絶体絶命バードマン

坂本 光陽

絶体絶命バードマン


 世界のヒーロー,バードマンが帝国の手に落ちた。世界最悪の独裁者、シャレスキーが卑劣にも子供たちを人質に取り、バードマンに全面降伏を要求したせいだ。


 背中の翼をへし折られ、超自然の能力を失ったバードマンに、壮絶なリンチが襲う。身体中の骨を砕かれ、複数の臓器を裂かれては、さすがのヒーローも半死半生の状態に陥った。その上、鋼鉄の拘束具をはめられたので、身じろぎすらできない。


 シャレスキーは全世界に宣言した。「マンはあえず死刑である」と。


 反帝国の民衆にとっての希望の象徴,バードマンを亡き者にして、絶対的な支配を知らしめるつもりなのだ。ちなみに、バードとトリを引っ掛けたのは、ダジャレ好きだからにすぎない。


 死刑当日、シャレスキーはささやかな情けをかけた。バードマンに「何か食べたいものはあるか」と尋ねたのだ。バードマンは答えた。「日本の焼き鳥を食べたい」と。有名な話だが、バードマンは親日家なのだった。


「バードマンが鳥を食べたら共食いではないか」そう言って、シャレスキーは腹を抱えて笑った。幹部や部下たちも追従して大笑いをした。


 シャレスキーは性根の腐った策士だった。使えるものはとことん利用する。バードマンが手を使わずに地面に落ちた焼き鳥を食べる、という衝撃的なシーンが全世界に発信された。バードマンのファンたちが泣きぬれたことは言うまでもない。


 ついに、死刑執行の時がきた。ぼろ雑巾のようになったバードマンを十丁の銃が狙う。シャレスキーの合図とともにおびただしい銃声が響き渡り、バードマンは血煙に包まれた。


 シャレスキーは高笑いをしていたが、それを見たとたん表情を変えた。血煙の中から巨大な化け物が現れたのだ。背丈が8m以上もあり、ずんぐりと太ったフォルムをしていた。

「その姿、まるで日本の相撲だな」脅えたせいか、ダジャレの切れはイマイチだった。


 化け物の頭部は、猛禽類のそれである。明らかに狂気をはらんでおり、その上、残虐性を持ち合わせていた。兵士たちの銃撃をものともせず、片っ端から血祭りに上げていく。まさに地獄絵図であり、悪夢以外の何物でもない。


 化け物に鷲掴みにされたシャレスキーは、間近に迫った猛禽類の顔を見て、瞬時に悟った。こいつはバードマンのだ。共食いをして地獄に落ちた彼が、化け物になって蘇ったのだ。


 そう直感した独裁者の脳髄は、あえず、脅えきった両眼や絶叫を放つ口と共に、巨大なくちばしの中に消えた。


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