48.作戦会議

「失礼するよ、村長」


 ――村長屋敷、最奥。

 ロゼミナさんの待つ執務室へと、私とミェルさんは訪れた。


「どうぞ」


 端的な返事にミェルさんは扉を開け、続いて私も部屋へと入っていく。

 上品なお茶の香りを漂わせる部屋の中、ロゼミナさんがソファに腰掛けていた。


「ヴァンクロードさんには既に話を通してある。今からプレジールを呼び出して、リスルディアから月水晶を奪取するための計画を立てる」


 ロゼミナさんの対面に座ったミェルさん。私もその横に座ると、ミェルさんがペンダントを取り出した。


「あなた達の道行きを私も全面的に支援するわ。村人を守らなければいけない関係上、同行は出来ないけどね」


「ロゼミナさん……本当に、なんと言ったらいいか」


「ふふっ、いいのよ。罪滅ぼしの一貫でもるしね」


 そう言ってロゼミナさんは微笑んだ。

 色んな人が、私たちに力を貸してくれている。失敗は絶対に許されない。


「……ん、この感じ、そろそろ繋がりそうだ」


 ミェルさんの方を見やると、ペンダントが揺らめいて妖しげな光を放ち始める。

 部屋中に花の香りが漂い、浮かび上がるような形で小柄なシルエットがテーブルの横に輪郭を作る。


『ふぅ、無事に繋がったわね……。この魔術も安定してきたみたい……』


 そして現れたプレジールさんは、ロゼミナさんへと上品にお辞儀をした。


『ご機嫌よう、ロゼミナ村長。私はプレジール・フルール……ミェルから話は聞いているわ、どうぞよろしく』


「ええ、よろしく。ロゼミナ・ヴァンクロードよ。簡単な挨拶になってしまって申し訳ないわ」


 端的に紹介を終え、そのままロゼミナさんはテーブルにスケッチ画の描かれた大きな紙を複数用意する。


「時間が惜しいから早速始めましょう。まずはこれを見て」


「……これは、リスルディアを俯瞰で見た図か?」


 真ん中に置かれた一際大きな紙には、国家の姿がありありと描かれていた。

 中央に位置する城を中心に、家々が周囲に広がっている。何より特徴的だったのは、教会と思しき建物の多さだった。


「そう。これが宗教国家リスルディアよ。長年少しずつ集めた情報をもとに、うちのメイドたちに描かせたの」


『やっぱり壁に囲まれているのが厄介ね。四方の門のどれかから入るしかないかしら……』


 プレジールさんの言う通り、国を取り囲むように高い壁がそびえている。東西南北の方向にそれぞれ用意された門を通らねば入国すら難しいだろう。


「ミェルさんの身体強化魔術で乗り越えられませんか?」


「侵入自体は可能だろう。だが、見つからないで入るのはこの規模の国家相手には厳しいね」


『ひとつ……アイデアがあるわ』


 そう言うとプレジールさんは、私の頭に手をかざして、撫でるような手つきで動かした。


「プレジールさん?今何を……」


「なるほど、幻影魔術ね。この精度ならかなり有効だわ」


 ロゼミナさんが見せてきた手鏡には、黒いローブに身を包み、十字架を携えたリスルディアの信徒の姿があった。


「えっ、これ、私ですか?」


『そうよ……ミェルとあなたにこの魔術を掛ければ、少なくとも見た目では怪しまれない。入国もしやすくなるはずよ……』


「それは有難いが、このレベルの幻影だと燃費が凄まじく悪いだろう?無事に月水晶を奪取するまで、魔力も贄の数も足りるか分からないぞ」


『ええ……だから、なるべく早く目的を達成なさい。私の魔術をアテにしては、きっとボロが出るから』


 プレジールさんがそこまで言って、不意にロゼミナさんが口を挟んだ。


「ちょっと良いかしら。月音ちゃんを村で待機させて、ミェルに単独で向かわせるのではダメなの?二人で行く前提になっているようだけど」


「……ダメだね」


 満を持したようにミェルさんが口を開いて、ソファに深く座り直した。


「私は、リスルディアで月水晶を手に入れた後……その場で転移魔術を行使するつもりだ」

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月と魔女と異世界と カラスウリ @Karasu_

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