民に、委ねようじゃないか」


「そうですかね、私は、これでも、びっくり人間大集合みたいで、良かったと思いますよ

いい友達は、理解者である必要性は無くても、会話は出来やすいじゃないですか」


「それが、最終手段的な殺すと言うものでなければいいのであるが

どちらにしても、元の通り、いつの間にか消え、そして、捕まる

その方が、彼らのリスクが少ないんじゃないか」


「リスク、金の事か」


「さあ、どちらにしろ、リスクと言うのは、法律による担保だ

そう言う、想像力が、働かなくなった現代

思い出すには、丁度良い

最初から、そんなものは、存在しないと」



「つまり、プロも閉鎖ですか」


暗い廊下を、二人の背広を着た人物が、歩いて行く

常にともっていた

常夜灯も、彼らが、過ぎ去った後から後から、消えていく

この扉が閉まるとき

本の中の

人物たちは、水槽の中から、また、野生に、戻るのである

法律も、感情もない

ただ、ルールに従う生真面目なヤゴが。

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キラーキラーキラー イタチ @zzed9

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