第9話尊南アルカイナの逆襲③

次の地点へとやって来たアニキ達の姿を目にして、セイが待ちかねたように微笑んだ。


へようこそ」


まるで、ゲームを与えられた子供のように嬉しそうな顔のセイの手には、ボタンの沢山付いたリモコンが握られていた。そのリモコンのボタンのひとつを押すと……


ドッカ~~ン!


「うわあぁぁ~っ!」


アニキ達が乗って走る車のほんの数十センチ後ろから、爆発音と共に火柱が上がった。その爆発を始めとして、アニキ達の車を追いかけるように、次々と爆発が襲いかかっていく。


ドカ~ン!ドカ~ン!

ドカ~ン!ドカ~ン!


「ぎゃああ~~!!」

「助けてくれ~~!!」


後ろからだけではない。ヤスがハンドルを右に切れば右から、左に切れば左から、スピードを上げて振り切ろうとすれば前からと、まるでアニキ達を弄んでいるようだ。


「頼むから、俺のバイクの所だけは爆発させないで下さいよ……セイさん…」


アニキ達の車から少し距離をとって前を走っていたシンは、不安げにそう呟いた。



♢♢♢



「おっ、やってる、やってる!」

「映画みたいでカッコイイですにゃ」


移動販売トラックに乗って、ゆみとメイの二人も、セイの所へと合流してきた。


「さすがセイさん。車との距離50センチ位で、ますね」

「当たらないようにするのが、案外難しいのよね……」


右へ左へと映画のカースタント並みに爆弾をかわしながら、アニキは、一体誰がこんな爆弾を仕掛けたのか考えていた。


「さっきのジュース売りの女もきっと仲間に違いないな……おい!そっちじゃねえ!右だ!いや左だ!」


と、その時、車を運転していたヤスが、外を指差しながら突拍子もない声を上げた。


「あっ!アニキ!さっきのジュース売りと変な女が、こっち見て笑ってますぜ!」


それを見てアニキは確信した。爆弾を操作しているのは、ジュース売りの隣で何やら四角い箱を持っているあの女に違いない。


「よ~し、見てろよ。いつまでもやられっぱなしでいると思うなよ」


きっと、あの女が持っている四角い箱が爆弾を操作するリモコンに違いない。

そう確信したアニキは、懐から銃を取り出すと、銃身をセイに合わせて狙いをさだめたが、何しろヤスがハンドルを右へ左へと忙しなく動かすものだから一向に目標が合わない。


「おいっ!揺れがひどくて狙いが定まらね~だろっ!」

「そんな事言ったって、仕方ないですよ…アニキ……」


右へ左へ激しく揺れる車の中では、セイを狙撃するのは難しい。


「クソッ!何か他に武器はねぇのか……おっ、これがあった」


アニキが車の中で見つけた物……それは、持っていればいつか役に立つ時があるだろうと、どこぞの工事現場からくすねて来た“ダイナマイト”であった。

『目には目を!爆弾には爆弾を!』である。アニキは、ダイナマイトを一本持ち、ニヤリと口角を上げながらライターで火を点けた。


「ウリャア~~!これでもくらえっ!」


パチパチと導火線の火花を踊らせながら、アニキの投げたダイナマイトは緩やかな放物線を描き、セイ、ゆみ、そしてメイの立つ方へ向かって行った。


「よ~し行けぇ~」


そして、見事なコントロールでダイナマイトが標的に到達しようとした、その時……


「笑止、コースが甘いっ!」


カキーーン!


野球ファンで、自らも中学時代ソフトボール部で三番サードのレギュラーだった“ドラゴンゆみ”が、た!


「ありえね~~~っ!」


ゆみの打った球…いや、ダイナマイトは、ピッチャー返しのごとくアニキ達の乗っている車内へと、勢いよく飛び込んできた。


「のわあぁぁ~っ!ばっ、爆発する~~!!」


すでに導火線が1センチにも満たなくなっていたダイナマイトが、車の床をゴロゴロと転がった。


「バカ!ヤス!早く拾え!そこじゃねえ~足元にあるだろ!」

「ああっ!シートの下に!」


激しく揺れる狭い車内で、シートの角やグローブボックスに何度も頭をぶつけながら、アニキが必死になってシートの下に手をのばす。


「あった!」


もうあと5秒遅かったら、車もろとも木っ端微塵になる所を、間一髪でアニキが拾い上げ思い切り遠くへと投げつけた。


ドッカ~~~ン!


「ハア~……危なかった……」


車内に飛び込んできたダイナマイトを拾うのに必死になっていたアニキ達だったが、ふと気が付くと、戦場のような外の爆発がいつの間にか止んでいた。


「あら残念……打ち止めだわ……」


リモコンを持ったセイが名残惜しそうに呟いた。仕掛けてあった爆弾が全て爆発し尽くしたのだ。


「よし、今のうちに逃げるぞ!」

「えっ?一億円はどうするんです?」

「それどころじゃねえだろっ!こんな所にこれ以上居られるか!」


一億円は惜しいが、命あってのものである。逃げるチャンスは今しか無いだろう。


ヤスは、爆風でボロボロになった車のアクセルを目一杯踏み込んで、砂埃を上げながら、その場を離れていった。そのまま走って、建物を隔てて連中の姿が見えなくなった所で、アニキ達はようやく生きた心地がしてきた。


「よし、ここまで来れば……」


二人揃って大きな溜め息をついた。


「ところで、アイツらいったい何者なんでしょうね?」


ヤスに質問され、アニキは言葉に詰まった。


「そういや、そうだな……警察…いや、警察があんなマネするか?……西〇警察かな……」


アニキ達には、羽毛田達の正体が、からきし見当つかなかった。


「それにしても、ノド渇きましたね……アニキ~~」

「そうだな……」


激辛ラーメンを食べたあげくに命の危険さえ伴う決死の逃走劇。二人とも冷たいビールとまでは言わないまでも、なにか喉を潤す飲み物が欲しかった。


車の中には、ゆみから貰った飲みかけの“激マズヘルシードリンク”が転がっていた。


「あれは絶対いらない……」



♢♢♢



なんの事はない。アニキ達の車のすぐそばには、ジュースの自販機があった。


「なんだよ~あそこにあるじゃねえか」


ようやく落ち着いてまともな飲み物が飲める。アニキとヤスは、ポケットの小銭を漁りながら、二人して車を降りた。


「何にしようかな~コーヒーか…炭酸も捨てがたいな……」


嬉しさを隠しきれない顔で自販機の飲み物を選んでいると……太陽が沈みかけて茜色に染まった西の空から微かに聴こえる音があった。


バラバラバラバラバラバラ……


「ん?あれは何の音だ?」


空の方から聞こえてきたその音は、徐々に大きくなり、その姿もアニキ達にはっきりと見える所まで近付いてきた。


「あれは…まさか……」


二人の方に向かって近付いてきたのは、一機のヘリ……しかも、只のヘリでは無い。


「ありゃあ~『アパッチAHー64』じゃねえか!!」


アパッチAHー64……ミサイルにロケット弾、機関砲を搭載した、である。


「バカめ~本番はこれからだよ!」


中に乗っていたのは、羽毛田とサトの二人だった。次の瞬間、アパッチの機関砲が火を吹いた!


DA DA DA DA DA DA!!


「うぎゃあぁぁ~!!」


アニキ達がジュースを買おうとしていた自販機は、瞬く間にになってしまった。


「まだ何も買ってないのに!」

「130円返せ~!」


悲痛な叫び声を上げながら、アニキ達は急いで車に乗り込み逃走した。


「何でが俺達を追って来るんだ!」

「アイツら一体何者なんだ!」


アニキ達には、自分達を追って来る彼等の正体が皆目見当つかなかった。

アニキは、彼等の正体を確かめようと車の窓を開け身を乗り出して後方を見上げた。その時である!サトがヘリから撃ったライフルの弾丸が、アニキの頬をかすめた。


「ひっ、ひえぇ!」


頭を狙って外したのでは無い。わざとアニキの頬をかすめるように撃ったのだ!その狙撃の腕前を示すように、今度はアニキ達の車のサイドミラーの中心をそれぞれ一発ずつの弾丸で撃ち抜いた。


「アイツら、ハンパじゃねえ!プロの殺し屋だ!」



♢♢♢



「さて、それじゃあ次はミサイルでもお見舞いして……」

「わあっ!ちょっとボス!ミサイルはヤバイって!」


調子に乗って、辺り一面焼け野原にしてしまう所をサトが慌てて制止した。


「それもそうだな……じゃあ、次の作戦だ!」


羽毛田の号令に従い、サトはライフルを銃身の太い特殊な銃に持ち替えて、アニキ達の車のリヤウインドゥを狙った。


ガッシャ―――ン!!


激しくガラスの割れる音が響きわたり、車の後部座席に何やら筒状の物が撃ち込まれた。


「何だこれは!」

「まさか!爆弾?」


得体の知れない物体が撃ち込まれ、車内には緊張が走った。


『ワッハッハどうだ!思い知ったか、この誘拐犯が』

「爆弾が喋った!!」



















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