第7話 配信5回目 【緊急】謝罪会見【通報】 三本の通信ロケット
「ん、んんっ。あ、あー。え? 始まってる? このマイクでいいですか? はい。では始めます」
画面にマイクを何本も置いた壇上に座り、神妙な顔で話すモコスが映り、カメラのフラッシュが焚かれる光と音が何度も鳴った。
:なんか始まったぞ
:謝罪会見か
画面には【ホラーゲームでの絶叫に事件性があると警察に通報された件に関する緊急記者会見】というテロップが表示されていた。
「本日は、えー、お集まりいただき誠にありがとうございます。わたくし、個人勢、宇宙人系Vtuberのモコス・イクシスと申します」
:にゃ、は?
:こんばんにゃ!
「にゃ、は言わないとダメですか? そうですか。こんばんにゃ~。これでよろしいでしょうか? はい。では会見を進めさせていただきたいと思います。あ、フラッシュは控えていただけると助かります」
:何が始まったんです?
:警察来ちゃったもんね
:昨日は泣きながら配信終わっちゃったし釈明は必要だな
「昨日、ホラーゲーム配信中に、大きな声。いわゆる絶叫をですね。都合二回も上げたことにより、近隣住民の方に事件性があるのではないかと、警察に通報。警察の方の訪問を受けたことに関して、まずは皆様に大変なご心配と、またご迷惑をおかけしたことをここに謝罪をしたいと思います」
:草
:謝れて偉い
:確かにあれは事件性があった
:昨日の配信面白かった
「ここで昨日の配信の映像が残っておりますので、確認の意味を込めて、改めて視聴してみたいと思います。あ、音量は半分程度に編集で抑えましたので、はい。そのままで大丈夫かと思われます」
画面が切り替わり、短く編集されたモコスの絶叫が二回、大きく響く。
「自分で見ても、こいつ驚きすぎじゃないかという感じですが……フルバージョンが見たい方は昨日の配信アーカイブを。また切り抜きも上がっておりますので、そちらで視聴してもらってもいいと思います」
:昨日見逃したけどこんなことが
:宣伝できてえらい
「えー、釈明させていただきますと、このホラーゲームはリスナー様からの推薦と罰ゲームということでプレイをほぼ強要されたこと。また、わたくしは宇宙人なんですが、はい。そうです。宇宙の人ですね。まさか地球の、えー、賃貸ハウスがこれほど簡単に音を貫通するとは想像だにしなかったことをまずはご理解しただければと思います」
:こいつリスナーに責任をなすりつけたぞ!?
:まーたすぐ地球をディスる
:モコスたん、ほんとに宇宙人か疑わしいんですが?
:Vtuberなのに防音に対する意識が低すぎる
「調査したところ、どうやら壁は石膏ボードという強度も防音性も防御力も何も無い貧弱な素材でできているらしく、わたくしはあまりの無防備さに戦慄いたしました」
:家に防御力を求めるな
:我々地球人はそこで普通に暮らしているんですが?
「他にも建材は天然の木や砂と石を混ぜたものを使用しており、住居としての要求性能にあまりにも満たないことが、今回の事件を引き起こした原因ではないかと考える次第でございます」
:すぐ地球をディスる
:でも賃貸って壁が薄いの多いよね
:あの絶叫を防げる家ってそうそうないのでは?
「今後の対策といたしましては、先ほど遮音フィールド発生装置が届きましたので、安心して声は出せるようになりました。少し試してみましょうか」
モコスが手元をごそごそして画面に向き直り、口をぱくぱくとする仕草を見せる。
「……とまあこんな感じで。え? ただ単にミュートにしたんじゃないか? 証明は……止めておきましょう。それから家の防御力も上げたくて、重力発生装置を使って壁面にバリアを張り巡らそうと思うんですが、どうでしょうか? 核攻撃くらいなら普通に耐えられますよ」
:どうでしょうか?ではないが
:また新しいテクノロジー出してきた
:核攻撃はたぶん来ないよ
:みんな我慢して暮らしてるんや
:アンドロイドって人間より頑丈なんだろ?平気平気
:防音だけで十分だぞ
「うーん。反対意見が多そうなので、防御性能を上げるのは諦めることにします」
:多そうでなく、全部反対意見なんですが
「あとですね。警察の人に部屋に踏み込まれて思ったんですが、私物がなさすぎてどうも怪しいようです」
:部屋の様子映してみてよ
:しかし警察も宇宙人って疑わなかったんだな
:普通疑わないが
:アール国の身分証見たとたん、態度が変わって草だった
:年齢はやっぱり子供にしか見えないみたいだね
:ほんとに宇宙人か疑問に思えてきた
「偽装は完璧ですから。そうでなければアール国の時点で問題が発生していました」
:偽装って言っちゃったよ
:事件性のある悲鳴に駆けつけてみれば、一人暮らしの幼女。部屋には物が何もなく、身分証を見れば偽造の疑いのあるアール国籍。よく警察の人に見逃してもらえたね
:保護されててもおかしくない
:配信画面見れば一目瞭然だったんじゃね
:つまりワイらのお陰か
:配信つけっぱなしだったのはナイスプレイやったなー
「わたしの日本滞在は完全に合法です。だから警察の人もすんなり引き下がったでしょう?」
:合法だからっていいってもんじゃないんだよなあ
:しかしモコスたんには地球を守ってもらわないといけないし
:こうやって配信してくれるのは助かるけど、もっと地球防衛のためにできることはないのかな? いやもちろんモコスたんががんばってるのはわかってるよ?
「繰り返しになりますが、わたしは人権も与えられていない、監視するだけの任務を与えられたアンドロイドなんです。日本で言えばコンビニのアルバイトどころか、ファミレスの配膳ロボットに近いかもしれません」
:貴様のような配膳ロボットがいるか!
:そう考えるとようがんばっとる
:むしろワイらより存在価値は上よな
:アール国籍があるなら地球での人権はあるのでは?
「人権……わたしにもあるのでしょうか?」
:あるよ
:もし銀河連盟で処分されそうになったら地球に逃げてくればいい
:ワイらがなんとかする
:処分されそうなら難民扱いでいけるやろ
:むしろ今から日本国民になれば、色々な縛りが回避できるのでは?
:亡命だな
「それは……難しいですね。日本政府は銀河連盟に未加入です。日本政府側が受け入れると言ってもわたしが銀河連盟に所属している以上、認められることはないでしょう。今でさえかなりのリスクを犯しているのです。うかつに地球人類との接触は増やせません」
:良心回路があるからなあ
:アール国も海外から要求されたら、わりとあっさり身柄確保して引き渡すんよな
:地球外文明との国交ってどうやって結ぶんだろう?
「たぶん未開文明担当の部局があって、地球のような星を発見したら監視をして、何らかの判断をするのではないのでしょうか」
:じゃあどうにかそこに連絡を入れればいいのでは?
:それも政府が動かないとダメだろう
:日本政府関係者の方おられませんか~
「ああ、連絡手段の話もしておきましょうか。連絡艇から銀河連盟に直接通信を送る設備はありませんので、通信ロケットに情報を詰めて送ることになりますが、手持ちの通信ロケットは三本です。一本は宇宙怪獣が当太陽系に向かってきたことを知らせるため。二本目は宇宙怪獣の手によって地球文明が終了した時の連絡用で、予備は一本だけです。使いどころはよくよく考えないといけません」
:2本目は使ってもいいんじゃないかな!
:せやせや
「上司からの指令ですし宇宙怪獣の監視と通報がわたしの主任務ですので、好き勝手もできません」
:予備はここぞというタイミングで使う必要があるのか
:一本目が重要になってくるな
:通信ロケットは物質合成機とかで作れないの?
:通信は何日くらいで銀河連盟に届く?
「五日、くらいでしょうか。通信ロケットの製作は無理ですね。そんなものが作れれば最初から作ってます」
:じゃあ宇宙怪獣って動き出したらどのくらいで地球に来る?
「三〇日から六〇日程度でしょうか。宇宙怪獣は個体差が大きいのと、手元にあまり詳細なデータがないので予想は難しいです」
:地球から宇宙怪獣を観測できないのかな?
:できればモコスの話に信憑性が増すよね
「まだ無理でしょうね。外観は小惑星と見分けがつかず現在地は太陽系外、光の反射もほとんどありません」
:よくそんなの見つけたね
「探知装置が優秀なので。宇宙に散った宇宙怪獣の発見は死活問題なので、先人ががんばってくれた成果ですね」
:討伐艦隊が来るとしたら何日くらいで地球に来る?
「これも出発地点や艦隊の速度次第になりますが、最速で二〇日ってところです」
:余裕は五日か
:ギリギリやんけ
:だから防衛兵器を作って足止めが必要なんだろ
:輸送船で脱出したほうがマシに思えてきた
:防衛兵器の話をしよう!
「えー、話が長くなってきたのでそれは次回にしましょうか」
:ちょうど一時間か
:赤鬼青鬼は長くなったけど、他はだいたい一時間以内だね
:時間はあるんじゃないの?
「わたしは汎用の補助的役割のアンドロイドで、連絡艇ももちろん戦闘用ではありません。いま地球防衛兵器をリストアップしているのですが、当然、対宇宙怪獣兵器なんてそのものずばりの設計などあるはずもなく、設計や製造計画は一から作らないといけません。マザーマシン製作の監督も必要ですし、配信以外の時間はすべてそちらで取られてしまっております」
:配信終了!
:お疲れ様!
:配信は別に毎日じゃなくてもいいんだよ?
「とりあえず明日もこの時間で。次は兵器の話ができると思います。では、ばーいにゃ! あ、これにて謝罪会見を終わります」
:そういえばそうだった
最後にフラッシュが焚かれ、モコスが一礼するとライブ配信は終了した。
【本日の成果】
同時接続数511人。チャンネル登録者数722人。SNSフォロワー数952人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます