第4話 穏やかな日々
エンシス男爵領に来てから俺は穏やかに過ごしていた。
山に囲まれた立地ゆえにモンスターがよく出没する地では騎士団と傭兵団、自警団があり俺はアンスンに進言して傭兵団と自警団に剣技の稽古をつけるようになっていた。
幸い学園では剣術も魔術も優秀な方であったため、その頃に学んだものはアンスンの役に立つだろう。
何度も実践でのモンスター討伐に加わったこともあり、最近では騎士団の方でも師範として迎えたいとまで言われていた。
が、初日に牽制してきた護衛が頑なに反対している。
幼馴染という関係らしい護衛はケインと言った、名字はないため平民だろう。
男爵家であれば不思議はない、俺とは違う。
打算も化かし合いもない関係で育まれた繋がりにアンスンは無条件でケインを信頼しているのだろう、常に側に置いている。
俺には相変わらずオドオドとしながらも線引きをして付き合っているが、ケインに対してはよく笑っている。
武術が苦手で誰かを傷つけるのは嫌だというアンスンのためにケインは護衛になるべく、アンスンの剣になるべく研鑽を積みアンスンの護衛という唯一の立場を手に入れた。
座学に特化していたアンスンの領地運営は手腕を発揮し着任から半年もする頃には名君として領地でも周辺国でも好意的に見られている。
評判も良く、王都の学園に居た頃とは別人のようだ。
眼鏡も前髪も幼い顔を隠したかったということだったらしい、実際あの頃にこの顔を晒していたら放っておく女も男も居なかったはずだ。
武術に関しては現在騎士団長をしているアンスンの弟が優秀であり、兄弟で盛り立てる姿は好ましく眩しい。
そんな彼らと過ごす日々は緩やかで王宮の中にあった澱みすらない透明な日常が繰り返されていた。
今日も午前中の傭兵団と自警団の訓練を終えてアンスンを昼食に誘う。
執務室まで迎えに行けば、はにかんだように笑いながら食堂へ向かう。
敵意を隠さないケインは俺の扱いが不満らしく何度もアンスンに掛け合っているらしいが、アンスンはいつもの笑顔で「彼は大事な客人だからね」と躱しているらしい。
そうだな、俺は客人なんだとそれを耳にする度に腹奥にモヤがかかる。
とはいえ、外交として近隣の国や領地を周る際は護衛にケインではなく俺を連れて行く。
好きではない出自ではあるが、学んだものがアンスンの役に立つのは正直嬉しいと思う。
「近々収穫祭があるんだ、アルが良かったらだけど一緒にどうかなって」
昼食を食べながらアンスンが最後は小さくなりながら俺を誘う。
「その、王都みたいにすごいお祭りじゃないんだけど」
「楽しみだな」
「あ、じゃあ週末空けておいて欲しい」
キラキラと子どものように瞳を輝かせるアンスンが微笑ましく俺は週末を楽しみに思っていた。
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