第2話 捨てる拾う
当たり前だが、パーティーに出るような服を着て夜道を彷徨けば野盗にも襲われるわけで、着ていたものを殆ど剥ぎ取られて俺は王都が見える森の中の獣道に逃げ込んでいた。
まあこんな状態なら二、三日も持たないだろう。
どうでもいい。
そんな思いで俺は目を閉じた。
目が覚めると、低い天井が見えた。
野盗に襲われた際に出来た傷は綺麗に手当をされている。
俺は体を起こして周りを見てみた。
木の簡素なベッドに狭い室内は装飾すらない。
木の粗末なテーブルと椅子があるだけ、体は包帯で巻かれている。
状況の把握が出来ずに呆然としているとガチャリと小さな音を立てて誰かが入ってきた。
「あ、起きられましたか?アルフレッド様」
俺を知っているのか?と不思議に思い入って来た者に改めて目を向ける。
黒に近い焦茶のストレートな前髪が目にかかり表情が乏しい、ひょろりと小柄な体に分厚いレンズの眼鏡。
「貴様は?」
「あ、学園で、あの、同じクラスの」
オドオドと話す彼は見覚えがある。
教室でも寮でも小さく存在感は薄いが成績は良かったために俺と同じ特待クラスに居た男爵家の。
「アンスン•エンシス男爵令息だったか?」
「あ、あっお、覚え、覚えて」
そりゃあ特待クラスなら今後政ごとに関わればどうしたって関わり合いになるわけなのだから、一応全員覚えてはいるが。
座学に特化したアンスン•エンシスは小柄で細い体の見たまま武術はてんで駄目で、体力もない。
気も弱いのかよく面倒ごとを押し付けられていた。
ああと納得する。
「誰かに命じられたか?」
「何をでしょう?」
「俺を保護なりなんなりしておけと」
ぷっと吹き出したエンシス男爵令息を俺は睨む。
「誰も何も、そもそも僕のことを認識している人だってあの場には居なかったでしょう」
どうやらパーティー後、すぐに領地に帰るため馬車を走らせていて俺を見つけたらしい。
捨ておけば良いものを悩んだ挙句馬車に乗せて着いた村の宿が今居るここらしい。
随分失礼な物言いをしてしまったものだ、一連の出来事を見て追い出された俺をわざわざ拾って手当までしてくれていた相手にまだ礼すら述べてはいないのだから。
「すまなかった、手間をかけた」
「いえ、アルフレッド様は何処かあてがあるのでしょうか」
学園ではそうでもなかったが、随分踏み込んでくるなと渡されたカップの中に入っていた温かいミルクを飲み干す。
「……ないな、準備していたものは全て兄上に取り上げられてしまったしな」
「行く当てがあるならお送りするつもりでしたが」
そんなものは無いだろう、あの場の醜態と廃嫡を知れば見知った者たちは俺をとうに見限っているはずだ、兄上や弟たちのように。
何も言わなくなった俺を暫く見て?見てるよな?前髪と眼鏡が邪魔でわからないが多分見てるよな?
「王宮ほどの生活は出来ませんが、身の振り方が決まるまでうちに来ますか?」
「それでは貴様に得などなかろう」
「損もないですし」
まあ、そうかもしれないが。
ここで捨てられたとして行く当てもなければ路銀もない。
俺は彼の手を取る以外の選択肢がないことを理解した。
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