9:登場人物について (6)

◆鶴屋琴鳴(つるやことなり)


 人間/初登場時27歳


 陰陽庁東京都中央怪異対策局所属の陰陽士。階級は司令補しれいほ


 細身で細面ほそおもて、狐面を想起させる切れ長の涼しげな目元が特徴。

 物腰も相俟あいまって無駄に胡散臭い人物と思われがちである。


 元々は怪異関連の研究職を目指していたが、紆余曲折あって陰陽庁検査研究部に入職。その後更に調査対策部へ異動。陰陽士としては優秀なのだが、やや複雑な経歴と当人ののらくらした性格が原因で、キャリア組の割には昇進が遅い。


 実家は陰陽庁・陰陽士制度の復活前から陰陽師を生業なりわいとしてきた家系。



◆鳥山京介(とりやまきょうすけ)


 人間/初登場時27歳


 警視庁捜査一課所属の刑事。階級は警部補。

 大柄で無精髭を生やし常にしかめっ面で、怪異と対面すると更に不機嫌になる。

 表情も相俟って老けて見られがちだが、鶴屋とは幼馴染で同世代である。


 また鶴屋と同じく、古くから怪異と関わる血筋の生まれで、陰陽庁への就職を期待されていたが、生来ごく弱い霊感しか持ち合わせなかったために断念した過去がある。

 その後、親類や周囲からの「残念そうな目」を受けて反発し、成績優秀だったにもかかわらずあえて高校卒業直後にノンキャリアの警官となる。


 現在は典型的な強面こわもての刑事然とした振る舞いを見せているが、実は相当に無理をして作り上げた性格で、本来は坊ちゃん気質だったという。



◆伊藤若菜(いとうわかな)


 人間/初登場時27歳


 陰陽庁東京都中央怪異対策局所属の陰陽士。階級は司令。

 日本全国に点在する、特殊かつ強力な怪異が出没しやすく監視の必要がある地区、陰陽庁怪異時別監督指定区での仕事で成果を上げてきた優秀な陰陽士である。


 鶴屋・鳥山とは幼馴染で、鶴屋は元夫。彼女もまた代々陰陽師を輩出してきた家の出身だった。


 霊感の強さには遺伝が関わると言われるため、家同士の取り決めで鶴屋と夫婦となるも、「結婚にも育児にも全く向いていない」と自ら判断し、娘を出産したのちに離婚、親権も放棄した。


 鶴屋の死後も彼の親族が娘を育てているが、定期的に伊藤も面会している。一般的な母親像からは大きく逸脱しているものの、彼女なりに愛情は抱いているらしい。



【製作小話】


 登場話数は多くないものの、人間サイドの中では割と重要な人物たちです。

 怪異と対峙するのに必要な「霊感」がどうしても天性の才能に依存しがちなものであるため、人間の、特に陰陽庁に関わるエリート層の社会構造は相当にいびつなものを抱えているだろうと思い、あれこれ設定は付与しましたが、なかなか本編で紹介する機会がありません。

 何しろメインはあくまで怪異側ですので……。


 ただ、怪異を主役側に据えた物語となると「実は人間の方が怖い」的なテーマもよくあるかと思われますが、そういう方向にも傾き過ぎないよう、特に伊藤の描写などは気をつけて書いています。


 名前のモデルはそれぞれ、鶴屋南北と曲亭馬琴、鳥山石燕と山東京伝、伊藤若冲となります。



   ◇◇◇



◆コマ


 怪異・妖怪猫又/享年推定4歳(猫としての享年推定1歳)/東京都江東区出身


 ミケの姉猫。ミケよりも淡く、パステルカラーに近い毛色が特徴。また白毛の部分が多い。

 利発な猫又だが、人語を喋る能力はなく人に化ける事も出来ず、特殊な異能も持たない。パンデミック直前の近代、絶滅に瀕した怪異として典型的な一体と言える。


 東京大空襲の夜、火災に巻き込まれ煙の中で瀕死となりながらも、世界層破断の影響からか急速に能力を成長させ、初めて人の言葉を発する。

 人としての姿は、ミケと瓜二つで性別だけを変えたような容貌。猫としての姿も併せて、その肉体は雁枝に受け継がれた。


【製作小話】


 ミケの行動指針の基盤となった人物(猫)なので、こちらも登場回数は少ないですが重要なキャラクターと言えるかもしれません。


 彼女の生きた二十世紀の半ば頃は、世界的に人類の産業や戦争の規模が飛躍した時代であり、同時に怪異が最も数を減らし、最も弱っていた時代でもあります。

 雁枝や瑞鳶といった古くからの怪異たちは、遠からず怪異がこの世界層から絶滅し、肉体を持たず不定形のまま漂う精神生命体の世界へ戻っていくと予見していました。

 怪異パンデミックが発生しなければ、実際にそうなったと考えられます。



   ◇◇◇



◆中村陸号(なかむらろくごう)


 怪異・魔物・人狼/32歳→41歳/埼玉県出身


 東欧発祥の怪異人狼。日本の怪異分類「妖怪」には属さず、「魔物(モンスター)」に分類されている。


 ツーブロックに短い顎鬚が特徴。スポーツ好きのためか年中日焼けしている。

 スポーツマン風の容貌ではあるものの、戦闘は全くの苦手分野で変化能力以外にこれといった異能は持たない。嗅覚だけは平均以上らしい。


 狼としての姿は、タイリクオオカミとニホンオオカミを混ぜたような外見で、かなり小柄。栗色のふさふさした毛並みが特徴。


 荒事が苦手な一方で、人間社会への順応力は高く怪異同士のコミュニケーションも得意。

 長らく東京都西東京市でボードゲームカフェ『ロックペーパーシザーズ』を営みつつ、修行中の若い怪異のホストファザーを務めたり、『人狼ゲームを楽しむ人狼の会西東京支部』のまとめ役を務めたりしている。


 出身は東欧ではなく、埼玉県の山奥の生まれ。珍しい日本生まれの人狼ということになる。

 恐らく日本の妖怪のイメージも多少取り込んで顕現した存在と思われる。


 同時に顕現して兄弟同然に育った人狼が他に、「壱号いちごう」から「捌号はちごう」まで七体いる。彼はその六番目にあたるため陸号と呼ばれる。

 苗字は名づけてくれた人間から借りたもの。


【製作小話】


 強さによって地位を築いた怪異以外に、「弱いけど社会的に一目置かれている怪異」を登場させておこう、と思って造形したキャラクターです。

 瑞鳶は彼をホストファザーとして信頼していますが、それは陸号が、人間社会で困ったらきちんと警察や学校などに相談出来るタイプだから、とのことです。



◆ペトラ・コンヴァリンカ


 怪異・魔物・人狼/57歳→66歳/チェコ共和国出身


 チェコに生まれ、そこから旅立って長らく旧ソ連圏を回ったのちに日本へとやって来た人狼。

 日本では東京都三鷹市で東欧料理を出すバーなど数店舗を経営しつつ、ソ連から逃亡した若い人狼を保護したりしている。また、『人狼ゲームを楽しむ人狼の会西東京支部』のメンバーで陸号の良き助言者。


 戦いも得意だが、人狼の寿命は人間とほぼ同等で加齢による衰えも訪れるため、以前程は動けないと語る。


 狼としての姿は灰色混じりの白毛で、普通のタイリクオオカミとほぼ同等の大きさ。

 人に変化すると、白髪の混じるブロンドをひっつめた、やや恰幅の良いスラヴ系の女性の姿となる。狼の時も人の時も瞳の色はグレー。


【製作小話】


 コンヴァリンカはチェコ語でスズランという意味があるそうです。


 ペトラの経営する三鷹の東欧料理のバーは本編で出したかったのですが、今のところチャンスがありません。


 志津丸は最近まで十代だったので客として来店してはいませんが、ペトラの手料理はご馳走された事があります。

 また、ミケと雁枝は客として店を訪ねた事がありますが、一度目は少年少女の姿で出向いたため事情を知らない従業員に摘まみ出されかけ、二度目は猫の姿で出向いたためやはり摘まみ出されかけました。


 怪異が人間社会でやっていく場合、カフェや小さめの飲食店を経営するケースが多いです。

 怪異同士の互助のための飲食店経営は、正式な身分証を持たない怪異でもある程度お目こぼしされやすいという社会通念があるようです。

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