やりきれない想いを抱いてる君達へ

福山典雅

やりきれない想いを抱いてる君達へ


 泣いてる君を僕は見た。高校最後の野球大会で、怪我をして出場出来なくなった君は仲間に土下座して謝り、精いっぱいベンチで大きな声を出していた。でも試合は負けてしまった。やり場のない悔しさを、君は全部引き受けるみたいに拳を握って泣いていた。


 弓道部の君は厳格で古風な祖父に、子供の頃から弓道を教えて貰っていた。両親を早くに亡くした君は祖父母に育てられながら、明るく元気で責任感の強い女の子だった。だけど3年生の夏に祖母を失くし、祖父を心配して夢だった海外留学を諦めて近所のスーパーで働く事を決めた。


 昼休みの終わりに君はいつも手紙を書いている。最初に書いたのは、父親からのメールで母親が緊急で検査入院する事を知らされた日だった。毎日可愛いお弁当を広げては、仲間の男子と文句ばかり言う君だったけど、その日は一人で泣きながら食べて、「ありがとう」の気持ちを手紙に書いて弁当箱にこっそり入れていた。


 孤独が好きだった君は、放課後は決まって図書館で静かに自習していた。そんな君が突然文化祭の役員に立候補して、みんなが驚くほどのとんでもない活躍で盛り上げてくれた。だけど僕は本好きな君が緑内障を発症し、薬で進行を遅らせながら今も片目が失明する恐怖と戦っている事を知っている。


 いつもアルバイトに明け暮れていた君。遊ぶお金ではなく、親に負担をかけまいと予備校の夏期講習代や一人暮らしをする費用をこつこつと貯めていた。だけど模試で合格判定が取れた翌日、君は就職組に変わった。離婚が決まった体の弱い母親と二人で暮らす為だった。


 いつもプリントを率先して運ぶ君。弟さんが事故で長期入院する事になり、共働きの両親の代わりに懸命に世話をする君。女子バスケの県代表だった君が、すべてを諦めて退部をした。惜しむ仲間に笑顔で別れを告げた君が、帰りの自転車で泣きながら大声で歌っている姿を僕は見た。


 


 僕は他にも幾人かの、やり切れない想いを抱える君達を知っている。明るい新生活じゃない未来へ、懸命に歯を食いしばって歩み出そうとしている君達を知っている。


 今日、君達はこの高校を卒業する。


 幸せに人生の節目を迎えた生徒達も多くいるけど、僕はそうじゃないという想いを抱いている君達に向けて、少しだけ話をさせてもらいたいんだ。


 理想とは違う人生は突然訪れるものだ。泣いたって、わめいたって、現実は何も変わらない。我慢して、苦労して、努力しても、まるで報われない事なんて人生ではざらなんだ。


 僕はとても不適切かも知れないけど、卒業していく君達にこの言葉を贈りたい。


「どんな時も、とりあえず」


 辛くて理不尽な事が起こっても、長い人生の中では「とりあえず」なんだ。決して思い詰めてはいけないよ。占い師だって正確な未来はわからない。君達が、5年後、10年後には、どうなっているかなんて誰にも決してわからないんだ。だから、今だけを見つめて、失望したり、悲観したり、絶望したりしないで欲しいんだ。そんな事考えられないって言うかもしれない。本当は、負けるなとか、ガンバレとか、心を込めて励ました方が正しいのかもしれない。だけど、


「どんな時も、とりあえず」


 僕が君達に贈る言葉です。


 卒業、おめでとうございます。


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