第6話 配信4回目 【初見ホラー】赤鬼青鬼がクル【罰ゲーム】 宇宙印税と配信手数料
「ホラーゲームが罰ゲームになるって、地球人類もずいぶんとぬるいんですね? こんばんにゃ! 宇宙人系地球救済委員会委員長モコス・イクシスですにゃ!」
視聴者数は98人。前回より少し増えたが、伸びはよくない。やはり宇宙怪獣や地球救済計画などネタだと普通は思われていて、何かでバズらないと数字はそうそう増えそうもないのだが、今のところモコスにも名案はない。
しかし煽り系というのはメスガキというジャンルで人気があるらしく、この路線を試してみることにしたのだ。
:いきなり地球人類をdisるやん?
:にゃ! にゃ!
:こんなにわからせがいのあるキャラだとはデビュー配信では思わなかった
:もっと地球救済計画の話しよ?
:ファンアート描いたよー
「見ました見ました。ファンアート、かわいく描いてくださってありがとうございます! メモリーにロックして永久に保存しておきますね!」
:いかにもアンドロイドが言いそうな発言
:ワイも絵の練習中や
「それから同人誌のデータを送ってくださった方、ありがとうございます。もし売れた場合の印税は一割で、残りから経費を引いた全額が宇宙怪獣討伐艦隊招聘のための資金となります」
:印税は銀河連盟の通貨でもらうの?
:印税一割ってこいつほんとに宇宙人か?
:経費って?
「印税の考えとか利益率は宇宙でもそう変わりないですね。自分で流通させるともっと取れるんですが、今回は地球のためということで、涙を飲んで最低限の一割にしてもらってます。支払いは銀河連盟の通貨となります。もちろん銀河連盟との接触があってからとなりますが、もし宇宙怪獣が素通りした場合は、後日どうにか販売に持ち込んで、こっそり地球の通貨でお支払いできないか考えてみます」
:一割が最低限なのか……
:著作権も厳しいし、ワイらもはよ銀河連盟に加入してえな
:銀河連盟の通貨があればモコスたんの姉妹機が買える!?
:ガタッ
:ちょっと漫画描いてくる!
「経費は向こう側での販売手数料が3割で、わたしは完全無償です。地球を救うためですから利益は取れません。だから販売額の6割を使えることになりますね。わたしと同型機がほしければ、うちの会社で販売を代行できると思います」
:マジで買えるのか!
:でもモコスたん、案外ポンコツじゃね?
:エロいこと禁止なのがなあ
:6割って多いのか少ないのか
「大手の配信プラットフォームですからね。銀河連盟中に配信できますし、もし需要があれば売上は物凄いことになりますよ?」
:もしかしてワイの50部しか売れんかった同人誌もワンチャン?
「確かに技術的には拙いものがありますが、大変に素晴らしい作品だと思います。きっと誰かが興味を持ってくれますし、銀河連盟通貨との交換レート次第では億万長者も夢じゃないですよ」
:マジですか!?
:50部でも母数が銀河中となるとすごいことになるのか
:1万倍としても50万部。それが銀河連盟の通貨でとなると……
:すぐに漫画描いてくるわ!
:契約書も何もない、こんな与太話でようやるわ
「宇宙でも口約束は有効ですよ。そもそも仕事の話はもちろん、普通の会話も記録してますからね。当然きちんとした仕事なら契約書も作ります。今後マンガの提供者が増えることを考えて、契約書のことも検討しておきます」
:とりあえずホラー始めようぜ
:印税とかホラーはいいから地球救済計画のほうを……
「マザーマシンの進捗はようやく10分の1ほどです。他にも相談事はありますが、とりあえずホラーゲームを始めますか。ゲームは【赤鬼青鬼がクル】です」
:きた!
:名作ホラー
:怖いんだよね、これ
:モコスちゃん泣いちゃうね
「泣く機能はありますが、アンドロイドが泣くわけじゃないですか。昨日も言いましたが、ゲームごときで怖がるとか泣くとか意味がわかりませんね」
:流れるようにフラグたてるやん
:でも宇宙人だしわからんぞ
:昨日ゲームで負けてコントローラー投げてましたよね?
:やったことないけどそんなに怖いの?
:まあ見てのお楽しみや
「なるほど。この館から脱出するのが目的なんですね。しかし扉でも壁でも壊して。普通に出れると思うのですが。アンドロイドの力でも壊せない、超硬金属製ってことはないですよね?」
:すぐ宇宙人を出す
:それは思った
:窓を割ったり塀を乗り越えたりしないのは不思議
:謎の結界があるんだよ!
「うーん、何もありませんね。あそこの部屋が怪しいんですが、鍵がかかってるって、そんなの扉をぶっ壊しちゃえばいいのにね」
:他人の家だし気を使ってもろて
:このアンドロイド暴力的すぎる
:そろそろ
:相談事って?
「そろそろって……あ、鍵です! これで進めますよ! それで相談ですね。マザーマシンができた後のことなんですが、地球防衛のための兵器のチョイスを考え……」
モコスが鍵を開けた瞬間、画面いっぱいに異形の赤鬼が表示される。
「ひ、いやあああああああああああ!?」
モコスは大きくのけぞり絶叫した。
:びっくりした
:これよこれ
:宇宙人でも驚くんやな
:鼓膜ないなった
:悲鳴助かる
:極上の悲鳴
「あ、なに!? 急に……って何もしてきませんね?」
そろそろと体を戻したモコスはすぐに冷静さを取り戻した。
「だ、大丈夫ですよね? 進めますよ?」
:おっかなびっくり
:びくびくしてるのかわいい
:驚きすぎじゃないか
「急に出てくるからちょっとびっくりしただけです」
:ちょっと?
:いまの悲鳴はランキング上位に入るね
「うるさい。進めますよ!」
:ここからが本番
:死の鬼ごっこの始まりや
「く、来るな! ああああ、やばいやばい。な、なんで振り切れ、ああー……ああ」
:死んだ
:まあ死ぬよね
「ここからリスタートなんですね。セーブ? なるほど。セーブ機能ってそう使うんですか」
:セーブの使い方を学ぶ宇宙人
:成長したな!
「だいぶ慣れてきました」
:パターンがわかれば難しくない
:それまで10回も死ぬのは草
:普通3回くらいでわかるもんだが
「いくら意識のない頭脳体とはいえ、そこまで頭が悪いとは思わなかったんですよ……」
:これAIですらない、ただのアルゴリズムやぞ
「へえ、ふうん。頭脳チップくらい積んであげればいいのに」
:謎の銀河連盟テクノロジー
:それ物質合成機で作れたりする?
「シンプルなので作れますよ……やりました! やりましたよ! ついにあの憎い赤鬼を罠にはめてやりましたよ!」
:なにか忘れてないか?
「何かってなんですか? あとはゆっくり探索……ひぎゃあああああああああああああ!?」
モコスが青鬼登場でまた絶叫をして、コメントが沸き立つ。
「え、うそ。赤鬼も罠から出てきた!? 今度は2匹から逃げろってことですか!?」
:そうそう。ここからが本番
「さっきも本番って言ってたじゃないですか! くそう、やってやる、やってやりますよ!」
:あと何回死ぬかな
:しかし第2第3の赤鬼青鬼が……
「言ってるといいです。もう何が来ても驚きませんから」
:割と小ネタでも声を出してた件
:いやいや、実際やるとこれが怖いんだよ
:伊達に名作じゃないよね
「ん? 誰か来ましたね。少しお待ちを」
ゲームの手を止めてモコスが画面前から離れる。
:リアル来客か
:それにしても無駄にリアルな3Dアバターだな
:ミュートにしてない?
:ほんとだ。声が聞こえる
「あ、はい。ホラーゲームをしてて。はい。いえ、わたしだけです」
:もしかして警察か?
:絶叫してたから通報されたか
:ガチで警察っぽい
:事件性のある絶叫だったからなー
「ちょっと待っててください……これ、身分証です。ほら、ちゃんと成人してます。在留許可証がこれです。はい。アール国です。そうです。え? 家の中ですか? 構いませんけど……」
:大丈夫か?宇宙人ってバレない?
:アール国に食いついたか
:アール国籍って怪しすぎるもんな
「部屋、何にもないね?」
「引っ越したばかりなんで……普段は配信とかしてて、あっ! いえ。なんでもないです。なんでもないです」
:いえーい、お巡りさんみてるー?
:話は聞かせてもらった!
「先輩、配信中ですよ、これ。赤鬼青鬼かあ。確かに怖いよね」
:うちのモコスがご迷惑をおかけしまして
:よく言い聞かせますので今回はどうかお見逃しを~
先輩と呼ばれたほうの警官が無言で画面を注視する。
「す、すいません……」
「あー、そうだね。確認できたからこれで帰りますけど、あまり大きな声は出さないようにね。ご近所迷惑になるから」
「はい。申し訳ありません」
「何か困ったことがあればいつでも相談に乗りますから、こちらまでご連絡を。では本官たちはこれで失礼します。視聴者のみなさんもお邪魔しました。ほら、帰るぞ」
モコスは警官たちを見送ると、画面の前に戻った。
「……驚きましたね」
:草
:そりゃ警察も来るわ
:部屋は防音じゃないの?
「防音、とかはなかったはずです……」
:それであの絶叫かよ
:防音くらいしとけ
「だって宇宙船だとあのくらいの声では外に漏れないんですよ」
:宇宙船と賃貸を比べるな
:宇宙人ってバレないもんなんだな
:見た目は案外普通なのか?
「変装しているので。そうですね。すぐにでも遮音フィールド発生装置を作っておきます」
:銀河連盟テクノロジーいいなあ
:不法入星がバレないでよかったな
「もしバレてたらあの2人を……いえ、なんでもないです」
:こわいこわい
:地球の法律も守ってもろて?
:まあセーフだったってことで、切り替えていこう
「それで今日はどうしましょう。中断して次に回しますか?」
:この先は絶叫ポイントはないから続けていいと思う
:小ネタはあるけど……
:耐えろ
:もう終盤だから最後までやってほしい
:警察が来たシーン、切り抜いても大丈夫ですか?
「そ、それは……い、いいです、よ。許可します」
:葛藤するモコスちゃん
:撮れ高や!
:モコスちゃんはもっと有名になってほしい
「じゃあ続きをやります――」
そうして二匹の鬼と鬼ごっこを続けること一〇分、シナリオが進展する。
「嘘でしょ。赤鬼が味方だったなんて……」
やがてゲームはエンディングを迎える。
「あああああああ、赤鬼、赤鬼が!」
:モコスちゃん声を抑えて
:また通報されちゃう
画面では青鬼を身を挺して止めた赤鬼が、静かに息を引き取った。
「でも、でも……赤鬼があぁ」
:前に進むんや
:赤鬼もそう言ってただろ?
「うう、ひぐっ。赤鬼……」
:ガチ泣きは草
:ワイもこれでガチ泣きしたわ
:うーん、これは名作
:最初から最後まで撮れ高だったな
:やっぱモコスは宇宙人じゃないだろ
:あの、泣いているところすいませんが、地球防衛兵器のお話を……
【本日の成果】
同時接続数311人。チャンネル登録者数220人。SNSフォロワー数152人
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