ブルーライト文芸を知ってますか

snowdrop

ブルーライト文芸とは

 特に中高生を中心に絶大な人気を博しており、実写映画化される作品も急増している作品に、ブルーライト文芸があります。


 ブルーライト文芸とは、二〇一六年辺りから登場した、青くてキラキラした、エモいイラストが表紙になっているライト文芸作品のことです。

 青い表紙から、「ブルーライト文芸」と呼ばれ、複数の出版社を中心に多く刊行、SNS時代で大きなブームとなっています。


 名付け親のペシミさんが二〇二〇年ごろ、本屋の一角がやけに青いことに気づき、青い表紙を持つライト文芸が多かったため、『ブルーライト文芸』と名付けたといいます。


 ブルーライト文芸に分類できる作品を出版しているレーベルは、KADOKAWAメディアワークス文庫やスターツ出版文庫、新潮文庫nex、集英社オレンジ文庫などが有名です。

 ブルーライト文芸の代表的な作品には、『わたしはあなたの涙になりたい』、『サマータイム・アイスバーグ』、『冬にそむく』、『ミモザの告白』、『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』、『嘘つきリップは恋で崩れる』、『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』、『僕らは『読み』を間違える』、『青を欺く』などが挙げられます。


 これらの作品には表紙の他、ストーリー面でも類似性がみられます。

 登場するキャラクターが、きわめて現代的であること。

 典型的なパターンとして、田舎や郊外の夏を舞台に、ヒロイン(恋人や想い人)と出会い、最後にヒロインがなんらかの形で消失するものが多いこと。堀辰雄『風立ちぬ』などのサナトリウム文学との連続性が見受けられます。

 また、登場する男性キャラクターの男性性が強くなく、クールで無気力。強い個性のないキャラクターを持つ作品が多いことも特徴に上げられます。たとえるなら、中高生向けに加工された村上春樹作品に登場する主人公、といったところです。


 二〇一五年の『君の膵臓をたべたい』、ビジュアル面では二〇一六年の『君の名は。』の存在が、若者受けする文芸作品の表紙に「青」として誕生したと言われます。

 ブルーライト文芸がヒットしたのには、スターツ出版が得意としたケータイ小説と、男性読者を対象としていたライトノベル、二つの流れが一つとなったためと言えます。

 ケータイ小説では、『売春』、『妊娠』、『不治の病』など、ダークな要素を含む作品も書かれていました。

 ライトノベルではクールで無気力だけど一途な男性キャラが描かれていました。

 それぞれ異なる読者層を想定していた作品の接近より、生まれたようです。

 宮崎駿によってアニメ映画化された、堀辰雄の『風立ちぬ』の影響もブームの後押しをしたといえるでしょう。

 肺結核を病んだ堀自身の体験をもとに執筆された作品で、ヒロインである節子のモデルは、夭逝した堀の婚約者・矢野綾子である。主人公が田舎の結核患者の隔離施設であるサナトリウムを訪れて、そこで少女と出会う『風立ちぬ』のヒロインも、最後には結核で亡くなってしまいます。

 

 ライトノベルやライト文芸の特徴は、キャラクター重視であることです。

 しかし、ブルーライト文芸ではヒロインが消失するストーリー展開に比べて、キャラクター造形にこだわりがみられず、むしろ個性の薄いキャラクターとして描かれているのが特徴です。

 背景には、現在の読者の好みに関係しています。

 ケータイ小説に出てくる女子高生は、孤独で人生に対して必死に向き合っています。

 対して、ブルーライト文芸で描かれる女子高生は、SNSや常時接続を前提としたあらゆるコミュニケーションを行っています。ペルソナも多様だし、コミュニケーションの相手も対象も違い、対人関係においてライトさがあります。

 SNSをみれば、自分のレベルも瞬時に推し量れるし、特別な同世代をいくらでも見ることができてしまう。

 一人の人間という固有の存在ではなく、切り替えも代替も可能な一人に過ぎないと自覚しながら、ホワイト化しつつある現代を生きる若者の姿そのものが描かれているのです。


 現在、売られているライトノベルは、現役の中高生に売ることを諦めているともいえます。タイトルからも、学校で気軽に読めないものも多い。女性向けラノベも悪役令嬢や婚約破棄みたいな人間関係にドロドロしたものを、中高生が読みたいのか甚だ疑問です。

 いまを生きている中高生にとってリアリティがあるのは、ブルーライト文芸的に書かれた青春小説だと言えます。


 かつて子供が本を読む順番として、児童書から青い鳥文庫に移動して、ライトノベルを読みあさり、次第に大衆文学へ移行していく流れがありました。

 ですが現在は、児童書と大衆文学の間にライトノベルを挟まず、ブルーライト文芸を通して大衆文芸へとつながっているといえます。

 異世界転生ものをはじめとするラノベは、少年や少女、乙女の心を持ち合わせた大人が読むものとなってしまったといえるでしょう。


 高校生のみが参加できるカクヨム甲子園作品にも、ブルーライト文芸的な作品が多く応募されているように感じます。

 

 ブルーライト文芸がTikTokでバズることが多いのは、縦画面の動画と、縦の本の表紙が合致したこと。

 また、青くてエモい表紙に音楽を掛け合わせるだけで、エモさが増しウケやすいこと。

 さらに、ブルーライト文芸は実写化されることが多いこと。起用される俳優がスマイルアップや、人気のイケメン俳優だった場合、ファン層であるTikTokを使っている多くの若い女性によって広まりやすいことも、理由に上げられます。


 このように中高生から受け入れられやすいキャラクターやイラストを用いて、文学への間口を広げているブルーライト文芸。

 近年は、若者の新しい消費形態として「エモ消費」という言葉も生まれています。

 手間のかかるフィルムカメラをあえて使用したり、アイドルやアニメキャラなど推しの誕生日を祝うことなど。自分のためにお金を使い、決してコストパフォーマンスがいい消費行動ではないけれども、精神的な満足感を求めた消費行動のことです。

 ブルーライト文芸を読み解くにも、エモさを理解することが、重要な手がかりになるでしょう。


 今後、ますますブルーライト文芸が主流となっていくかもしれません。

 ぜひ、エモい作品を書いてみてください。

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