第8話尊南アルカイナの逆襲②
「まあいい……これ飲んだらすぐ倉庫に戻るぞ!」
飲み物移動販売のカウンターの前でアニキとヤスの二人は、赤いボトルを手にして、安堵の表情でお互いを見た。これでようやく、あの激辛ラーメンに侵されて感覚が無くなりつつあった味覚を、戻す事が出来るのだ!二人は、キンキンに冷えた赤いボトルのリフレッシュドリンクを一気に喉に流し込んだ!
「かっっっれえぇぇぇ~~~~~~~~!!!」
「リフレッシュドリンクは、ハバネロとタバスコが主な成分ですにゃ♪」
「受験勉強で眠くなった時など、リフレッシュ効果抜群ですよ~」
勘の良い読者諸君ならもうお判りだと思うが、この販売員二人の正体はお茶汲みメイとドラゴンゆみであった。喉を押さえてのたうち回るアニキとヤスの様子を少し離れた所から眺めながら、羽毛田は嬉しそうに笑っていた。
「はっはっはっ、ざまあみろ!どうだ、俺のたてた作戦は」
「なんか……地味な作戦ね……」
まだ出番の無いセイが、少し不機嫌そうに呟いた。
☆☆☆
「おい!もっとましな飲み物はねえのか~っ!」
そう言って、真っ赤な顔で抗議するアニキとヤスに対して、ゆみはあくまで冷静に答えた。
「お客様が、どちらでもいいと仰ったので、たまたま赤い方をお渡ししただけですが……こちらの緑のヘルシードリンクは、辛くありませんよ」
「だったら緑の方をくれっ!」
しかし、亡者のように両手を伸ばす二人の前で、ゆみはボトルを届かないように高々と上げて、ドスのかかった声でこう言った。
「お前ら調子に乗ってんじゃねえよ!タダでやるのは最初の一本だって言っただろ~が!」
確かに“キャンペーン中につき、最初の一本は無料”だとは言っていたが……まさか、最初の一本が激辛ドリンクだとは……
「わかったよ……カネは払うから……いくらだよ?」
「一本、二万円ですにゃ♪」
「非道すぎる・・・」
最初は無料と言っておきながら気が付くと法外な金額を請求されるこのシステムは、巷でよくみる詐欺商法と同じ方式である。但し、ゆみ達の場合はそれをカモであるアニキ達に選ばせている所が秀逸だった。
「なんてアコギな商売してやがんだ!ぼったくりじゃね~か!」
「別にムリにとは言いませんよ……メイちゃん、そろそろ店仕舞いしましょうか」
そう言って、カウンターに並べられた飲み物を黙々と箱に詰め始めるゆみとメイを見て、アニキは慌てて二人を止めた。
「わあっ!わかった!買うよ!買う!ヤス、倉庫からカネ持って来い!」
アニキに命令されたヤスは、倉庫の中に置いてある一億円の中からカネを取りに走った。一本につき二万円とは、べらぼうに高い飲み物だが、背に腹はかえられない……どうせカネは腐る程あるのだ。
「二万位払ってやるよ!俺達ゃ~金持ちなんだよ」
精一杯の嫌みの念を込めてアニキは、ゆみ達にそう毒付いた。
「まあ、それは何よりですわ」
ゆみも負けずに笑顔でそう答えた。
♢♢♢
しばらくすると、倉庫からヤスが出て来るのが遠目に確認できた。
「ヤス!早くカネ持って来い!アイツらにバシッと払ってやれ!」
アニキはそう言って、ヤスを急かしたが、ヤスはそれが聞こえているのか、ボーっとした精気の無い表情でフラフラと今にも倒れそうな足取りで、アニキの方に近づいて来た。
「どうしたんだ…ヤス?」
「無くなってました……」
「何が?」
「一億円も、鶴田教授もです……」
「ぬあぁにいぃぃ~!」
先程の激辛ドリンクの衝撃を忘れてしまう位の驚きだったのは、言うまでもない。
「一体誰が持っていったんだっ!」
アニキは真っ赤な顔をして、抜け殻のようになったヤスの襟首を掴んで、前後に激しく揺さぶった。
「たぶん、アイツです……」
たぶんというよりは、一目瞭然だった。ヤスの指差した先には、バイクにジュラルミンのトランクを積んで、後ろに鶴田教授を乗せ、今にも走り出そうとしているシンの姿があった。
「アイツだ!!逃がすな~!追え~っ!」
慌てて、倉庫の横に停めてある自分達の車へ向かって走り出すアニキ達。
「ちょっと!ヘルシードリンクは要らないんですか!」
その二人の背中に向かって、そう問いかけるゆみの声が聞こえた。
「うるせえ!今それどころじゃね~よ!」
そう言って一瞬後ろを振り返ったアニキの目の前に、二本のヘルシードリンクが放物線を描いて飛んできた。
「仕方がないわね。今回はサービスしますよ」
「おっ、本当か?サンキュー」
鬼のような女達だと思ったら、意外といい所もあるじゃないか。アニキ達は、マラソンランナーが水分補給をするように、走りながらそのヘルシードリンクを、一気に口の中に含んだ。
「オェェ~~~!!不味い!!!」
「こちらは、センブリ、ニンニク、ドリアンをベースに、特にクセのある野菜を混ぜ合わせて作った健康飲料ですにゃ♪」
「鬼!悪魔っ!ドS女~!(泣)」
♢♢♢
車に乗り込んだアニキとヤスは、大声で叫びながらシンのバイクの後を追った。
「待ちやがれ~!このドロボ~~!」
「この悪党が~!カネと教授を返せ~!」
「どっちが悪党だよ……」
アニキとヤスの理不尽な罵倒を背中に浴びながら、シンは後ろの鶴田教授に笑顔で声をかけた。
「教授、ちょっと飛ばしますからしっかり掴まってて下さいよ」
そう言ってシンは、アニキ達に後を追わせたまま、次の作戦地点へと向かって行った。
「メイちゃん、こうしちゃいられないわ!あたし達も次の地点へ急がなきゃ」
「ハイですにゃ♪」
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