10:登場人物について (7)

◆柳葉(りゅうよう)


 怪異・妖怪天狗/25歳/東京都八王子市出身


 高尾山の天狗の山里への入口、神隠しのリフトの番人。

 短髪に作務衣姿で勤務している事が多いため、一見穏やかな住職か何かに見える。

 社会性の高い天狗とはいえ、人間から見ると規則にルーズな個体が多い中で、稀少なまでにマニュアルに沿った対応が出来るため、重要な職務である番人に抜擢されている。一応他に交代員もいてシフト制で回しているが、彼が主任扱い。



◆芳檜(ほうかい)


 怪異・妖怪天狗/48歳/東京都八王子市出身


 天狗の山里の一員。若天狗衆の中ではリーダー格。

 ラグビー選手を思わせるがっしりした体格が特徴である。

 礫塵れきじん使いの異能を具え、地中の精気から分銅鎖を現出させた上で、それを振るって防御壁を張り巡らせる。また格闘能力と自己治癒力にも長けており、リーダーらしいバランス型と言える。



◆桜舞(おうぶ)


 怪異・妖怪天狗/62歳/東京都八王子市出身


 天狗の山里の一員。実は「若天狗」を名乗るにはもう高齢なのだが、外見上は二十代後半のまま。美容方面に霊威を注ぎ込んでいるらしい。

 骨格や声色は人間の男性に近いが、女性向けのファッションやメイクを好む。怪異なので厳密には無性。

 横髪に鳩羽色の羽毛が混ざって生えているのが特徴。

 鉄扇を現出させて風を操る他、花弁の幻覚を撒いて敵を翻弄する異能を持つ。

 普段は自由奔放な振る舞いが目立つが、非常に仲間思いで郷里愛が強い。特に子供の天狗は、身を挺してでも守ろうとする。



◆甘柿(かんし)


 怪異・妖怪天狗/43歳/東京都八王子市出身


 天狗の山里の一員。

 小柄で丸顔、体型も丸っこく、いかにも尖った所のなさそうな容姿。

 外見の印象にたがわず温厚な性格で、里の医療所に勤めつつビール工房を立ち上げるなど何かと多芸多趣味である。

 草木そうもくの薬効成分を現出させ塗布薬を作り出す治癒の異能持ち。戦いは苦手としている。



◆須佐(すさ)


 怪異・妖怪天狗/29歳/東京都八王子市出身


 天狗の山里の一員。鴉天狗からすてんぐ

 鴉とされつつも、複数の猛禽類を掛け合わせたような顔つきをしている。また、首を90度くらいまで傾げられる。

 手足も鳥類に似た形だが、指先は人間以上に器用に動く。

 甘柿と同じく治癒の異能持ちで、加えて後天的に学んだ怪異治癒術も使える。甘柿とは親友にして仕事上の相棒でもあり、共に医療所を切り盛りしている。



◆阿古(あこ)


 怪異・妖怪天狗/10歳/東京都八王子市出身


 天狗の山里の一員。幼体の鴉天狗。

 翼長は1メートル強、人間の10歳児に比べて小柄である。

 まだ修行期間にも入っておらず、もっぱら里の中で勉強したり遊んだりしている。人語を話すことは出来ないが、同族同士であれば鳴き声で会話が可能。

 歳相応にやんちゃで、里の外から来た者に対しては興味半分、警戒半分でちょっかいをかける。

 木棒を現出させる異能だけは獲得している様子。



【製作小話】


 第二部は集団対集団の話にしよう、という事で登場させた天狗軍勢のキャラクターたちです。

 瑞鳶は約400歳ですが、一般的な強さの天狗は、精気の十分な縄張りの中で暮らし、鍛錬と健康維持を欠かさなかったとしても250歳くらいが寿命の限界で、瑞鳶と共に天狗の里を築いた初期メンバーは全員故人となっています。

 とはいえ100歳超えの天狗は結構そこらにいるので、40代は十分若者扱いになります。


 上記の全員を登場させた段階で、「このうちの誰かは死ぬかもな」とは思っていたのですが、誰が死亡するかまでは考えていなかったので、死者を出した時は結構書いてて悲しかったです。いや自分が死なせたんですが……。



   ◇◇◇



◆毛勝禍礼(けかちまがれ)


 怪異・妖怪猫又/52歳(享年推定8か月)/長野県出身


 黒い猫又。二本に分かれた鍵尻尾が特徴。人間に化けると、16歳くらいの美少女の姿を取る。

 人間形態時にも猫の耳と尻尾を生やしたままにする癖がある。消せなくはないが、彼女にとってはストレスらしい。ちなみにミケは猫耳と尾を生やし続ける方が集中力を要するので苦手としている。


 「黒猫あんこねこ」と「鍵尻尾」はどちらも幸運を呼ぶとして自分の外見を気に入っている様子。


 一人称は「まにゃにゃ」、語尾に「にゃーん」「にゃん」を付けて喋るが、五十年前にはそんな口調ではなかったとミケは証言する。YouTuber・毛勝まにゃにゃとしてのデビューの際にキャラ作りを行ったと思われる。


 ベースとなった魂は普通の子猫で、夏休みの間だけ別荘地での暇潰し相手として人間に飼われたものの夏の終わりに捨て去られ、野犬に噛まれて死んでしまった。

 その後、山の精気と捨てられたペットたちの無念が混ざり合い猫又として顕現。

 顕現時から暴走状態で狂暴化していたため、手当たり次第に人間を襲おうとするが、偶然通りかかったミケたちに止められる。


 その時禍礼はミケに一目惚れ。以降現在に至るまで積極的かつ直接的過ぎるアプローチを仕掛けている。


 富山県の毛勝三山、特に猫又山を縄張りとし、自分と似たような境遇の猫又たちを養っている。この縄張りは亡き老猫又・毛勝瑙魔けかちのうまから受け継いだもの。


 なお「禍礼」の名前も瑙魔から与えられている。生前の名前はマーガレット。


 人間の少女と尾が二本ある黒猫の姿の他に、豹と同程度まで肉体を巨大化させる変化能力を具える。巨獣時の牙と爪を駆使した狩猟能力は凄まじい。

 ただし、炎を操るなどの特殊な異能は持たない。



【製作小話】


 ミケと対照的な同族を出したくなって考案したキャラクターです。


 ライバルというか宿敵のポジションとしては第二部通してイーゴリがいるので、こちらはミケにべったりにしました。

 度々容姿の良さに言及されているミケですが、全然浮いた話がなかったし……。


 しかし禍礼の感情は限りなく動物の本能に近いので、全くロマンチックになりません。ミケの背に乗っかって首を噛もうとしたり、ぺとぺとに毛繕いしたり、そんな具合です。



   ◇◇◇



◆辺路番(ヘチバン)


 怪異・妖怪ヒダル神/30歳/和歌山県出身


 和歌山県から三重県にまたがる霊場・熊野の山奥を縄張りとする妖怪。通称を雲取くもとりの辺路番。


 聖域であると同時に強力な怪異も顕現しやすい峠の道を守り、人や怪異の遭難を防ぐ役割を担っている。

 「辺路番」の名は襲名制で、同様の務めを果たしてきたヒダル神が昔から何代もいた様子。


 陰陽庁設立後には「辺路番」の仕事に謝礼金が出るようになった。

 また近隣の怪異がパーティーを開催する際、しばしばDJとして呼ばれてギャラを稼いでいる。

 収入は主に、ブラザーズと呼んで面倒を見ている餓鬼たちの世話代にあてられる。


 既に30年以上を生きているが、見た目の年齢は15歳前後。

 苔色のパーカーを着てフードを目深に被り、ヘッドフォンを首にかけるスタイル。腰のベルトに挿した山仕事用の鉈だけが異質な出で立ちである。

 フードを脱ぐと、目鼻のあるべき位置にぽっかりと黒い穴が空いた状態となっている。初対面の人間には大体驚かれる。

 「人に驚かれるのは怪異の本望」と本人は語りつつも、多少気にしているらしい。


 外見は不気味だが、性格は情に厚く義理堅い。

 音楽全般の愛好家で、60年代ロックから最新のYouTubeのアマチュア演奏まで幅広くチェックしている。


 虚空に穴を開け、遠く離れた場所を繋げる「空間穿孔くうかんせんこう」と呼ばれる異能を具える。

 ただし一定以上の距離を繋げる場合は、餓鬼たちの協力が必要。

 また、空間穿孔で開いた坑道内のナビゲーションも出来る。その場合は目的地を定めた人物から、「魂の篭められた対価」を支払わせ、それを元に灯りと道標を現出させる。



【製作小話】


 関東以外から地方色の強い怪異を出したいと思って登場させたキャラクターです。


 ヒダル神といえば、水木しげる御大が描かれたほっかむり集団のあのイメージが強いという方も多いんじゃないかと思います。そのイメージを現代風にしようとしてパーカーを着せました。

 そこから「パーカーのフード被って仕事をしている人→DJ」という良く分からない連想に至り、こういうキャラに仕上がっています(映画でそういう装いを見かけたのです)。


 辺路番と諭一とブギーマンのエピソードでは、それまでなかなか活用出来なかった、諭一が音楽をやっていて発表もしているという設定をようやく活かせたので満足です。

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