【完結】断罪された王子様とひ弱男爵の辺境領地生活

竜胆

第1話 断罪したら仕返された

 「エリアナ•ロード•ヒポキシス公爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!」

 右手に編入生だった平民あがりの子爵令嬢を抱きしめて、卒業記念のパーティーの最中にそれまで俺の婚約者であったエリアナに高らかに宣言する。

 エリアナは表情を変えることなくため息をついて俺の話を「で?」と促した。

 今日は卒業記念パーティーで学園の卒業生がと家族が集まっている。

 煌びやかな会場は学園ではなく王城のパーティー会場のひとつ。

 今日は父である国王や皇后に兄たちと弟たち、姉や妹に父の側妃たちも揃っている。

 俺は王太子である兄に次ぐ継承権二位、正妃である母の二番目の息子だ。

 そんな俺に宛てがわれたエリアナは婚約者として、将来の王子妃としては優秀であったのだろう。

 が、それは政治的にだ。

 俺とエリアナには甘ったるしい関係は一切ない、しかし父や母強いては次代の王になる兄のためならと、性格の一切合わない彼女を婚約者としてきた。

 が、子爵令嬢が編入してきてから様子が変わった。

 彼女曰く、強い言葉で罵声を浴びせられたとか突き飛ばされて池に落とされたとか、三階から植木鉢を落とされた、荷物を隠されたなど色々と訴えられていた。

 証拠はない。

 ないが、いつの間にか俺の側近候補たちにも擦り寄っていた子爵令嬢に言いくるめられた彼らはこの一連のエリアナ断罪劇のシナリオを作り上げていた。

 馬鹿馬鹿しい。

 そうは思うが、頼られれば悪い気はしない。

 エリアナには事前に彼女の父であるヒポキシス公爵に伝えて今日の事を知らせてあった。

 背後の父から冷たい視線が感じられる。

 媚びるように俺の体に擦り寄る子爵令嬢を俺は感情のない瞳でチラッと見る。

 気持ちの悪い。

 エリアナには申し訳ないと思ってはいる。

 パチリと手にした扇子を閉じてエリアナが重い口を開いた。

 「先程から平民あがりだから彼女には貴族の常識に疎いため殿方との距離が近いのは目を瞑るべきだと、仰っておられましたが」

 「そうだ!貴族の距離感など知らなくて当然だろう!」

 これは側近候補の一人、当然な訳あるかと思うが口にしない。

 「平民の全女性に謝っていただきたいですわね」

 大袈裟なほどのため息で演出したエリアナが先の側近候補に扇子を向けた。

 「あなた方も視察で市井に出ることもございましょう?その時に出会う平民の女性がそのような態度をなさるのかしら?ベタベタと品もなく殿方に身体を押し付けるようにしながらお話になられたことでもおありですか?」

 「な!ふざけるな!そんな者が入れば不敬罪として」

 「そうでしょう?では先程から仰る平民上がりだから仕方がないとはおかしくありませんか?」

 グッと押し黙ってしまった側近候補たちに俺はわからないよう小さくため息をついた。

 その後はエリアナの一人舞台だった。

 しかも高位貴族や王族にばかり擦り寄っていた子爵令嬢には陰謀の恐れがあると王宮の騎士隊に連行されて行った。

 俺は一部始終を黙ってみていた。

 「さて、これ程の騒ぎを起こして宣言なさられたのですから、婚約自体は破棄でよろしいですね、兄さん」

 壇上から側妃を母に持つ弟が降りてきた。

 「兄上の今回の所業、また学園での生活態度も王族に相応しいとは思えません!」

 そうだろう、そうだろう。

 エリアナは申し訳なさそうに俺を見ているが、申し訳ないのは俺なんかの婚約者として縛り付けていた此方の方だ。

 「父上!ご決断を!」

 そのあとの流れは驚くほどスムーズだった。

 弟が改めてエリアナに婚約を申し込み、俺は廃嫡の上で王都から追放。

 まあ、狙っていたにしてもまさか着の身着のまま追い出されるのは想定外だった。

 夜も更けてパーティー会場は賑わいを取り戻している、俺は一人王都を出る馬車に乗せられて外門の向こう側へと放り出された。

 一応、部屋に今後のための支度はしてあったが持ち出す暇さえ与えられなかった。

 参ったなと思っていれば追いかけてきたのであろう兄から国民の税で買われたものは一切持たせられないと、準備しておいた全てを取り上げられていた。

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