第11話夢の発毛剤は?
鶴田教授は無事救出し、身の代金の一億円の奪還にも成功……
そして、犯人も逮捕されたとなれば。
「ワッハッハ~これでいよいよ新型の発毛剤ノビールの開発が再開されるぞ」
羽毛田のこんなにも上機嫌で穏やかな笑顔は、なかなか拝むことが出来ない。そのくらい今の羽毛田は幸せの絶頂期にいた。この時が来るのをどんなに待った事か。
どんなハゲでも3日でウブ毛が生えてくる新型発毛剤ノビールで、ふさふさの髪型に!藪製薬のテレビCMで流れてくるあのコピーが、羽毛田の脳内でヘビーローテーションする。もう、美容院のスタッフにバカにされる事もない!それどころか、今後、程度伸びたらパーマなんかかけちゃったりして。羽毛田の夢は拡がるばかりである。
「いやあ~鶴田教授。よくぞご無事で。お怪我などありませんでしたか?」
シンの隣で、メイの淹れたお茶を飲みながら落ち着きを取り戻していた鶴田教授に、満面の笑顔で話しかける羽毛田。
「ん~…え~と…あれがこうで…いや、違うな……」
「おや、どうしました?鶴田教授…」
羽毛田は、何やら困惑した顔でぶつぶつと呟く鶴田教授を不思議に思い、声をかけてみた。
「いやあ~先程の大騒ぎで、大事な発毛剤の化学式をすっかり忘れてしまったわい……」
「なんだってぇぇ~!!」
その瞬間、羽毛田の脳内ではちきれんばかりに膨らんでいたバラ色の夢に、ピシリと一本の大きな亀裂が入った音が聴こえた。
「パソコンで保存とかしてなかったんですか!」
「全然……」
「このクソジジイ!ぶっ殺してやろうか!」
今にも鶴田教授に掴みかかろうとする羽毛田を、残りの五人が必死に取り押さえた。
「ちょっと!落ち着いて、ボス!」
「ボスのぶっ殺すはシャレにならないからっ!」
羽毛田の夢は、泡となって消えた。事務所に戻る道中も、ずっと下を向いて黙ったままだ。その落胆ぶりといったら、見ている方が落ち込んでしまいそうな程である。
「ボス……元気出して下さいよ」
「ボスは、スキンヘッドの方が似合ってますって」
「その方が、渋くて素敵よ」
「そうそう、シャンプーだって楽だし」
「お茶でも飲んで、気を取り直して下さいにゃ」
皆で羽毛田を慰めようとするが、羽毛田は返事もせずに俯いたまま歩いている。
「さすがに今回は、相当ショックだったみたいね……」
その、沈んだ雰囲気とは対照的に、前の方からは明るくお喋りをしながら、三人の
OLらしき若い女性達が歩いて来ていた。
「…それで、朋子は誰が良いの?」
「アタシはやっぱり“ブラピ”かな~早紀は?」
「あたしは断然“ジョニー・デップ”よ」
会話の内容はどうやら、三人で好みのハリウッド俳優の言い合いをしているらしい。
どこででもよく聞くような、たわいない話題だ。ところが……
「アナタ達、そんな事を言ってるようじゃまだまだね……」
三人の真ん中を歩いていた、先輩らしい綺麗な女性が諭すような口ぶりで異論を唱えた。
「じゃあ、綾瀬先輩は誰が良いんですか?」
綾瀬先輩と呼ばれたその女性は、憧れの眼差しを浮かべて、こう答えた。
「やっぱり男といえば、『ブルース・ウィリス』に決まってるでしょ
何と言ってもあのスキンヘッドが、たまらなくセクシーで最高なのよ」
横をすれ違う羽毛田の耳が、ダンボのように大きくなっていた。
「…クックックッ……ワァ~ッハッハッハ♪諸君、今日は遠い所を御苦労だった!
仕事も無事終わった事だし、今夜は俺が奢るから大いに飲もう!」
「意外と単純なのね……」
今回は、残念ながら発毛剤を手にする事は出来なかったが、世の中には色々な理想の男性像があるのだ。
めげるな!羽毛田尊南!またいつか、新しい発毛剤が見つかる日が
やってくるさ。
おしまい☆
チャリパイ・スピンオフ~テロリスト羽毛田尊南~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930
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