第10話尊南アルカイナの逆襲④
『爆弾が喋る訳ね~だろ!安心しろ。それはただの無線機だ』
アニキ達の言葉に答えるように、再びその筒状の物体から声が聞こえた。
「無線機?どれどれ……」
その筒を手にすると、それは蓋が開くような構造になっていて、中には小型の無線機が入っていた。早速アニキが、その無線を使って質問を投げかけた。
「アンタ達は一体何者なんだ!」
『俺の声を忘れたのか?』
「えっ?アンタ、俺が知ってる人間なのか?…誰だったかな……」
羽毛田とアニキは、鶴田教授の身の代金受け渡しの時に電話でやり取りをしている。
その事を思い出させる為に、羽毛田はアニキにあるヒントを与えた。
『あの時は、昼間っから風呂まで入らされて大変だったぜ!』
その言葉を聞いたアニキは、ようやく羽毛田の事を思い出した。
「あっ!お前は、藪製薬のハゲ!」
『うるせえ!!ハゲって言うなっ!!』
アニキは、羽毛田の事を藪製薬の社員だと勘違いしていた。
「どうして藪製薬の社員が、アパッチなんかに乗ってるんだよ!」
アニキが疑問を持つのは当然だ。製薬会社の社員が爆弾を爆発させたり、戦闘ヘリを操ったりする筈などない。羽毛田は、アニキの的の外れた質問に大笑いして答えた。
『俺があの会社の社員とはお笑いだ。ちょいと訳ありで、あの会社に肩入れしちゃいるが、俺達はあの会社の人間じゃねえよ』
「だったら、お前達は何なんだ!」
『教えてやるよ。俺達は……泣く子もだまるテロリスト尊南アルカイナだあぁ~っ!!』
「テ・・テロリスト・・・」
無線機を持つアニキの手が小刻みに震え、その手から汗が滲み出した。
「ま…まさか……“911”で世界中を恐怖のどん底に陥れたあのテロリストが……」
あまりの驚きと恐怖で、アニキ達の顔は真っ青になっていた。
体中がガタガタと震え出し、その口から発する声もまた震えていた。
どうやら、『アルカイナ』と『アルカイダ』を間違えているようだ……
テロリストに刃向かっても、全く勝ち目など無いと悟ったアニキ達は、なんとか羽毛田に見逃して貰おうと、必死に交渉を試みた。
「もう人質も身の代金も今はそっちにあるんだろ!俺達の事は、見逃してくれたっていいじゃないか~!」
『ダメだ!お前達、取引の時に俺をコケにしただろ~が!このオトシマエは、きっちり取ってもらうぞ!』
「オトシマエって……いったい……」
『言葉の通りだ。お前達、俺を本気で怒らせたんだ。せいぜい覚悟しておくんだな!』
「ひっ!ひえぇ~!」
交渉は、あっさりと決裂した。
「ヤス……ダメだ……俺達、殺される……」
顔面蒼白になったアニキが、そう呟いた。いくらなんでも相手が悪過ぎる。
しがないチンピラヤクザ二人とテロリスト組織では、赤ん坊とプロレスラーがケンカするようなものである。
♢♢♢
『テス、テス…只今マイクのテスト中……』
車内の無線機から、突然女の声が聞こえてきた。
「ん?今度は女の声だぞ……誰だ、アンタは?」
『ハイお二人さん~ヘルシードリンクのお味はいかがでしたか~』
「あっ!お前は、さっきのジュース売りの女!」
無線機の音声は、ヘリの羽毛田から、下に居るゆみへと切り替わった。
『アンタ達、ホントにボスを怒らせちゃったみたいね~可哀想に……』
「うるせえ!どうせ俺達ゃ死ぬんだ。ほっといてくれっ!」
『あっ…そう……せっかく助かる方法教えてあげようとしたのに……』
「わあああ~っ!!今の取り消します!是非教えて下さい~!」
羽毛田から散々脅された後に、ゆみから提案された唯一の『助かる方法』…これはアニキ達二人にしてみたら地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸に見えたに違いない。もはや考える心のゆとりなど全く無くなっていた。
さて、羽毛田の追撃を振り切り、アニキ達が生き延びる手だてとは……?
『これから、あたしが言う通りにしてねまずは、そこの角を左に曲がって!』
「よし!左だヤス!」
『そこの三つ目の交差点を右!』
「ハイ!喜んで~!」
『そこから大通りに出て!』
「イエッサ~」
『もっとスピード出して!』
ゆみの指示に従い、アニキ達は必死に車を走らせた。
「いったい何処に行くつもりなんだ?」
『さあこれで最後よ。次の角を左に曲がったら、アクセル全開で真っ直ぐ走って!』
その角を曲がると、道は急な登り勾配になっていた。アニキ達はゆみに言われた通りに、エンジンが悲鳴を上げんばかりに、アクセルを床いっぱいまで踏みつけた。
「いけえ~!ヤス~!」
「うおぉぉぉぉ~!!」
きっとこの先には、アニキ達の希望の女神が微笑んでいてくれるに違いない。
殺されずにすむのだ!今は、そう信じるしか無いではないか!
やがて、車がもの凄いスピードで登り勾配の頂上にさしかかった時、アニキ達は目の前に信じられない光景を見た!
「道が無くなってる!!」
道路は途中で切断されたように、勾配の途中でパッタリと無くなっていた。
「うぎゃああぁぁ~~~~~っ!!!」
猛スピードで走っていたアニキ達の車は、まるでスキーのジャンプのように、勢いよく道路の切れ目から飛び出した!
「予定通りね」
「でも、ちょっと可哀想ですにゃ」
「まあ~ヘリからロケット弾撃ち込まれるよりはいいでしょ」
道の切れ目の下には、宙に舞う車を笑顔で見上げる、ゆみ、メイ、セイ、そしてシンの姿があった。
高さ10メートルはあろうか……車内では、アニキとヤスが絶叫しながらお互いに抱き合っていた。
「これのどこが助かる方法なんだよぉ~~!」
放物線を描く車は、その先に建っている建物に向かって突っ込んでいった。
ガッシャ~~ン!!
ふと気が付くと、建物の壁を突き破った車の周りを、いつの間にか数十人の人間が取り囲んでいる。
「ア…アニキ…あの女が言ってた“助かる方法”って……」
車の中で呆然とする二人に向かって、周りを取り囲んでいた男の一人が、こめかみに血管を浮き上がらせながら怒鳴った。
「テメェ~ら!ここを何処だと思ってやがる!
警察署に車で突っ込んでくるたぁ~いい度胸してんじゃね~かっ!
覚悟は出来てるんだろ~な!」
「是非逮捕して下さい~(泣)」
『ボスもさすがに刑務所までは、追いかけていきませんから~』
ネゴシエーターのドラゴンゆみの交渉により、無事犯人を“自首”させることに成功した尊南アルカイナだった
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