第34話 プロローグ

「うっ!」

 胸痛が和らいだ後、激しい飢餓感に襲われた。

「どうしたのベル?」

「私を殺せっ! もう私は人食いの獣に成り下がったんだ」

「まさかオスカーニウムのせい?」

「あれは副作用のせいで、食人衝動を持ってしまうんだ。もう私も抑えられない」

「そんな……」

「早く殺してくれ。頼む」

 ベルの目は苦痛と悲しみで満ちていた。



 アリスは彼女の望みを聞かず、じっと睨みつける。

「アリス。なんで近づいてきてるんだ!」

「お前は日本一強い女に勝った女なんだぞ。薬の副作用くらいなんだっていうんだ」

「やめろ。くるな」

 アリスが自分の身を顧みず近づいてくる。




「はぁ……もうっ、もう止めてアリス」

 アリスはベルを乱暴に掴み、抱き寄せた。


「もう死なせない。あんたと私を引き裂くものはないんだから」

 ベルは芳醇なアリスの香りに耐え切れず、噛みついてしまう。

「ぐっ」

「アリスっ!」

 アリスは噛みつかれても、その力を緩めることはない。むしろ、その力は強くなっていく。



「アリス、無茶だよ。そんなことしたら失血死しちゃうよ」

 アリスはステラの言葉を聞き入れなかった。

「そうだ。ステラの言う通りだ。早く私を殺して……」

「殺さない。私が国のトップになるからあんたは私の傍にいて支えなさい。これは総理命令よ。いい?」

 ベルは今まで堪えていた感情のせきがきれる。

 アリスはその感情を静かに受け止めたのだった。

 



 三年後。 

 総理大臣に就任したアリスは荒廃したネオ日本を再建するために奔走していた。

 彼女の甚大な努力と、その他の人達の協力によりネオ日本は落ち着きを見せつつあった。

 総理官邸にて。

「ベル。落ち着いてきたし、今度の休み、同窓会? 女子会? でもしない」

「良い案だ」

 ベルはアリスの誘いに応じた。

 オスカーニウムの末期症状が出て、回復することはないとされていたがアリスとステラの協力の下でオスカーニウムの副作用を回復させるアンチオスカーニウムの開発に成功する。

 それにより、ベルはジェンダーを失ったが元通りの日常生活を営めるレベルにまで回復したのだった。


「それじゃ僕が店を決めておくよ」

「適当な店でいいじゃない」

「今の君は総理大臣なんだよ。アリス」

 アリスはステラに指摘されて黙り込んだ。



「だが君が戦友に気を遣わせたくないというのなら、安い価格帯の店で食事を取れるように工夫しよう」

「結構よ。私が持つわ」

「いや。私達で持とう。ステラはどうする?」

「この流れで僕だけはっていうわけにも行かないじゃん。僕だってベルと同じ秘書なんだからさ」

「それで行きましょう」

 とアリスが話を求めた。



 東京帝国ホテル。

 レストラン。特別客席。

 アリス、ベル、ステラの三人は招待した三人が来るのを待ちかねた。

「やぁ。久しぶりだね。ネオ日本の雰囲気、この三年ですごくよくなったよ」

 オーブリーは出会い頭に、アリスのことを褒めた。


「皆のお陰よ。フランスで生活しているみたいだけど、どんな感じ?」

「変わったことはないさ。普通に働いて、普通に暮らしてるよ」

「もう日本に帰ってくることはないの?」

「私は姉さんの故郷と共に生涯を共にするよ」

 とオーブリーは返した。



「それなら合間を窺って三人で遊びに行くわ」

「ああ。そうなったら歓迎するよ。まぁ、粗末かもしれないけど」

「人を歓迎する気持ちに貴賤はない」

「そう言ってくれると助かるよ。ベル」

 とオーブリーは憂いを帯びた笑みを浮かべる。


 次に現れたのはカルメンであった。

「久しぶりね。アリス総理」

「わざわざ総理なんて呼ばなくてもいいわよ。カルメン」

「お金払ってくれてありがとうね、と言おうと思ったけど全身複雑骨折の治療費って知ってる?」

「あんた。まだあの話を持ち出してくるの?」

 とアリスはカルメンに呆れていた。


「医療費って入院期間とかで決まってくるわけで、オーラで治癒能力を高めることができる私達は普通の人間より安く済むじゃない」

「獄中で働きながらだったから一か月もかかったわよ」

 とカルメンはアリスに怒りを示す。



「でもここの料金と、とんとんくらいよ。多分」

「あんた。いくらなんでも適当じゃない?」

「カルメン。もう済んだことを持ち出すのはダサいわよ。ということでもう終わり」

「くっ。覚えてなさいよ。アリス」

 カルメンは追及を打ち切られて、不完全燃焼気味だ。


「ところでリーはどうなった?」

「ベル。その件だけど、リーさんの行方は分からないんだ」

「そうか……残念だな」

「時間はかかるかもしれないけど、探してみせるわよ。だから暗い顔しないで」

「すまん。皆で久しぶりに集まったというのに」

 とベルは謝った。



 この後は穏やかな談笑が行われた。

 フェミニズム時代には名家だったL・G・B・T・F家の権力が失われた。そのことにより、G家とT家にいたステラとカルメンは生きやすくなったということ。

 オーブリーはエルルの暮らしていたフランスを旅行して回るということ。

 カルメンはクソオスクリーニング作戦でトラウマを抱えた男性や、Rayperの被害者、偏見を持たれてしまって生きづらさを感じている人を支援する法人を設立したこと。


「楽しかったわ。私は帰るわ」

 カルメンが言い出すと、

「私も帰るよ。もうそろそろ飛行機の時間だから」

 とオーブリーも席を立ち上がり始める。


「それなら私達ももうそろそろ帰りましょうか」

 アリスは女子会が終わることを悟り、ベルとステラに話しかけた。

「そうだな」

「うん」

 ベルとステラは頷く。


 懐かしい戦友と共有する暖かく、穏やかな時間からいつも通りの現実の時間へと帰ろうとしていた。


 その時、このレストランの雰囲気を破壊するような絹を裂くような悲鳴が響いた。



「アリス・F・ミラーはディープステートの一員で、高城麗子は光の戦士だ。地獄にいる高城麗子を悪魔召喚で蘇生し、アリス・F・ミラーをぶっ倒すのだ」

 と高らかに叫ぶ声も聞こえてくる。



「やれやれ。テロリスト共め。ベル、しばいてやりましょうか」

「テロは外道の道理。奴らめ、必ず倒す」

 アリスとベルは個室を出た後、泰然とした足取りでテロリストの下へ向かっていったのだった。





 Fin


 皆様マイケル・フランクリン作フェミと銃を最後まで読んでいただきありがとうございます。



 PVとかハートとか星とかがすごく増えたら続編を書くかもしれません。期待している方は星・コメント・ハートをよろしくお願いします。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェミと銃 マイケル・フランクリン @michelxsasx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ