きつね
4
湖の温度は、非常に寒く冷たいことは、薄っすらと、水の表面を、氷が、張っているのから見ても、当然と言えた
辺りの木々は、一枚も、その枯葉を、身にまとう事もせず
真っ白な木肌を、地面と同化させたように、そこに、立ち尽くしている
そんな中、狐色の靴を、履いた、コートを着た人影が、その木々の下の地面を、歩いている
時刻は、十二時を、とうに、過ぎている
辺りは、昼間にもかかわらず、今にも、雪が降りそうな、陽気であり、薄っすらと、灰色の雲は、暗く、夕暮れを、連想させた
それは、朝焼けかも知れないが
どちらにしても、彼女は一人、その枯れた草を、踏みながら、だれも居ない森を、歩いていく
彼女の横の湖には、数枚の枯れ葉が、落ちては、滑っていた
「しかし、何度、電話したと思って居るんだ
あれは、危険だと言っただろう、人間じゃない
殺人鬼だって、多少は、ルールに、いや、普通の人間が、感情で行動するのとは違い
奴らは、昆虫や爬虫類のように、何よりも、ルールを優先する
まるで、契約で縛られた悪魔の様じゃないか
でも、あれは違う、もっといい加減で、人間よりも、感情的
そう、獣だ、野生動物だと言っても良い」
電話の相手は、昆虫や爬虫類だって、野生動物だろうと、言ったが
「何を聞いているんだ、俺が言ったのは、獣だと言っただろ、獣
つまりは、毛の生えたものだと言っているんだ
一度、火が付けば、何をしでかすか分からない
それは、人間的ルールの範囲外だ
飼っている愛犬だって、パニックを起こせば、飼い主を、食べた事例だって、あるんだ
それは、人間に見えるからって、人間じゃない
奴は、其れとは、全く違う
分かったな、そうだな、地球外生物
そう、そんなものが、人間の皮を、または、それらに、変身していると言えば、分かりやすいだろ
なあ、おい、聞いているのか
相手は、お前が考えているようなものじゃない
何を全く考えているんだ
お前は・・・」
電話の相手を、いなしながら、受話器を、耳には当てている
しかし、その視線は、なん十個もあるモニターの中の一つ
それに、目線は、注がれている
そこには、人工衛星の画像と、その中に、一人の人影が
映っていた
それは、見晴らしのいい
何もない高原に対して
一人
ゆっくりと歩いている
点のように、動き続けていた
「それで、何処まで、行くんですか」
赤いおんぼろ車が、高原を、横断するように、伸び
そこに、一台とまっていた
わたされた、パンフレットには、黒い点が、ぽつりと、打たれ
それを、車を止めた人物は、眺めていた
「そのホテルは、確かもう廃墟ですよ
なにか、肝試しでも、やるんですか」
相手は、ぼんやりと、こちらを、見ているが、その目は、濁り一つなく
つい目をそらしてしまった
「まあ、急ぎでもないですし、本来の道から、五分もかからないんで
大丈夫ですよ、乗りますか」
相手は、こくりと、頷くと、音もなく、いつの間にか、ドアを開けて、車内に乗り込んでいた
やけに、身軽だな
彼は、そんな事を、感想に、思いながら、車のハンドブレーキを、戻すと
エンジンのキーを、ブレーキペダルを、踏みながら、回したのであった
車のエンジンは、急こう配に、差し掛かるたびに、悲鳴を上げ
どうにも、スピードが出ない
しかし、彼女は、物珍し気に、外を見ていて、一切それには、気にも留めていないようであった
「何処から来たんですか」
ここには、バスも、通っていないのに
彼は、何度か話しかけるが、ヒッチハイクですか
一人ですか、と聞いたところで、その反応は、ハイなのかいいえなのか分からず
ただ、コクリとうなずくばかりであった
男が、ぼんやりと、バックミラーを、覗きながら、彼女の様子を、伺いつつ運転していると
彼女と、視線が合った
彼は、それをそらしながら
目的地の廃墟へと、到着した
場所が、山奥と言うか奥地過ぎて、若者のわの字もなく
ただ、そこは、自然に抗うように、コンクリートが放置されていた
それでも、時折、ガラの悪い連中が、名前を、スプレーで、思い出とともに、置いて言った跡が、見受けられた
「それで、付きましたけど、帰りはどうするんですか」
彼女はじっと彼を、見つめている
しかし、そらしたところで、この問題は、いかんせんともしがたく
こんな山の上では、冷えるどころではない
里に下りるにしても、歩いたら何時間かかるか分からない
それに、こんな場所に泊まらすのは、いかに人が居ないからと言っても
あまりいい気のするものでは、到底ない
彼は、そんな事を、等々と、語っていたが
「それで、どうするんです、どうせ、一時間くらいおしても良い事ですから
まって居ましょうか」
彼女は、こくりと、頷いた
男は、ここで、待っていようか、それとも、ついて行った方が良いのだろうか
そんな事を、迷うが、まるで、野生動物のような足取りで、彼女は先へ先へと、動いていく
それは、滑るように、移動していると言うか
歩いているようには、感じられなかった
外壁を、一周する
途中途中、木々が開けた場所に出ると
小高い場所であるので
その向こうには、見下ろすように、枯れた草の広い高原が見える
その寒々しい中から、目を、また戻せば、幻覚のように、前を、コートを着た少女が、歩いていく
それは一種幻覚で、もしかすると、夢で、人形と一緒に、散歩している光景を見ているんじゃないかと言う風に、一種、非現実的な、感想を、抱かずには、いられなかった
しかし、確かに、目の前で、少女は、動いている
まるで、ウサギが、飛ぶように、ぴょこぴょこと、そのたびに、足のすすき色の靴が、目に、付いた
男は、ゆっりと、その背後に、足を、続けた
冷たい空気の中
その光景は、暖色を、基準とし、唯一、温かそうな、生物に、思えた
男の手には、長く細い銀色の、大きな針のようなものが、握られていた
それを、男は、そのまま、彼女の頭のしたから、脳に、向けて、突き刺そうとした
しかし、目の前の少女は、こちらを、距離を置いたように、見て、立っていた
おかしい、先ほどまで、背後を、見ていなかったと言うのに
いや、全く振り向いた時を、見ていなかった
「どうしたんです」
男はその時、初めて、声を、聞いた気がした
一歩、彼女が歩くたびに、何か、冷や汗のようなものが、背中を、伝う
なぜであろう
辺りは、寒い、そんな中、彼女の存在は、それらのほうが、温かく見えた
「それで、犯人の男は、肝試しで、建物を、傷つけるような連中を、片っ端から、殺していたと
世の中には、色々な、愛があるからな
それで、その死体は・・ええ、・・ああ、そうか
建物の下の貯水で、漂白剤を混ぜて・・ああ、あの薬品、ああ、そうか
まあ、普通だな
振り分けだと、百番台か、まあいい、それで、彼女は
・・っえ、消えた
お前、見張っていたのを、知って居るぞ
ええ・・何、映像にも、映っていない
おいおい、だから・・やめろって
機械程度じゃ、まだ、あれには、越えられない・・」
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