第10話 夜の二人

 式の日が近づくに連れて来客も増えて来た。

 普段は広すぎると思う邸も客人が増えれば手狭に感じる。

 宿泊しているのはエリアナとグレアムだけだったが、次々と祝いに訪れる客人の数に押されてエリアナやグレアムと話す時間もなかなか取れなくなってきた。

 そうなれば当然アンスンと二人の時間が足らなくなるわけで、夜更けにアンスンの部屋を訪れた俺は不貞腐れていた。

 「ご、ごめんなさい」

 俺が不機嫌な理由を自分が何かしたと思ったのだろうアンスンが小さくなりながら謝罪を口にする。

 俺はそれをため息で流したが、余計に勝手な罪悪感を募らせたアンスンの瞳がうると潤み出した。

 「お前と居る時間が足りない」

 「ふぇ?」

 何を言われたのかわからないと間抜けな顔を晒している無防備アンスンの頬に手をあて唇を寄せると、途端に身体の力がふにゃりと抜けたアンスンが俺に寄りかかる。

 すぐそこにベッドがある状況は本来であれば美味しいのだが、残念ながら式を挙げるまでは手を出さないと実は俺から決めたことがあった。

 だからまだ部屋も別々にしてあるのだが、アンスンとしては直ぐにでも同じ部屋にと願われていた。

 こんなに時間が取れないなら部屋ぐらい同じにしておけばと思わなくもないのだが、それはそれ。

 健全な若者でもあるのだから同じベッドに共寝をすれば我慢も効かないのは当たり前の話で。

 要するに、ケジメだけはきっちりつけてやりたいという俺の我儘に付き合わせているのだが。

 「難しいな、大事にしたいからちゃんとケジメをつけるまではと思っているんだが」

 そう言いながら頬に置いた手を滑らせ顎を通り、薄いシャツ越しに見える鎖骨を撫でれば潤んだ藍の瞳に欲の熱が灯る。

 普段は大人しく小柄な身体付きで少年と見間違えるほど華奢な印象のアンスンが情欲を宿した瞬間艶のある青年の精悍さと色気を醸し出す。

 さらに手を滑らせて細腰をなぞれば「んぅ」と小さな吐息をはきだした。

 「早くお前を抱きたい」

 そう耳元で伝えれば赤く頬を染めてはくと唇を動かす、その恥ずかしがる様すら雄の情欲を唆るのだが、多分アンスンはそれに気付いていないのだろう。

 危ういな、と誰ともなしに思う。

 ふと目についた先に厚底の眼鏡が見えた。

 サイドテーブルに手を伸ばしてそれを掴むと未だ顔を赤くするアンスンの唇を啄んで眼鏡をかけさせた。

 「ええ?!」

 「式までかけておけ」

 「な、なんでぇ?」

 眉尻を下げて訴えかける姿は眼鏡をかけていても可愛いのに変わりはないのだが。

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