第8話 配信6回目 雑談回 地球防衛兵器

「お前らは警察の世話にはなるなよ? こんばんにゃ! 宇宙人系地球救済委員会委員長モコス・イクシスですにゃ!」


:こんばんにゃ!

:普通は世話にならないんだよなあ

:なんて実感がこもった言葉なんだ

:雑談ってことは色々聞けるんですよね!?


 視聴者数481人。警察が来た時はモコスも冷や汗をかいたものだが、話題になったことでかなり視聴者数が伸びたのは幸運だった。


「そうですね。遮音フィールド発生装置が届いたから歌枠をしたかったのですが、今日は相談があるので雑談回となります」


:地球防衛兵器の設計はできたのかな?

:遮音フィールドってどういうやつ?


「密談したい時に使う、音だけ遮るごくごくシンプルな装置ですよ。作るのはすぐなんですが、マザーマシン制作の合間に作ってたのと、連絡艇まで取りに行かないとダメなので」


:ごくごくシンプル

:ほしい

:さすがに売れないよね?


「テクノロジーの開示は難しいですね。もし何か安全な抜け道があれば教えて下さい」


:バレなければいいのでは?


「わたしのメモリーは、地球で言う裁判官や警官ならいつでも閲覧可能です」


:それじゃ犯罪は不可能じゃないか

:破壊装置もあるしねえ

:連絡艇はどこに置いてあるの?宇宙?


「海底の泥の中に沈めてあります。そこから……まああれこれして物を届けるわけです」


:それじゃ探しようもないか

:転送装置とかありそう


「それで連絡艇の話なんですが、今は海底の泥を採取して物資を作ってるんですが、今後どうしましょうと」


:連絡艇って言う割には色々できるよね

:一〇〇人は乗れて物質合成機で大型の輸送船とか兵器まで作れる


「輸送船や脱出艇も兼ねているので、長期間航行できるようにしてあるんですよ。生命維持ひとつとっても種族によって必要な物が違ってくるので、あらかじめなんでも載せておくわけにもいきませんし」


:はえ~、なるほどね

:それで相談とは?


「マザーマシンが完成したら次は専門の工作機械や作業用ロボットを作るのですが、どんな兵器を作るか、どこで建造するかで作るものが変わってくるのでその相談です。モノが巨大になるので、海底では厳しくなりますし」


 そしてまたホワイトボードを取り出し、地球防衛兵器とモコスは書いた。


「制作時間との兼ね合いもありますから、あまりハイテクノロジーな兵器は作れません。ですから一番目の候補は熱核融合弾、熱核分裂弾ですね」


:核兵器密造!?

:地球を守るためだから


「宇宙でなら勝手に作っても法的問題はありません。二つ目は質量加速弾です。小惑星とかに推進機をつけて宇宙怪獣にぶつけます」


:核兵器と小惑星で勝てそうな気もするけど


「宇宙怪獣は重力を操ります。それでバリアを張ったり攻撃をしたりするんですよ。どっちも効果がないとは言いませんが、多少のダメージを与えられる程度でしょうね」


:重力兵器ってそんなに強いのか

:核攻撃も効かないなんて……


「三つ目はソーラーレーザーです。鏡で太陽光を集めて指向性を持たせて宇宙怪獣に当てます。遠距離攻撃ですし、うまくすればいい感じの嫌がらせにはなりそうです。ただこれは設置するととても目立ちますから、どこかへ隠しておいて必要な時に出すとなると、タイミングが難しいかもしれません」


:嫌がらせにしかならんのか

:もっと有効な兵器は?


「小型の重力発生装置も作れます。これなら宇宙怪獣のバリアも破れる可能性はありますが、何分サイズが違いすぎてどの程度有効か。人間で例えると蚊の一〇〇分の一くらいのサイズ感になりますか」


:それは確かに無理そう


「制作に他より多くリソースを割く必要があるのも難点ですね。とりあえず兵器の案はこの四つとなります」


:偽装輸送船を使って逃げれば追いかけていかないかな? 外殻はハリボテでいいし


「すぐ側を通れば釣れるかもしれませんね。注意を引けるように核ミサイルを搭載しておきましょうか」


:重力発生装置を積んだ小型艇を突っ込ませて、宇宙怪獣の内部で核兵器を爆発させてはどうだろう


「それならもしかすると大きなダメージを与えられるかもしれません。地球人もなかなか凶悪なことを考えますね!」


:バリアが破れる可能性があるってどの程度なんだろ


「それは宇宙怪獣の能力次第なので未知数です。やってみて無駄でしたとなるかもしれません。他に案がなければこの四つから優先順位付けをして、リソースを振り分けることになります。それからどこで作るかも悩ましい話です」


 モコスの出した案は二つ。月面と火星と木星の間にある小惑星地帯だ。


「月面は近くで良いのですが、必要な資源が揃わなければ製造が遅れますし、小惑星地帯は単純に遠いから大変です」


 月面は地球の探査機も入ってきているので目立つ活動ができないのもデメリットとなる。


「月なら日帰りでいけるのですが、小惑星帯まで行くとなると数日は留守しなければなりませんし、連絡艇を小惑星帯に置いておくのか、わたしは残るのか一緒に行くのか。判断が難しくなります」


 物質合成機や様々なデータが入った情報処理マシンは連絡艇からは外せないし外す気もない。そうなるとモコスも一緒に小惑星帯まで行くことになるのだが、せっかく配信が軌道にのりつつあるのだ。一カ月とか二カ月の不在はできれば避けたい、そうモコスは話す。


「地球防衛はあくまで時間稼ぎです。どうしたって宇宙怪獣は倒せません。本命はマンガでお金を稼いでの討伐艦隊の招致なのです」


:どうにかモコスたんが宇宙人だって証明できればいいんだけどな

:それはそれで問題が起こりそうだけど


「地球人類と接触して銀河連盟テクノロジーが漏れるのは困ります。わたしの体もテクノロジーの塊なんですから。ここは絶対に譲れない一線だと覚えておいてください」


:良心回路が爆発しちゃう

:悩ましい

:長期の不在は確かに困るな。今はデビュー直後の大事な時期だし

:地球のピンチなんですが、それは

:でも登録者数は増やさないとでしょ?

:宇宙から配信はできないの?


「時間差はどうしてもありますが、できなくもないですね」


:世界初、宇宙から配信するVtuberだ!

:通信できるならライブにこだわらなくてもいいかもね

:Vtuberが流行る前は録画のほうが主流だったんだし

:通信は光の速度なんだ?


「基本そうですね。即時通信は必要な設備もエネルギーも莫大なので船には積めませんし、居住惑星にすらない場合もあります」


:即時通信はやっぱりあるんだ!


「ええと、それでですね。作る兵器の難易度は上げた順で、核兵器、質量兵器、ソーラーレーザー、重力発生装置です」


:偽装輸送船は?


「核兵器の次くらいですかね」


:核兵器が一番簡単なのか

:質量兵器が楽みたいに思えたけどな


「質量兵器は相応の大きさになると、加速装置の性能も求められますので。いま考えているのは核パルス推進ですね。ソーラーレーザーも大きさと部品点数で製造に手間がかかりますし、重力発生装置は純粋に高度なテクノロジーなので作るのが大変です。あ、核兵器を売ってくれとか連絡するのは止めてください。追跡して個人情報を抜きますよ?」


:視聴者にテロリストおるんか

:こわ

:荒らし君の末路見てないのか

:宇宙人とか核兵器とかはネタですよ、ネタ

:モコスたんが本物だってことになれば、今後そんなのが沸きまくるのか

:テロリストどころか、世界中がモコスたんを追いかけるんじゃね?

:そうだとしたら今みたいに設定だって言っておくほうが安全なのか


「ふむふむ。核兵器を渡せば漫画家や出版社に渡りをつけてやると。なかなか鋭いところをついてきますね……」


:絶対ダメだぞ

:テロリストの伝手の出版社とか絶対ろくなところじゃない

:普通に詐欺られそう


「核兵器の製造は月か小惑星帯になりますから受け渡しも大変ですし、ローテクノロジーとはいえ現物を渡すのは良心回路作動のリスクがありますから」


:しかしこんなこと、信じてるやついるもんなんだな?

:正直ワイは信じてる

:俺も。だから怖くてたまらん

:他にもいるのか。最近不安で不安で夜しか眠れんのや

:普通に寝てるやないかーい


「不安にさせて申し訳ないです。ですが大丈夫です。地球が破壊される時は一緒に死んであげますから」


:安心できる要素が皆無なんですが

:それは嬉しいけど、一緒に死ぬこともないよ


「どのみちこれほどの違法スレスレの行動をして地球が助からなければ、わたしはおそらく処分されてしまいます。もう一蓮托生です」


:そこまで地球のことを……


「ワ◯ピースの続きを、完結を見届けるまで! わたしは絶対に死にませんし、地球はなんとしても守ります!」


:気持ちはわかるけどさあ

:マンガって偉大なんやな


 その後はおすすめのマンガや好きなマンガ、いま見ているアニメの話題で盛り上がった。


:あの、地球防衛兵器のお話もできたらですね……




【本日の成果】

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宇宙怪獣vsVtuber 桂かすが @katsura777

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