第10話 お前は何も分かってない!
*
「約束を守りにここへきたのか?」
「それもあるけれど、どうしても、あなたに伝えたいことがあって、あなたに聞きたいことがあってここに来てしまったの。
なぜ、残ってくれないのか。私を置いて行ってしまうのか納得できなくて」
アルテルが、目頭にぎゅっと力を入れ目を閉じたことを後部座席に座るポーラは知らない。
その話題に触れたくないアルテルは話をそらす。
「飛行機に乗ったのは初めてか?」
ポーラにだけは、治療費のために飛んでいることを絶対に知られたくない。
「飛行機に乗るのは、はじめてよ。だってアルがいつか乗せてくれるって言ったから。約束忘れちゃったの?」
「え?」
「アレックスおじさんの飛行機に乗りたいって言ったら『いつか俺が乗せてやるから待ってろ』って。だから、私『アルが飛行機に乗せてくれたら、お礼にお嫁さんになってあげる』って言ったのよ」
「忘れた」
「ひどい!」
「飛行士の仕事にもついたし、いつ乗せてくれるのだろうって私、楽しみにしていたのよ」
「そうか、悪かったな」
「悪いわよ! 私のこと嫌いなの?」
「なっ、何を馬鹿なことを」
アルテルは、顔を赤くしてしどろもどろになった。
気持ちを伝えるなら今しかないと思いながらも、言いだせずそわそわするアルテルの様子を、口ごもるほど困っていると誤解したポーラはうなだれながら言う。
「私のこと、お嫁さんにとは考えられないってことよね……。病気ばかりしてみんなに迷惑をかけているし。子供だって産めるかどうか……。その前に、どのくらい一緒にいられるか保証もない。アル……。私じゃ、ダメなのよね……」
ポーラの瞳から、大粒の涙が堰を切ったようにあふれ出した。
今、言葉にしたことはずっと思い悩んでいたことだった。
アルテルが背を向けて空に飛び立つのは、ポーラのことを足手まといだと思っているからではないかと。
「馬鹿なことを言うな!」
アルテルは、振り向いて怒鳴った。
「お前は何にも分かってない!」
時折、アルテルと話し疲れて眠り込んでしまう彼女に、何度口づけしたいと思ったことか。
ポーラのためならば、お金などいらないし、命をかけてもかまわない。
今を逃したら、もう二度とこの気持ちを伝えることは出来ないかもしれない。
「俺は、お前のことを……」
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