第3話 パス
「で、どうなったの?」
丸テーブルの向こうから、興味深そうな目で問われた。
俺たちが座っているのは、カフェにあるオープンテラスである。
「俺は『放せ』と判断したよ。『解放』する方の『放せ』」
「どうして?」
「そもそも、王女の『はなさないで』は、どういう意味だったのかを考えたんだ。
『話さないで』の場合は、コッカイギジドウに向かうことを『話さないで』になるよな」
「うん。まあ、そうかな」
「でもさ、敵に知られちゃマズい目的地をわざわざ俺に言うのっておかしくない?」
「ふむ」
「それに『話さないで』の場合、俺に毒犬ナッツを預ける意味も分かんねえ。
最後の希望なんだったら、連れて行くべきだろ」
「それは……連れて行けない、理由があるんじゃないの?」
「だったら、それこそ、毒犬を預けるから、繋ぐリードを『放さないで』だろ」
「ん……、そうなるのか」
「だから、黒スーツたちの要求は『話せ』じゃなくて、『放せ』なんだよ。
まあ、賭けだったんだけどね」
「じゃあ、トイプードルを繋ぐリードから手を放したんだ」
「いや、放さなかった」
「なんで?」
「黒スーツの連中は、地獄のトイプードルに脅えまくっていた。
なぜか?
おそらくナッツは武器なんだ。
しかも強力な武器だ。
武器を持った凶悪犯を取り囲んだ警官が、『武器を捨てろ』と言うのと同じだよ。
素直に捨てたら、次の瞬間、警棒でボッコボコにされちまうだろ。
だから捨てたらダメなんだ。
同じ意味で、ナッツも『放したら』、次の瞬間、俺は消し炭にされていたんだろうさ」
「ん~~」
「納得できないか?」
「でも、まあ、その話が本当だとして、お前は、今、生きているわけだしなあ」
「ああ、実は、それはちょっと違うんだ」
「違う?」
「男は、3、2、1までは数えたんだけど、0と言う前にぶっ倒れたんだよ」
「どうして?」
「消えていた王女が、後ろから鈍器でぶん殴ったんだ」
「はあ?」
「残りの四人も、片っ端からぶん殴って気絶させると、ようやく姿を現したよ。
透明になって逃げたんじゃなくて、追っ手の隙を狙ってたんだな」
「……色々とスゲーな」
「『この者たちが目覚める前に逃げましょう』って手を引かれ、王女と二人で逃げ出したよ。ところが、途中ではぐれちまってさ」
「……って言うことは、会話の方の『話さないで』の可能性も捨てきれないぞ。
不意打ちをするから、透明になっていることを『話さないで』って言う意味で」
「ああ、なるほど。
そういう考え方もあるよな。
俺の話したリードを『放さないで』『放せ』も、結局、想像でしかないからな。
そこで、〇〇を呼んだんだよ。
〇〇なら、本当の『はなさないで』『はなせ』の意味にたどり着くと思ってさ」
俺はテーブル越しに手を伸ばすと、あなたの手を握った。
そして素早く、輪になったリードの持ち手をあなたの手首に掛ける。
あなたが驚いた顔をしていると、丸テーブルの下から、リードに繋がれた地獄の番犬・毒犬ナッツが現れた。
小さな舌をハッハッハッと出し、嬉しそうにあなたを見上げる。
「はなさないで」
あなたにそう告げると、俺はオープンカフェから逃げ出した。
五つの足音が迫ってきたのだ。
この後、五人に囲まれ、銃を突き付けられながら「はなせ」と言われて、あなたはどう答えるのか……。
無事にクリアしたら教えて欲しい。
……パス、通ったよね^^;
はなせ! 七倉イルカ @nuts05
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