第8話 エリアナとグレアムの来訪
「招待客に送る手紙はこれで全部ですか?」
ぶすっと不貞腐れながらケインが束になった封書を抱えあげた。
「やっぱりエリアナには送らなくていい……」
「いいわけないんですよ?」
笑顔で否定するアンスンはすっかり領主の顔つきをしている。
収穫祭から半年、丁度あの卒業記念パーティーから一年が過ぎていた。
王都では弟とエリアナの婚約が先だって発表されたらしい。
俺は相変わらずアンスンの護衛をしながら外交を手伝っている。
「大体あの日学園の誰もが俺を見限ったのだから別に学園絡みの誰も呼ばなくていいだろう、俺のことが知れればお前の立場が」
「こんな飛地に領地を持ってる男爵なんて元からある立場なんてないんですよ?」
そうかもしれない、というよりここを王家が把握しているのかすら怪しくはあるのだが。
「まあ招待状を送るようにエリアナ様から言われていますし」
「なんで来たがるんだか訳がわからん」
「幸せにやってるって確認したいんでしょう」
「泥を被せた相手のことなんか放っておけば良いものを」
「それがエリアナ様の良いところでしょう、だからアルだって」
ぷくぅと膨れっ面をしたアンスンの頬を突くとむぅと唇を尖らせる。
それを塞ぐように唇を合わせるとバンッとかなり大きな音を立てて扉が閉められた。
ケインが居たのを忘れていたな。
「ケイン怒っちゃった?」
「俺と居るのに他の男の心配をするのか?」
「え?ち、ちが!え?」
慌てて否定するアンスンを抱きしめて祝いの手紙を一緒に確認する。
アンスンの父母は一線をアンスンに明け渡した一年前から世界を周る旅行に出ているらしく、おめでとうと書かれたメモのような手紙が来ていた。
エリアナや弟から来た手紙には祝いの言葉以外にあの時の子爵令嬢が別件で隣国に捕まったと書かれていた。
あれから国外に出された彼女はまた同じようなことを繰り返したらしい。
側近候補だった者たちもそれぞれ家に返されてから厳しい処罰を受けたらしいが、その後は落ち着いているらしい。
俺のことは、エリアナや弟だけではなく母や兄も解っていて逃してくれていたようだ。
ただ、多少の腹いせがあったというから最後に会ったあの日のことだろう、泣きついたら荷物を返さないまでも幾らかの路銀を渡すつもりだったらしい。
ただ、貰う前に俺がさっさと去ってしまっただけで。
母からはアンスンに白い正装が送られて来ていた。
「花嫁衣装ってやつか」
「え?!は、恥ずかしい」
純白の正装は彼の濃い髪色にきっと似合うだろう、パープルダイヤとサファイアの指輪は兄から送られて来た。
「なんか、アルの身内からは凄いものがたくさん送られて来てて恐縮なんだけど、うちの親がごめんね?」
アンスンの両親からは手紙とは別にナイトウェアとして異国の薄い肌着のようなドレスがアンスンに送られて来ていた、そして俺にと感度が良くなる香油が送られて来ていた。
良いのか?
それから一週間後、エリアナと弟王子であるグレアムが男爵邸に到着した。
「婚前旅行に丁度良かったよ」
そう言いながらエリアナの肩を抱くグレアムとエリアナの幸せそうな笑顔を見て俺は内心ホッとしていた。
歓迎の晩餐はこの地らしく他国の料理が分断に振る舞われた。
「兄さんは憑き物が落ちたみたいですね」
「アルフレッド様はあまり表情を崩さない方でしたのに」
馴染みのある二人に言われる程には表情が豊かになったらしい。
「アンスンのおかげだな」
「うぇ?!」
屈託なく笑える晩餐などここに来るまで知らなかったからな。
楽しい晩餐の後はサロンで男爵領の特産品であるウイスキーを振る舞った。
琥珀の液体を軽く口に含むと風味と熱が喉を通る。
「アンスン、お前は呑むなよ」
「ちょっとだけなら大丈夫だと思うんだよね」
「大丈夫なわけあるか」
むぅと口を尖らせるのでエリアナが持って来たボンボンを手づから口に入れてやる。
ほうと可愛いため息を吐いている。
「お式まで一週間あるんでしょ?町を見てみたいわ」
エリアナが言えばグレアムも同意する。
「私も見てみたいですね、兄さん案内を出来る人を手配してもらっても?」
「そうだな、ケイン、頼んでいいか?」
サロンの出入り口を警護する護衛として立っていたケインに声をかければ「俺?」と素っ頓狂な返事が返って来た。
「お、俺みたいな平民には高貴な方々のお相手は荷が重いっていうか」
「高貴さだけで言えば正妃さまの直系のアルフレッドがこの中で一番高貴なのだけど」
「今の俺はアンスンの騎士だよ」
「え?あ、ええ?!あ、アル?」
なんだ?と返せば真っ赤に顔を染めたアンスンがオロオロとしている。
「いや、アルはアルだし」
「兄さんが推薦したんだ、是非君に頼むよケイン殿」
グレアムに押し切られてケインは涙目になりながら了承していた。
「ああ、そうだ、グレアムも剣技は俺と張り合えるぐらいには強いぞ、明日の訓練に付き合ってもらうか」
「訓練ですか?」
「ああ、俺が任されている騎士団や傭兵団に自警団、まとめて午前中は訓練をしている」
「へえ、じゃあ久しぶりに兄さんと手合わせしたいな」
グレアムは心底楽しそうに笑っているが、コイツがこんな顔をしてる以上気が抜けなくなってしまった。
グラスに残ったウイスキーを飲み干して、俺たちは部屋へと引き上げた。
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