8:登場人物について (5)

◆ハナコ


 怪異・幽霊または妖怪/推定70歳(外見年齢11歳)/身長145cm/岩手県出身


 日本で最も有名な「学校の怪談」の担い手。

 11歳前後の女児の姿で、赤い吊りスカートにおかっぱ頭という出で立ちのまま70年以上を生きている。


 嗜好や性格に子供っぽさを残すものの、一方で任侠の親分のような人格も併せ持つ。魂のベースとなった人間の子供は実在したと推測されるが、それ以上の分析は進んでいない。

 最初に顕現した場所は岩手県内。そこから何度か住処すみかを移すうちに、子供の思念から生まれた放浪怪異たちの面倒を見るようになり、やがて現在の縄張りに落ち着いた。


 拠点とする旧戌亥いぬい小学校校舎には強力な結界を張り巡らせている。

 また、攻撃や呪いをかける際には自分の影を膨らませ、多数の子供の影を作り出して相手にまとわりつかせる。

 本気を出せばこの『影の子ら』によって地面の中や水中まで引きずり込む事も出来る。


 好物はチョコレート系のお菓子とカルピスとラムネ。

 また、重度の猫好き。ミケは度々、腹毛から肉球まで撫でさせる事で交渉時に彼女の譲歩を引き出している。


【製作小話】


 ご存じトイレの花子さんです。

 個人の幽霊+小学生がイメージする「オバケ」の集合物、という設定なので、より不特定多数らしい雰囲気にするため片仮名表記にしました。

 一人称が「ハナコ」なのが特徴です。


 怪異は寿命がまちまちで、人格も必ずしも年齢に合わせて熟達するとは限らず、ずっと子供の意識のままだったり、突然若返ったりもします。

 人間の研究者によっては彼女のようなタイプを精神混濁型と分析したりもしますが、怪異の感覚では、同族に襲いかかったりしない限り暴走とも混濁とも見做せない、普通の範疇のようです。



   ◇◇◇



◆リンダラー


 怪異・妖怪または精霊/推定50歳(外見年齢22~23歳)/タイ王国ナコーンラーチャシーマー県出身


 タイで広く知られる精霊「ピー」の一種族、ピー・ガスー。

 普段は人間と変わらない外見だが、首と内臓を身体から切り離して浮遊する事が出来る。

 なお、首から上は悩ましげな眉に長い睫毛、厚めの紅色の唇が特徴的な大変な美女。


 浮遊時は常に淡く赤く発光しており、異能発動時には特に強烈な光を放つ。

 この光を目にすると、人間は身体を強制的に弛緩させられ意識を失う事もある。

 怪異の場合は霊威によって編み上げた、無機物への憑依などの術を強制解除させられる。また、精気を収斂させて作る武器を分解する事も可能。


 強力な異能だが、目を瞑って光を見なければある程度回避出来る上、身体を切り離さないと異能を使えないため身体の方が無防備になるなどの弱点もある。


 故郷では旅行会社勤務。会社に正体がバレているが、特に気にされていないらしい。

 職業上語学に堪能で、日本語、英語、フランス語など多くの言語を話せる。

 趣味はショッピング。好物はガイヤーン(タイ風焼き鳥)。


 生まれた時から対となる存在を持つ「夫婦妖怪つがいようかい」で、パートナーであるピー・ガハンから一定時間・一定距離引き離されると精神の均衡を崩し最終的に暴走、他の怪異や人間を襲うようになる。


◆チャチャイ


 怪異・妖怪または精霊/推定50歳(外見年齢22~23歳)/タイ王国ナコーンラーチャシーマー県出身


 タイの精霊ピー・ガハン。


 ざるに変身する事の出来る怪異。本性は人間に近い姿で、背中に竹細工のような質感の四枚のはねが生える。翅の形はカブトムシのものに似ている。


 翅はかなり平たく畳めるが、それでも上半身に服を着ると窮屈らしく、普段は草を編んだアクセサリーやストールだけを身につけている。


 リンダラーと対照的に、物質や霊威を編み上げる異能を持つ。

 特に風を編むのが得意で、天狗のような暴風を起こしはしないが、空気のクッションを作ったり、飛翔しやすい通り道を作ったりといった事が可能。


 呑気な性格で、農家の納屋や勝手口に忍び込んでは農具を勝手に修繕し、代わりに食事を用意してもらう(時にはつまみ食いをする)日々を過ごす。

 農閑期は笊の姿で寝ている時間が長い。


 そんな暮らしぶりなので貨幣経済に合わせた生活は苦手で、人間の通貨が必要な場面では概ねリンダラーに奢ってもらっている。


 趣味は昼寝とアニメ鑑賞、好物はカオマンガイ(タイ風鶏飯)。


 日本語はリンダラーから教わった他、タイに移住した日本の妖怪からも教わったと言う。群馬県出身の化け狸であるらしい。


 これほど温和な気性でも、パートナーのリンダラーから引き離されると暴走は避けられない。


 夫婦妖怪つがいようかいは顕現する時も場所もほぼ同じで、生まれた時から互いをパートナーと認識しているため、おしべとめしべが一つ所に育つ花の構造にしばしば例えられる。


【製作小話】


 この作品を書くにあたって、あまり日本のフィクションで見かけない海外の怪異も出そうと決めていたので、初期から登場を考えていたキャラクター達です。


 本来、ピー・ガハンは両腕に笊を付けて杵にまたがって飛ぶという、作中のチャチャイとはいくらか異なる外見をしています。

 また、霊威を「ほどく」「編む」という二人の能力は本作オリジナルのものです。


 あまり原点のイメージから離れた形のキャラにするのも問題かなと思ったのですが、結局本作では大分現代ファンタジーらしい設定にしてしまいました。



   ◇◇◇



◆一色綾(いしきあや)


 怪異・幽霊/享年22歳


 顔を覆う長い髪に耳まで裂けた口、血痕の飛び散ったベージュのロングコート、片足のみのパンプス、両手に錆びた鎌という出で立ちの、「ただの幽霊」。


 聖物化された鎌に小型結界によって縛り付けられており、常時暴走状態で怪異相手でも会話は成立しない。


 無差別に人間を殺傷しながら徘徊する他、肉体にダメージを受けた際には怪異の本能として、他の怪異や人間の血をより強く求めるようになった。


 生前は普通の女子大生で、栄玲えいれい大学に在籍していた。

 准教授の遠藤周えんどうあまねとは深い仲だったと推察されるが詳細不明。

 遠藤の薦めもあり、軽い気持ちで反怪異系の思想サークルに入ったが、遠藤とサークルメンバーの共謀により長野県の別荘地で殺害される。


 その後、聖物と小型結界を利用した怪異実験の被験者第一号として、幽霊に顕現させられた。


 彼女が悪霊化し、多摩地域無差別連続殺傷事件の加害者となった情報は公開されていない。

 が、一部のマスコミがスクープ報道。出版社が遺族から提訴されたり、陰陽庁の捜査を受けるなどの事態となった。


 被害者である根岸だが彼女には同情的で、一連の報道に心を痛めている。


【製作小話】


 登場シーンは僅かですが、第一部は事実上彼女を巡る事件を追う形で最後まで引っ張ったため、かなり重要な役どころとなりました。

 第一部ラストも彼女らの遺体の発見で締めくくっています。


 外見のモチーフは口裂け女です。

 現代ファンタジーだから日本現代史らしい怪異といえば、という事でこちらのモチーフにしましたが、分類上は妖怪ではなく幽霊になります。


 多分この世界では、現実世界でいうところの「口裂け女の噂」は発生しなかったものと思われます(本物の怪異事件を誘発するので、怪談や肝試しは取り締まりを受ける場合があります)。



   ◇◇◇



◆山本康重(やまもとやすしげ)


 怪異・幽霊または妖精/300〜360歳


 戦国大名・北条氏に庇護された名刀工とその子孫の思念が、刀鍛冶の精として顕現した怪異。


 元々は複数の幽霊で、それぞれの鍛えた刀に取り憑いていた。

 しかしある時一斉に刀から祓われたため、丁度発掘調査中だった山本氏ゆかりの鍛冶場跡地に幽霊が集まり、改めて一個体として化けて出た。


 柿渋色の素襖すおうを身につけた、働き盛り頃の男性の姿を取る。能楽に用いる小飛出ことびでの面を被っていて、素顔は見えない。


 生前の康重(二代目)は、のちに「血流し十文字」と呼ばれる名槍を鍛え上げている。槍は北条家の重臣の所有となり、この重臣を康重は武士として深く尊敬していた。


 八王子城の合戦ののち、槍の主は家族ともども討死。主の無念を浴びて、槍は呪物の怪異と成り果てる。

 北条氏滅亡後、徳川家に仕える事になった康重は、この槍を見つけ出して自身の鍛冶場へと持ち帰り、手厚く弔った。

 が、槍の怨念は永らく顕現し続け、やがて両者はお互い怪異となって再会する。

 康重の心境は複雑なものだったと思われる。


【製作小話】


 今の所、台詞のあるキャラクターとしては唯一の実在の人物です。

 恐れ多いので登場させる前に八王子城跡地まで行って、北条氏照ほうじょううじてるおよび家臣の墓所にお参りしたりしてきました。


 戦闘に参加するようなキャラではないのでバトル向きの異能は発揮しませんが、刀に取り憑いていた時には、刀剣の状態を良好に保つ力をそなえていました。


 本編「猫と死霊の剣舞」のエピソード後も鍛冶場跡の発掘現場に出没し、気まぐれにスコップを磨いたりしています。

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