11:登場人物について (8)

◆堀田善治(ほったぜんじ)


 人間/40歳/富山県出身


 陰陽士。富山県怪異対策局、黒部くろべ支局副士長。

 猫又山を猫又の集団が縄張りとしてしまったため、黒部支局職員は交代で毛勝猫又けかちねこまた分局に駐在し山を巡回する事になっている。


 山男然とした風貌で無精髭が目立つ。しかしワイルドな見た目に似合わず怪異への対応は繊細で、よく気がつくタイプ、と禍礼まがれからも気に入られている。


 生粋の富山人らしく、喋ると越中訛りになる。


【製作小話】


 書き手は島根県出身なのですが一時期富山県に住んでいた事があり、多少越中弁が分かるので、今回は地方代表として富山県民に出演して貰いました。

 完全に巻き込まれて緊急出張する羽目になった可哀想な陰陽士です。ちなみに既婚者なので、替えのパンツも持たずに東京に飛んでいった事を後日奥さんに叱られています。



   ◇◇◇



◆血流し十文字(ちながしじゅうもんじ)


 怪異・幽霊または付喪神/推定435歳(享年42歳)


 1590年、八王子城の合戦にて討死した武将の無念が愛用の十文字槍に取り憑き、怪異化・呪物化したもの。


 怪異化直後の呪いの力は凄まじく、自身に触れた者からその親族縁者までも祟り殺してきた。

 十文字槍の鍛え手である山本康重によって供養され、多少狂暴性は薄れたが、手厚く弔われてもなお、地中で400年以上顕現し続ける。


 周囲の人間の動作を僅かに操る異能を持ち、強力な呪物だった頃はそれで事故を頻発させた。

 現在は怨念が薄れた事もあり、動かせるのは槍の持ち手一人のみ。しかも精緻に操るとなると上半身くらいまでが限界となる。


 他に、呪いを具現化させ血液に似た赤黒い粘液を周辺に放出する事が出来る。それが怪異や人間にまとわりつくと呪いの標的となる。が、根岸と出会い人格を取り戻して以降は、対象を守るクッションとして機能するようになった様子。


 死の瞬間の怒りと混乱から、人としての記憶も形状もほぼ崩壊した状態で怪異化してしまったため、人間の姿は取れず、十文字から外に出せるのは呪いの粘液と、不定形な右腕のみ。

 また会話が成り立つようになってからも、抑揚の乏しい機械音声のような声音でしか喋れない。


 本来の人格は武家の重鎮らしい落ち着いたもので、山本康重が深い敬意を抱いていた、公正で誠実な人物。

 ただしかなり無口であり、戦闘時の必要な場合以外は滅多に発言しない。


 趣味は茶道。音戸邸では茶道具を用意して貰ったので、たまに右腕だけで茶を立てて娘の幸と楽しんでいる。



◆幸(こう)


 怪異・幽霊または付喪神/推定435歳(享年14歳)


 血流し十文字の娘。八王子城の合戦の折、あるじである北条家夫人や他の侍女達と共に城に立て籠もっていたが、敵軍に追い詰められて滝壺に身を投げ自害している。


 父の惨死を目の当たりにし、自身も仕えた城の人々も死んでいく悲しさから微かにこの世に思念の断片を遺すも、血流し十文字の強い怒りと怨念、武士としての強さゆえに彼女の存在は淡くかすみ、長らく十文字の一部となって沈んでいた。


 根岸がもがりの異能によって彼女を見出した事で、父親ともども人格を取り戻す。


 外見は戦国期の城仕えの侍女らしく、気品のある小袖姿だが、頭頂部から左側頭部にかけて致命傷となった深い傷が残っている。



【製作小話】


 血流し十文字は歴史上の実在人物をモデルとしたキャラクターです。勝手に呪いの槍にしてしまったので流石に本名は出せず、こういう呼び名としました。

 作中だと本人と娘しか家族がいないような描写になっていますが、史実では息子が生き残っており、一族は明治時代まで存続します。


 ちなみに「血流し」とは呪いの効果が由来の呼び名ですが、刀剣や槍の刃に掘られた樋(溝)をそう呼ぶ事もあるそうです。


 幸という名前なんですが、八王子城合戦の敵軍である前田利家の長女と被ってしまいました。

 最初は「お多喜たき」という名前にしようとしていたんですが、滝壺に落ちて亡くなった人をタキと呼ぶのも……と考えて変更した結果こんな事に。



   ◇◇◇



◆伽陀丸(かだまる)


 怪異・妖怪天狗/14歳→23歳/東京都八王子市出身


 志津丸と同じく、大垂水峠おおたるみとうげで顕現し天狗の里で育った怪異。


 温和そうなすっきりと整った顔立ち。中学生時代からやや襟足を伸ばしていたが、9年後には背中までの長髪となり、ヴィイの魔眼を埋め込んだ右目を隠している。


 パンデミック以前の強大で天衣無縫な怪異の在りように憧れを抱く。

 瑞鳶ずいえんも憧憬の対象だったが、あえて怪異の弱体化を受け入れ人間社会との融和路線を取る彼に、やがて強い反発と嫌悪を覚えるようになっていった。


 天狗に発現する異能には、風使い、草木そうもく使い、礫塵れきじん使いがある。特に風使いは、頭領の瑞鳶や彼の盟友志鷹しようをはじめ偉大な天狗が多かった。

 頭領の証とされる羽団扇はうちわを扱うのに風使いが有利な事もあり、伽陀丸は風の異能を羨み、自身に具わった礫塵の異能を疎むようにもなる。


 能力は砂塵や石礫いしつぶてを操ること。

 特に、砂礫を集めて大蛇を作り出し、自在に動かす術を得意とする。

 14歳の時点ではすいを愛用し、9年後には魔眼の毒を籠めやすい針状の二振りの短剣を使うようになった。

 魔眼の力が使えなくなると、鉤状の凹凸が付いた双剣を振るう。


 弟分の志津丸に対しては家族愛めいた感情を抱いてもいるが、風使いの異能に恵まれ瑞鳶からも目をかけられ、志津丸自身も天狗の里の方針に疑念を持たない所から、苛立ちを覚えもする複雑な相手。


【製作小話】


 第二部は志津丸の話にしよう、メインの敵は同族の怪異にしよう、というぼんやりしたプロットは前々からあったので、割ととんとん拍子に固まったキャラクターです。


 志津丸や瑞鳶との関係だとか、彼自身の複雑な劣等感だとか、正直描写不足な部分も多くなってしまったので、過去編にもう1エピソードあっても良かったかもしれません。

 そうすると根岸を全く出演させられなくなるのが難点ですが……。



   ◇◇◇



◆イーゴリ


 怪異・魔物・人狼/21歳→30歳/旧ソビエト連邦(暫定ロシア)イルクーツク州出身


 霧中のイーゴリイーゴリ・ヴ・トゥマネの異名を持つ、強力にして凶悪な人狼。


 極めて高い変身能力を具え、人間形態に至っては本人もどれが元々の姿なのか忘失している。変身相手の魂の情報があれば、怪異の嗅覚を騙せるほど完璧に化ける事が可能。


 普段、人間社会に溶け込む際に好んで使うのは、大柄で青白く、顎から手指にまで刺青タトゥーを施した、ごわついたプラチナブロンドの男性の姿。この姿の時は耳が尖っている。


 狼としての姿は、全長7〜14メートル、白と金の絢爛な毛並に、亀裂状の三対の目が特徴。瞳の色は濁った青。

 両脇腹にもそれぞれ巨大な口があり、長い牙が外にはみ出て、肋骨が飛び出たような見た目になっている。脇腹の口からは長い舌を伸ばせる。


 怪異や人間や動物を生きながら食らう事でその命を取り込み、肉体に負った傷を回復させ、更に強靭な力を得る。犠牲者の魂は表皮を覆う鎧としても機能している。


 享楽主義かつ刹那主義で、「食いたい時に食いたいだけ食いたいものを食う」という信条を掲げており、同族への仲間意識も社会への遵法精神も持たない。

 「怪異らしさ」を極限まで体現したような怪異と言える。


【製作小話】


 第二部を通して、伽陀丸が志津丸との対比になるキャラクターなので、ミケ・根岸と対峙する敵も出そうと思い、こちらは結構急遽作り上げたキャラクターになります。


 ミケは生まれた時から強さが固定されていて、それをどうコントロールするかを課題としてきた怪異なので、その逆、無制限に成長し続ける怪異にしました。


 深く練り込む前に登場させてしまったキャラクターなせいか、本人まであまり後先を考えない性格になりましたが、そのためかかえって筆のノリが良く、当初の予想より大分悪役らしい悪役として役割を全うさせられたように思います。


 問題は、初登場時に「小学生を脅迫」という傍から見ると結構しょっぱい行動を取っている点ですね。


 過去編の志津丸を高校生くらいに設定しておけば避けられた事態ではあるのですが。

 ただ、志津丸はミケと子供の頃からの付き合いという設定が序盤からあり、志津丸と伽陀丸の年齢差も、兄貴分だけど対等な友人に近いという関係を考えると2〜3歳差が限界で、結局調整が利かずイーゴリに弊害を背負って貰う形になってしまいました。



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カオティック・オーダー 創作メモ集 白蛇五十五 @shirohebi55

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