眠る男
男は居眠りをしていた
男はまどろみの中、寝息を立てている
部屋の中央にある巨大水槽は
部屋の温暖さで
外は極寒の寒さにもかかわらず
表面にびっしりと露結を示している
男は、まどろんでいた
その目は細く、何も見ていない
ただでさえ温かい室内
そのやせぎすの骨ばったような体を猫のように丸め
その男は寝ていたのである
部屋の監視カメラは、定点的に、男を、監視していたが、その男は、動くこともせず、時折辺りを監視している様子が、伺えた
「おい、様子はどうだ」
監視していた人間が、声をかけられたが
それに対して、返答はない
なぜなら、その顔は、酷く青ざめ
この世のものでない何かでも、見てしまったように、画面にくぎ付けにされていた
いや、実際は、放心して、そこから顔を離せなかったと言うべきなのか
どちらにしても、そこから、目を離せないのは、何か、離してしまったら
自分が危険な目にあってしまうのではないか
そんな、危機感からだったのかも知れなかった
「しかし、A36なんて、本当に、大丈夫でしょうか」
仕方がないだろう
上級が、皆、ことごとく、抑圧に失敗している
こうなっては、取り出すしかないだろう」
男の手に、握らられた、青いファイルを開くと、そこには、様々な資料が、透明のビニールに、挟み込まれている
その中の一枚に、文字に囲まれるようにして、四角い写真が、四隅が、写真に合うよう切られた代盤に、入れこまれていた
その写真を見ながら
「でも、他にも」
そう言われるが、男は、肩をたたいて
「まあ、仕方がないじゃないか、あいつが適任だと、そう思われているのだから」
写真には、白い、クッションのような壁と天井の部屋
そして、拘束されている
長身の男が一人、部屋に、そばくされている
「でも」
鉄の扉が並ぶ部屋の一室
「まあ、危ない中では、半分ほどは、まともな奴だからさ」
そう言って、小さな出窓の中
アクリル板は、どこかこすれ
それが、内部から傷つけられているようで
見えにくいが
しかし、中で、誰かが居るのがわかる
それは気配ではない
それが、ぼんやりと、曇りガラス越しのように見える
「本当に」
そう言いかけて
青いファイルを持った男がそれを制す
「くどいぞ、それよりも、相手が、もう、来る頃だ
早く、潤滑に進めなければな」
ファイルの情報を、読んだ、もう片方は、酷く疑問に思う
大丈夫なのだろうか
世の中には、絶対などありえないのだから
本当に・・・
分厚い、鉄の扉が、ゆっくりと、音を立てて、開く
やけに、濃密な空気が、扉の内部から、押し出されるように、外に漏れだしてきた
男は思う
大丈夫だろうか
「はい、それはそれは、いい人でした、昼間は、きっちり働いてくれるし
酒ギャンブルは、やらないし
それどころか、夜に、どこかに行くこともなく
実に規則正しく、家にお帰りになって、奥さんが居ないのが不思議なくらいです」
神父の聴取では、このようになっている
彼が、突然、この街から居なくなったのは、それは、我々が、捕獲したことによるものである
しかし、それでも、情報は、多い方が良い
彼は、実に普通に、抵抗し、そして、あの鉄の棺桶のなかに、そばくされた
しかし、全く、何の
それこそ、抵抗はあるものの
それは、ごく普通の成人男性のそれであり
言動、体力、その他もろもろにおいて、それは、異常なところを、何一つ見いだせなかった
そう、夜までは
あくる朝、この独房施設において、生存者は、誰一人として、存在していなかった
彼一人を除いては
彼は、直ぐに、捕獲されたが、昨日の記憶は、存在せず
ただ、この場所の異常さに、怯えと、絶望を、覚えているようであった
しかし、次の日、また、同じことが起こった
移動した別のその施設が、壊滅したのである
彼は、多少動けるだけで、とんでもない、行動をしでかす
それは、人知を、超えているようにも又、悪意だけが、抜け出したような存在にも思われた
コンクリートの破壊
鉄格子の破壊
到底、それは、暴力性、太刀打ちできるものを、見いだせずにいたのである
それゆえに、昼間の行動は、許されるが、しかし、就寝時には、頑強なそばくを、必要とした
さすがに、最初から固定されていると、勢いが、付けられないらしく、まだ、そばくを、抜け出せてはいない
彼は、初めの惨殺現場を見て、それを、自らが行ったものだと、説明されると、大人しく、この監獄に入っている
しかし、奇妙な、一連の話の発端となるのは、彼が、いかにして、我々の目に、止まったかについてだ
ごく普通であり、なおかつ、彼の周辺で、死体が、見つかった例はない
しかし、あの捕獲された時、辺りに生きている人の姿は、何処にも存在してはいなかったし
それは、そのまま、残されていた
何か、どこかに隠蔽工作をすることなく
これは、どうにも、差異が、生じる
まず、第一に、いかにして、彼の発見に、至ったか
それは、単純な話であり、彼と言う存在が、この街での唯一の生存者だったことに、起因する
ある日突然
この街の人間が、失踪した
それも、一人や二人ではない
それがどのような事態でそうなったのかは、分からない
しかし、居なくなったのだ
そんな街に、ただ唯一、この男と
そして、わずかに残った、日記などの記録媒体で、男の印象を、割り出したが
しかし、どうにも、この奇怪な事件は、どのように起こったかの再現には、至らず
そして男は、今日も、そばくされ続けた
夜を、過ごすわけであった
しかし、今日、男の部屋から、男は、連れ出される
これが、常に、発狂しているようなやつでは、ただ閉じ込めるだけであろうが
しかし、この男は、残念ながら、半分ほど、人間ぽく見える
と言う理由で、外に、連れ出された
一応のそばくは、されているが、こいつが、寝落ちしない限り、特に問題はないだろう
「大丈夫でしょうか」
それは、誰に言っているのかわからない、独り言なのか、それとも、誰かに心配を聞いてほしかったのか
どちらにしも、車は、発進しているし
男は、一人、不安そうな目で、辺りを見ている
私は、つい、声をかけてしまったいか
「何か、欲しい物はあるか」
相手は、固められた状態で、首を横に振ったように思われたが
釈然とはしない
「どうしてお前は、人を・・」
上司が、私を「おい」と止めた所で、車が止まり会話は、停止した
一方通行であったが
辺りは、徐々に暗くなろうとしている
「急いだ方が良いだろうな」
そんな声が、聞こえるが、私は、夢うつつに、足を、しっかりと、立たせなければならないと、踏ん張ったのであった
「それで、何があったんだ」
俺は、部下を見た
ちょっとトイレに行っているすきに
部屋には、あの監獄の中の人間が
一人になってしまった
「どうしたんだ」
部下の様子は、明らかにおかしい
どうしたと言うのだろうか
私は、急いで、監視カメラの映像を、巻き戻そうとして、気が付く
なぜか
いや・・・そうか
私は、あることに気が付いた
いや、気づくべきだったことに
男は、どうやって、人を殺したか、それがいまだに、分かってはいなかった
映像はすべて、壊されていたし
それは、この、あの映像の中の男の暴力性だと、そう私は、思い込んでいたし、そう記されていた
しかし、本当に、一人で、そんな事が、可能なのであろうか
本当に、夜だけ、暴れたのだろうか
全ては、憶測に過ぎなかったのではないか
私は、信じるものを・・・・
その時、誰も居ない
いや、なぜ、極秘に、この任務を行っていたのだろうか
これほどのことであれば、もっと人数を、用意していてもおかしくないはずだ
そんな、建物の
監視室の扉が、軋む音がする
おかしい、ここに入るためには、何重の
「キィー」
背後を、振り向く前に、私は、あることに、目を奪われている
なぜ、部屋には、一人もいないのであろう
画面を見ながら、私は、疑問に、そう思った
そう、まずもって、どうして、私は、鍵をかけずに、ここにいるのであろう
どうして、ルールを、無視しているのであろう
私は、ぼんやりと、部屋に置かれた
水槽を、見ていた
あれは、どうして、あの部屋に
そうだ、誰かに、頼まれたような気がする
でも、誰に、あの男か
しかし、なぜあの男は、あんなにも暴力的に
そして力が・・・・
男はねるときに拘束された
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