クリスマスツリー

@tsutanai_kouta

第1話


大学の冬休みに帰省して、久々に高校時代の友人達と集まった時のことだ。


俺達は唯一、免許を持ってる狩野の車で山にドライブへ行った。俺の田舎は見るべきもんなんか何も無くて、他に行くようなとこが無かったんだよ。


鬱蒼と木々が生い茂るなかにある曲がりくねった道路を猛スピードで走り、ジェットコースターみたいなスリルに皆で歓声を上げたりした。その時、助手席に座ってた真島が突然「止めろ!」とデカい声を出した。急ブレーキで後部座席の俺と高橋は前のシートに激突しちまった。


真島が後方に顔を向けながら「見ろ!」と言い、俺達は振り返った。そこには古ぼけた標識が傾きながら立っていて、赤いクリスマスツリーらしきものと“注意”の文字が描かれていた。こんな標識は見たこともない。法定外表示ってやつだろう。


運転席の狩野が「やべェ」とつぶやく。

狩野と真島は、この山周辺の地区出身だから、標識の意味を知ってるのだろう。

俺が標識について尋ねようとしたのと同時に遠くから鈴の音が聞こえてきた。


“シャン・シャン・シャン─”


瞬く間に鈴の音が近づいて来る。

狩野が「目を閉じろ!外見るな!」と悲鳴を上げるように言った。今まで聞いたこともないような切羽詰まった声だった。俺は思わず目を閉じ、顔を伏せる。


鈴の音は急速に接近し、車の中に入ってきた。そして俺の後頭部あたりを通過し、離れて行った。現実的にありえない事態に俺の首筋の毛が逆立つ。


静まり返っても俺はしばらく顔を上げることが出来ずにいたが、真島の「おい!高橋が居ないぞ!」の声に目を開いた。

見ると確かに俺の隣に座ってた筈の高橋が居ない。俺達3人は車外に飛び出し、高橋を探した。日が落ちかけて辺りはすでに薄暗くなりつつあった。俺は周囲を見回したが、何故か他の2人はキョロキョロと上の方を見上げていた。狩野の口から「あっ」とも

「うっ」ともつかない言葉が漏れる。


俺が狩野の視線を追うと、そこにはクリスマスツリーがあった。車から少し離れたとこに生えてた木にモールのようなものが巻かれ、オーナメントのようなものが飾られ、最頂部には星でなく丸型のものが設置されていた。だが凝視してるうちに、そうじゃないと気がつく。モールのようなものは内臓であり、オーナメントのようなものは手足などの部位、木のてっぺんに刺さっていたのは高橋の頭だった──。



そこからは、記憶がない。

気づいたら病院で寝ていた。目を覚ますとベッドのそばに中年男性が座って俺を見つめていた。確か狩野の父親だ。狩野の実家は山のふもとにある由緒正しい神社で、昔何度か遊びに行った際に顔を合わせたことがある。狩野の父親は淡々と高橋は事故死として処理されると告げ、俺はなるべく早く大学に戻った方がいいと忠告した。そして病室を出て行く時、振り返り「この時期には、お山に入らないようにね」とつぶやくように言った。

どこか諦めたような口調だった。


俺は年明けを待たずに故郷を離れた。

その前に何度か狩野と真島に連絡したが不通だったし、返信もなかった。彼らの安否が気になるところだ。そして正直、高橋が何を見たのか、アレが何だったのか知りたかった。だがそれは知る由もなく…いや、恐らく知らない方がいいのだろう。

何も明確ではないが、ただ1つ、はっきりしてることがある。それは、俺は今後、クリスマスにまつわる全てを忌避するだろうということだ──。




─了─

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